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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
旅行 【R15】
122/139

旅行(2)

「おっふろ~、おっふろ~。行こー、うーちゃん!」

「うん!」

ばたん

仲良し二人組は賑やかに風呂に行った。

洸祈(こうき)は浴衣に着替えると備え付けのお茶菓子を食べながらテレビを見ていた。

風呂に行ってもいいのだが、二之宮は商団となんだか話しに行ったため、この部屋を空にすると鍵を持たない琉雨(るう)遊杏(ゆあん)が入れなくなるのだ。

「早く帰ってこないかなー」

「そんなに待ち遠しかった?」

鍵を持っていたらしい二之宮(にのみや)はドアを開けて、ボールペンと色々書いてある紙を持って部屋に入ってきていた。

「二之宮。待ち遠しかったよ」

二之宮は目を真ん丸くする。

「本当に?」

「あぁ。俺は風呂入ってくるから、琉雨と遊杏が風呂から帰ってくるまで留守番よろしくな」

洸祈は言うだけ言うとタオルを掴んで二之宮の横をすり抜けた。二之宮は呆然と洸祈を見送る。

「留守番…」


風呂はいい。

体を伸ばせば一気に疲れが取れる。

「っ…」

お湯に使った肩の痕がチクリと痛みを持った。左手で右肩を掴む。そうすると痛みは消えた。

と、

「うぅぁああ!!!」

バシャン!!!!

誰かがお湯に墜ちた。

「大丈夫か!?」

聞き覚えのある声。

大丈夫なわけがない。洸祈は湯気で曇る視界に目を凝らした。

「あれは…アレン?」

そう、アレンだ。彼は風呂を覗き込んでいる。ということは、墜ちた誰かは…

「大丈夫か、レイン」

「大丈夫、な、わけない、でしょ」

案の定、自称アレンの兄のレイン・テューマだ。

彼は水を顔から滴らせながら淵を囲む岩に手をついた。

「貴方も居ましたか」

アレンが洸祈の姿を認めるとそろそろと湯に入った。

「何度来ても慣れませんよ。知らぬ人と湯を共有するというのは」

洸祈の隣に腰を下ろした彼は白い息を吐いてぼやいた。

「部屋の風呂使えばいいじゃねぇか」

「レインが一人じゃ嫌だと言うから」

「僕は日本に来たのなら日本の習慣に合わせるべきだと」

郷に入りては郷に従え。ということだろうか。

「お久しぶりです、洸祈さん!」

レインはキラキラした瞳を洸祈に向けると小さな体を洸祈の隣に収めた。洸祈はアレンとレインに挟まれる格好になる。一人で寛ぎたい洸祈は心中で溜め息を吐いた。しかし、その要望は直ぐに叶うことになる。

「暑い…」

「僕もです」

顔を真っ赤にした二人は虚ろな瞳でふらふらと脱衣場へ向かって行った。

「大丈夫か?」


大丈夫じゃなかった。脱衣場からおじさん達の騒ぎ声が聞こえる。

『大丈夫か。兄ちゃん』、『完全にのぼせとるな』、『こっちこっち、運んで』、『アレン、レイン!』、『すみません。部屋に運びます』、『俺も手伝うよ』とライルらしき声も聞こえた。

「賑やかだなぁ」

洸祈は沈み掛けた夕陽に目を細めた。このまま7時からの夕食まで居ようかという気になる。

「それもいいかもしれないな」

独白。

お湯の温かさと1月の寒さ。露天風呂は何時間でも居られる。一人になった風呂で洸祈は目を閉じた。

「あんまり寝てなかったしな…」

眠い。

眠い。

「風邪ひくよ。(せい)

……………………………………。

「二之宮!」

二之宮だ薄暗いが彼が居るのが分かる。洸祈は思わず後退った。

「留守番はどうしたんだよ」

「二人が帰ってきたから、ちゃんと防犯に念を押して来たよ。ところで君は何時間風呂に入る気さ。僕は君が僕を待っててくれたんだと思ったんだけど」

「待つかよ!」

「まぁいいや。こっちきなよ。眠いんでしょ?こっちの方が寝やすい」

風呂に寝やすい場所なんてのも変だが、事実、そこは寝やすい。洸祈は渋々、そこに座った。

「ちゃんと起こすから」

そう言って平らな岩に乗せた洸祈の頭を二之宮は撫でた。

「うん……お願い。(ろう)

洸祈は完全に意識を夢の世界に飛ばした。




足の裏が擽ったい。いや、気持ちいのかもしれない。

「良く分かんない…」

「へ?何が?」

目を開けると二之宮のポカンとした表情が見えた。

「何してんの?」

二之宮が洸祈の足を持ち上げて見ていた。意味不明だ。

「あ、これか。こんな時じゃないと全身は診れないからね。足にはツボが集まっている。そこを突けば君の疲れも少しはとれるし」

「露天風呂だよ?疲れは風呂に浸かってればとれる。二之宮こそ、仕事してたら疲れが溜まる一方だ」

「ま、診終わったとこだし、僕もゆっくり風呂に浸かるとするかな」

流れるように洸祈の横に座る二之宮。くすんだ金髪。同じ金と紺のオッド・アイ。長い睫毛。細い四肢。

「歌姫だな」

「のぼせてきたんじゃない?」

二之宮は宙に出したままの冷えた手で洸祈の頬に触れた。

洸祈自身どうしてこんなことしたか分からない。洸祈は二之宮に凭れていた。二之宮は肩を竦めて洸祈を支える。

「顔、赤い。もう出よう」

「やだ。まだ…狼が疲れてる」

洸祈は二之宮にすがり付く。

「清がそんなんじゃ、僕はゆっくり休めない」

「俺は大丈夫」

すっかり幼くなった洸祈はにへらと柔らかく笑う。

「清…」

二之宮はしょうがないので洸祈を支えたまま寛いでいるふりをする。洸祈はそれを見てすっかり気前を良くして自ら二之宮にくっついた。

「清、近い」

「近い、近い。狼が近い」

洸祈は意味もなく楽しそうだ。

「困ったな」

「歌を歌って。沢山、沢山、沢山の歌を」

まるで子供。

のぼせている洸祈は目を輝かせる。

「歌が聞きたいのかい?」

「うん」

「じゃあ、お部屋で沢山歌ってやるよ」

「うん!」

洸祈は勢いよく立ち上がるとふらりと傾いた。予期していた二之宮は洸祈を支えてやる。

「……頭が…くらくら…する」

「だろうね」

二之宮は脱力した洸祈を脱衣場まで運び、椅子に横たえた。

「寒っ。冷えるな」

急いで服を着て、寝ている洸祈をどうしようかと考える。

「寒い」

洸祈が体を縮こめた。

「まずは…髪を拭くかな」

タオルを見付けて二之宮は優しく拭いてやる。

「う?」

「意識回復した?」

「ここは…」

すっかり目が覚めた洸祈は半裸で二之宮の前で寝ていたことを察して、二之宮からタオルを奪うと小さくなった。二之宮はその行動の早さに呆れるしかない。

「何にもしてないよな!」

洸祈は真っ赤な顔で二之宮を睨む。

「何にもしてない。寧ろのぼせた君が歌ってってくっついてきた」

「うそ!?」

「疑うなよ。嘘ならもっと甘いストーリーにするから。ほら、着替えないと風邪ひくよ」

「分かったから外出てろよ!」

「温泉で見られるのが恥ずかしくて外に出ろと言われるとはね。分かったから早く着替えてよ。もうすぐ夕食だから」

「んー」

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