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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
旅行 【R15】
129/139

旅行(7)

「君達なぁ…」

と、リヴァに貸し切った大広間に連れていかれ、何故か、シュヴァルツ商団の宴会に加わる洸祈(こうき)達4人。




「部屋に戻りたい」

二之宮(にのみや)は、数少ない商団の女性に囲まれて青白くした顔で、アレンの隣で酒を飲む洸祈に抱き付いた。

「え?」

真っ赤な顔の洸祈は二之宮の頭を撫でて笑う。

酔っている。

崇弥(たかや)…飲み過ぎ」

「何で?」

ヘラヘラと笑うと、頭を撫でていた指を二之宮の腰に回してぎゅっと逆に抱き締めた。

「連れてってくださいよ。(れん)

酒を飲まないアレンは溜め息を吐いて洸祈の肩をツンと押せば、洸祈は二之宮に完全に凭れる。

「僕は一日の大半が家なんだ。無理だよ」

「リヴァさんと飲み比べなんてするから」

アクアは完全に伸びた洸祈の瞼に濡らしたタオルを乗せると、アレンを呼んだ。

「アレン、足を持って」

「俺が?」

サーモンをひと切れ口にすると、口をモゴモゴして不満顔をする。

「アーレーンが!!」

「はいはい。アクアの言う通りに」

アレンはぐでんぐでんの洸祈の足を持ち上げた。

「あ、軽い?」

予想外の軽さにアレンは顔をしかめる。

「この人、ちゃんと食べてるんですか?」

「ホントに軽い…」

アクアも目を見張る。

「食事にもあまり手を付けていないですし」

豪勢な料理も、食べたのはお雑煮ぐらいだ。

広間の隅に横たえ、座布団を枕代わりに頭の下に敷いたアレンは浴衣越しに洸祈の体をまさぐった。

「贅肉が皆無。これが俺のライバルですか」

シュヴァルツ商団、護衛は再び溜め息を吐く。そんな時にアクアは言った。

「アレンは案外あるよね、贅肉」

…………………………………………………………。

「グルメと言うのです!」

それにしても…

「蓮なら分かるのでしょうね」

隠された母性本能を擽るのか、中年のおじさんに人気の琉雨(るう)遊杏(ゆあん)に部屋に戻ることを伝える二之宮は洸祈に関して言えば、本人までも知らないないことを知っているほどの物知りだ。

それは異常なほどに。

「洸祈にあそこまで執着しているのですから」


机を叩いた彼は一言目にこう言った。

『今度、洸祈の過去を口にしたら許さないよ』

波色に光らせた瞳が憎しみの色を持ってアレンを睨み付ける。

『それに、詮索はやめろ』

その場にいたものは確かに見た。

二之宮の中の巨大な力を。

静まり返るその部屋で、ふっと息を吐いた彼は俯き、前髪で表情を隠すと、次に顔を上げた時には爽やかな青年の笑顔に戻った。

『はじめまして、シュヴァルツ商団の皆さん』


「崇弥…伸びるなら部屋で伸びなよ」

宴会の席を出ようとそろそろと端を歩く二之宮は「もうかよ。なさけねぇなぁ」と騒ぎ足りないらしいおじさん達に愛想笑いをして洸祈の傍に腰を下ろした。

二之宮は唸る洸祈の額に手をあてて呟く。

「蓮。疲れているんじゃありませんか?」

買ってきたらしい紅茶のペットボトルを口にあてたアレンは喉を上下させて訊いた。

「人ごみには…」

「ではなくて」

「?」

「なんとなく…そうですね…心が。精神的に疲れているのでは?」

身体的に疲れているのか…はたまた不機嫌なのか、半眼の二之宮はアレンをただ見やる。

「僕が心の病を抱えているとでも?医者の僕が?自分の体調管理すらできていないと?」

「そうではありませんって!俺たちはどんなに辛くてもこういう宴会の時、一時だけだけど消えた故郷を忘れてまた明日もがんばろうって思えるんです。貴方は旅行だと言うのにそれを感じない」

「旅行は楽しいさ」

「本当に?貴方の笑いは…酷く冷たい。どこかで焦っている。今だけでいいから全てを忘れて―」


「忘れなんかできるか!!!!」


突然、蓮は怒鳴った。

辺りがシンとなる。仲間を片っ端から捕まえては飲み比べを申し込むリヴァも口を閉じた。

「がんばろう?こっちはそんなんじゃないんだよ!!あんたらみたいにのうのうと生きてるんじゃないんだよ!!!」

叫ぶ二之宮。

静まり返り、誰もが身動きを止めた中ですくっと立ち上がった人物がいた。





「アレン」





リヴァは一言。


「―…っ」

苦い顔をしたアレンは二之宮の首筋に添えた剣を腰に収めた。

流石の二之宮も、消されかけた自らの命に冷や汗を流してその場にへたりこむ。


それで緊張が解けたのか、商団の面々は宴会を再開する。



「アレン、むきになるな」

リヴァはアレンを引きずって二之宮から離れさせる。

「むきになんか―」

「それがむきになっていると言うんだ」

「だって俺らは誰ものうのうとなんか生きていない!…です」

「そうだな。私達は誰一人として過去の苦痛から解放されていない。皆、誰かを、帰る場所を失っている。ただ、蓮は私達のようにこうやって酒を酌み交わし、騒いで疲れをとることはできないんだ」

リヴァの視線の先の二之宮は俯き、その震える指先は覚めたのか、薄目を開ける洸祈の手のひらを握っていた。

「洸祈との関係には踏込まれたくないんだよ。なんとなく元気付けようとして無理して誘った私が悪かった」

「いえ…団長は…」

悪くないとアレンは伝えようとする。

「そうですよ。洸祈君、リヴァさんとの飲み比べを楽しんでましたし。洸祈君が笑えば、蓮君もきっと笑うと思うんです。だから、誘って正解だったと思いますよ。それに、琉雨ちゃんも遊杏ちゃんも楽しかったって言ってくれました」

不器用なアレンの隣に座ったアクアはにこりと笑んだ。

「ありがとう。アクア」

リヴァも笑う。










「おいっ!」

「ごめんね。洸祈…」

「謝るくらいなら、突然抱きつくなよ」

「今日は………疲れた」

「二之宮?」

「僕は…忘れない…忘れられない…」




僕は………―




あの男の言いなりにはならない。捨てたあいつなんかの言いなりには…




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