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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
旅行 【R15】
126/139

旅行(5)

「なんてことがあったな」


「あったね~…あっそこ、もうちょい右…そこそこ。うー」

洸祈(こうき)が肘に込めた力を強くすると二之宮(にのみや)は唸った。

「心配したんだよ。ま、男達がさ、崇弥(たかや)の方にギャルみたいな女が行ったって言った時から心配は消え去ったけどね」

肘でマッサージしてもらうために背中を向けていた二之宮は転がって洸祈の方を向いた。よっ。という掛け声と共に起き上がると洸祈を押し倒す。

「次は僕の番」

「別に俺は…」

「人間の身体に詳しい僕は、君を悩ませるあらゆる凝りに効くツボを的確に適切に突くことができるんだよ」

「だから別に凝ってないって」

抗議する洸祈を二之宮は引っくり返す。

「お客さん、あちこち凝ってますね。何処からいきますか?」

「きけよ!」

「う~ん」

二之宮は背中を反らして喚き発てる洸祈の頭を畳に押さえ付けると、その背中を枕にして天井を見上げて寝た。

「静かだね…」

「そうだな…」

「今の僕達は幸せだね」

「うん」

洸祈は向きを変え、腹に二之宮の頭を乗せて天井を仰ぐ。

森の間を抜けて、窓から入る太陽の光は二人を温かく包み込む。

「期待から…仕事から…追ってくるもの全てから…今の僕達は切り放されている」

「このまま…は……無理なこと…この幸せを満喫しなきゃだな」

「眠くなってきちゃった」

二之宮はくわっと欠伸をすると洸祈の横に体を横たえた。洸祈は二之宮の金に輝く頭を撫でる。それに擽ったそうに頭を振ると体を密着させる。

「僕にも崇弥にも休みが必要。二人に貰った時間。一緒に寝よ」

遊杏(ゆあん)琉雨(るう)が気を利かせて作った二人だけの時間。

「二之宮、温かい」

太陽光の温かさとその光を吸収した二之宮の頭の温かさに瞼を下ろしかけた洸祈は呟く。

「崇弥も温かい」

顎の前に赤ちゃんのように手を丸めた二之宮は洸祈の胸に頭を埋めた。






紫水(しすい)!』

これは僕か?

『待ってよぉ』

なんで僕は笑ってんだ。

なんで僕は楽しそうなんだ。

なんで僕は…

なんでだよ…

そいつは…

紫水は……




「ん~…る…ぅ」

「………………崇弥」

二之宮はその光に目を瞑った。

西陽。

「……もう夕方か…」

「る…うぅ」

洸祈は二之宮を抱き寄せる。二之宮はされるがままで洸祈の肩に頬を摺り寄せる。

「琉雨ちゃんは富豪煉葉(れんば)家の跡取り息子、煉葉璃央(りおう)護鳥(ごちょう)琉歌(るか)を母体とした崇弥の護鳥。護鳥は契約主の魔力を使用してあらゆる攻撃から契約主を護る魔獣の一種」

誰に聞かせるわけでもなく、ただただ言う。

「崇弥、知らないのかい?魔獣は確立した意識を持たないんだ。つまり、琉雨ちゃんのように笑ったり怒ったり泣いたりする護鳥は存在するはずがないんだ。あるのは契約主を護るという行動だけ」

琉雨ちゃんは護鳥なのか?

護鳥ならば何故、確立した意識を持っているんだ?

母体の琉歌に何かあるのか?

そして、これらのことを深く考えるとある答えに辿り着く。


「琉雨は宝白(ほうはく)の弟子であり、愛娘」


洸祈は起き上がると乾いたタオルを掴んだ。

「風呂入ってくる。夕食まで入ってくるからよろしく」

「へ?知ってたの!?てか夕食までって!?3時間以上入るつもり!!?」

「See you.」

バタン

「まっ…てって」

有無言わさずに洸祈は部屋を出てった。

それはそれでショックだったが、もっと衝撃的なことがあった。

「まさか知ってたなんて…宝白か…琉歌がカミサマなのは分かってたけど…煉葉璃央はとんでもないのを従えてるんだな……いや、力だけじゃない。煉葉璃央には宝白が護ってもいいと思わせるだけの魅力があるのか………そして、琉雨ちゃんもカミサマなんだよな……」

二之宮は琉雨が背負ってきたリュックに目を留める。

見た目、年相応の可愛らしいピンクのリュック。アクセントに黄色の花。

「崇弥が琉雨ちゃんに選んだリュック」

琉雨が可愛いなって呟いてたから。

それが、洸祈が琉雨に買った理由。

「琉雨ちゃんは他のカミサマと似ても似つかない。多分きっと琉雨ちゃんは自分がカミサマだとは知らないんだね。まだ、カミサマとなりきる前に宝白が洸祈に託した…ということか…」

それが何を意味するのか。

二之宮には分からないが、これだけは言える。



氷羽(ひわ)に関係しているんだろうな…」




二之宮は、泣きながら全てを話した幼い洸祈の姿を思い出す。




『ごめんなさい…』





直ぐに頭を振り、思考を飛ばすと、二之宮は腰を上げた。

「鍵は二人に渡してあるし、3時間耐久温泉。うん、風呂に行こっ」

バタン

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