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通信中…(2)

―店の二階―居住区のリビング。

酒に付き合うついでに由宇麻(ゆうま)を夕食に誘うと彼はとても喜び、琉雨(るう)の作った料理を美味しそうに食べた。

「うまいなー琉雨ちゃんの料理は」

「ありがとうございます!」

「肉じゃがのじゃがいも!軟らか過ぎず、固過ぎず。味沁みてて最後まで肉じゃがや!」

一口食べる度に長々と喋る由宇麻。最初は呆れていた洸祈(こうき)だが麦茶についてまで話し始めた瞬間、流石にいらっときて由宇麻の口に梅干しを3つ突っ込んだ。

「ゆっくり食事が出来ないだろ!これでも食ってろ!!!!」

「何を!?…………ん!!!」

絶句。

すると、由宇麻の口数が減った。

洸祈はお猪口2つと―何を勘違いしたのか依頼成功のお礼として貰った―日本酒2瓶をテーブルに置く。

「酒や!」

由宇麻が子供のようにはしゃいだ。



「琉雨は飲むなよ」

洸祈は顔をほんのり赤らめて少女の姿で隣に座る琉雨の頭を撫でようと手を伸ばした。

「何が“ルーは”ですか!!旦那様はまだ未成年ですよ」

琉雨は立ち上がって洸祈の手を避けるとまだ開けられていない日本酒1瓶を抱えた。そして洸祈を睨む。洸祈は所在無げに手を空中に漂わせると、どさりとソファーに凭れ掛かった。

「付き合うって言っちゃったしな」

洸祈はお猪口片手にソファーの背凭れに頭を乗せて呟く。

「だからって」

「もうやめるから。ほら、司野(しの)あんなだし」

ぐいっとお猪口に残っていた酒を飲むと洸祈は由宇麻を指差した。

ソファーに横になって、由宇麻は幸せそうに口を開けて寝ていた。

「由宇麻さん、どうするんですか…」

洸祈は一言で返す。

「放置」

「え!?」

危うく瓶を落としそうになって琉雨は慌てて持ち直した。

「明日土曜日だし。もし、仕事があっても勝手に出てけばいいし。起きられるかはどうかは知らないけどな」

にやりと洸祈は愉しそうに笑った。

「起きられなかったらどうするんですー?」

「笑うとこじゃないです」と琉雨は頬を膨らます。

「ま、いいんじゃないか?たまには休みも必要だ。あーゆー、真っ直ぐな奴には」

「旦那様、由宇麻さん気に入ったんですか?」

琉雨の質問に洸祈は目を見開く。やがて、その瞳を閉じると微笑した。

「選ぶような言葉は好きじゃないけど…俺は司野を気に入ったよ」

伸びをすると洸祈はまだ空ききっていない日本酒の瓶を掴む。

「琉雨もですっ、由宇麻さんイイ人です!」

「…………………」

琉雨の言葉を聞いた瞬間、お猪口に入れた新たな酒を一気に飲み、沈黙した。琉雨は小さく首を傾げる。

「旦那様?」

「俺、こいつ気に入らない」

先程と真逆のことを不機嫌そうに半眼にして言う。

「へ?何でですか!?」

またもや危うく瓶を落としかけて…否、落とし、洸祈が間一髪で掴む。

「寝る」

掴んだ瓶をテーブルにトンと置くと、洸祈は空ききっていない瓶を掴んで立ち上がった。

「もうやめるって言ったじゃないですか!!」

「気が変わった」

「気が変わった。って、旦那様は未成年ですよ!?お酒飲んじゃいけない歳なんですよ!?」

琉雨は洸祈の手の瓶を掴んで取り上げようとする。しかし、洸祈の握力に小さな琉雨が敵うはずもなく、瓶を引っ張っていた彼女は手を滑らせ、勢い余って床に尻餅をついた。

「ひゃう~」

「自業自得だ」

お猪口を片手で弄り、欠伸を噛み殺した洸祈は、うるうるとした瞳で見上げてくる琉雨を見下ろした。

「うっ…う~………旦那様の意地悪馬鹿ぁ!分からず屋ー!ルーは旦那様の体を思って言ってるのに!なのにー!!!!旦那様のあほー!もう、ご飯作らないもん!!インスタントばっかり食べてお腹壊せばいいんだー!!!!」

琉雨は言いたいことを大声で叫び泣き始めた。リビングに琉雨の高い声が響く。

「おいおい、泣くなよ。琉雨」

「ルーは泣いてないもん!怒ってるんだもん!!」

言いながら琉雨は涙をぼろぼろと溢す。

「泣いてる」

「泣いてないもん…泣いてないもん…」

洸祈は肩で溜め息を吐くと琉雨の前にしゃがんだ。

「ほら、俺が悪かったから。これで許してくれないか?」

「ふぇ?」

琉雨の赤くなった鼻先にチョコレートを翳す。

「チョコ、ですか?」

「チョコ、だ」

「ルーは物じゃ吊れないですっ」

「じゃあ、要らないのか」

ポケットに戻そうと…

「要りますっ」

琉雨は洸祈の手から掴み取って、包装を剥がすと口に入れた。が、

「ん~、ん~、ん~」

目をぎゅっと握って洸祈の胸を叩く。

「何?」

ぐっ

強く手を握り込むとチョコレートを喉に通した。

「どうした?」

「これアルコール入ってました…」

「はぁ!?何で吐き出さなかったんだ!」

洸祈が怒鳴ると琉雨はびくっと肩を竦めた。

「だって、一度口に入れたものだから…」

「お前は毒だと分かっても口に入れたからって食うのか!?」

洸祈の語調が荒い。

「それに、旦那様から初めて貰ったものだから…」

言葉が出ない。

「…考えてみれば俺はお前から貰ってばっかりでお前にあげたことがなかったな」

「違います!!」

酒に弱いのか琉雨は早くも赤くなった顔で言う。

「ルーは旦那様に沢山貰ってます!旦那様は私に命を、家族を、名前を、温もりを…沢山、沢山貰ってます!!……はぅ~、頭が…つまり、琉雨はチョコを食べたかったから食べたんですっ」

「…つまり、琉雨は酒の味を知りたかったと」

肩を震わせて洸祈は俯く。

「違うですぅ」

「……っははは、あははは」

顔を上げると盛大に笑う。とても愉快そうに笑う。

酔いが回ってきたのか…はたまた…

「琉雨、もう寝ろよ。後片付けは俺がやっとくから」

「明日にしませんか?旦那様、お顔真っ赤です」

床にへたりこんだ琉雨は洸祈の腕を掴んだ。洸祈は時計を見ると、琉雨のその手を掴んで立ち上がらせ、その勢いで持ち上げて肩車をした。

「ひゃっ!!」

「ちゃんと頭でも掴んでろよ」

琉雨は洸祈の頭を抱くようにしがみついた。

「どこ行くんですか?」

「寝るんだろ?司野と一緒にリビングは危険だからな。俺の部屋に来いよ」

「いいんですか?」

「いいもなにも、ここは俺達の家だからな」

「旦那様、大好きっ」

「おい、前が見えない!」

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