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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
旅行 【R15】
132/139

旅行(9)

琉雨(るう)、石を」

洸祈(こうき)の鞄から標準装備の透明な鉱石を取りだすと、琉雨は洸祈の手のひらにそっと置いた。先の尖ったそれは並みの衝撃では欠けず、陣作成に重宝される。

それは逆に言うと簡単な衝撃で人間の皮膚は切れるのだ。

洸祈は畳を外しきったコンクリートの上に尖端を滑らせる。

「こんなことばれたら追い出されるだけじゃすまないだろうな」

「くぅちゃんの人でなしぃ!にーの為だよ!」

遊杏(ゆあん)の頬が膨れる。

「分かってる。二之宮(にのみや)は大切だ」

コンクリートは削れ、そこに白い線、溝が生まれる。作成するのは用心屋にあるメンテナンス用の陣。

素早く、正確に描いていく。


「琉雨、二之宮の縄外すから魔法で動きを封じてくれ」

「はい」

二之宮の縄を洸祈は外し、抱きしめる。

「やってくれ」

背中から青白く光る羽が生えた琉雨を中心に形成される魔法陣。

そして、

禁縛(きんばく)―」

と、

「駄目だ!琉雨!」

洸祈は慌てて二之宮を押さえた。

陣は消え、琉雨は駄目だと言われてポカンとする。

「どうしてですか?普通の人にはこれが一番魔力を使わずに…」

「普通じゃないんだ。こいつの魔力は桁外れなんだよ。やったら俺の魔力がなくなるギリギリになる」

「魔法使いなんですか!?」

「こいつは特別さ。普通じゃない。俺のような普通の魔法使いじゃない」

「……分かりました」

次なる方法を考えて唸る琉雨。


「うーちゃん。ボクチャンに任せて」


遊杏だ。

彼女は二之宮の前に立った。

「…杏」

「杏ちゃん…」

「くぅちゃんには魔力を消耗させたくないから。ボクチャンもにーを助けたい」

遊杏は許可を求めるように洸祈を見詰める。

それを拒む理由は無い。洸祈はゆっくりと頷いた。

「倒れても、俺には二之宮のメンテナンスに使う魔力しかないぞ」

「ボクチャンはにーのおかげで生きているんだよ?…ありがと、くぅちゃん」

「無理するな」

「うん」

少女も頷く。

『対象を決定』

波色の瞳が二之宮を捉えた。二之宮の体が洸祈の腕の中でピクリと反応する。

するのは説明は簡単なこと。しかし、実行するのは大変なことだ。


運動神経に直接刺激を与える。


『解析開始』

無機質な声音。

『対象の神経を確認……縛ります……』

幼い少女の額に汗。

『…縛りました』

見た目には違いがないが、二之宮は立つ以外の行動を失っていた。

「成功か」

安堵の溜め息を吐く洸祈。

「杏ちゃん、大丈夫?」

琉雨は顔を青くする遊杏に手を添える。

「うん」

しかし、遊杏は紺に瞳の色を戻すとがくっと琉雨に凭れた。

「杏ちゃん!」

「杏!」

「大丈夫にゃー」

零れる笑み。

弱々しく、しかし、はっきりと遊杏は応える。

「頑張ったな」

「にーが大好きだからっ!にーの笑顔がだいだい大好きだからっ!」

「治してやる」

遊杏は無表情の二之宮を見上げて言った。





「じゃあ、後は俺一人でするから」

洸祈はポケットから紙幣を2枚取り出して琉雨に渡す。

「でも」

琉雨は紙幣を手にして食い下がるが、洸祈は曖昧な表情で頭を掻いた。

「その…なんだ……居ても問題ないが…問題があって…な」

言いにくそうに洸祈は言う。

「ボクチャンはにーと一緒にお風呂入ってるからにーの裸くらいなんともないもん!」

遊杏はほっぺを膨らまし、琉雨はほっぺを赤くした。

「あーあ」

洸祈は遊杏の神経のず太さを忘れてた。

「うーちゃんだってくぅちゃんの裸くらい見たことあるでしょ?」

……………………………………。

「杏!」

「な、ないよぉ!!!もぅ…だって一緒にお風呂入ったことないもん」

ジー

遊杏が目を据わらせて洸祈を見る。洸祈は目を逸らした。

やめろ、俺は琉雨を女性として見ているんだ。

とは言えない。

「ほら、終わったらすぐ呼ぶから。杏はよくても二之宮がよくない」

そんなことないよ。そう言った彼女は琉雨を引っ張って行った。

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