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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
短編2
118/139

条件(4)

朝から千里(せんり)が部屋にいた。

洸祈(こうき)の部屋は本来二人部屋だが相方は居らず、入居者待ちだ。正確にいうなら洸祈の部屋だけが、入れる気もないのに入居者待ちだ。

「洸ー」

千里は部屋に二つある内の現在使用者がいない方のベッドに腰掛けて両足をぶらぶらさせながら壁を見て呟いた。

「何?」

洸祈も不法侵入の彼を怒ることなく囁いた。

「別にぃ」

感情の抜け落ちた瞳で千里は言う。その間も休むことなく足を遊ばせて、ベッドを軋ませた。

「あのなぁ」洸祈が少しだけ言葉に抑揚をつけて言いかけた所を千里に割り込まれた。

「洸ー」

二度目の言葉。

「んー?」

力の抜けた体をベッドに任せて洸祈は息を吐き出すように言った。

…―洸君、おはよう―…

透き通るような不気味な響きを含む声。

「ちぃ、やめろ」

洸祈は千里に背中を向け、布団に頭までくるまったまま呻いた。

「ちぃじゃないよ」

「千里、やめろ」

…―ぼくは千里じゃない―…

「おい!」

苛立った洸祈は布団を下げて顔を出した。本気で怒ろうとした洸祈の前には千里がいた。彼は洸祈に馬乗りになり、無表情で洸祈を見下ろしていた。

「千里!」

…―ぼくは千里じゃないって言ってるだろ!―…

退かそうと伸ばした手は払いのけられ、千里は洸祈の首に手をかけた。

「っ!!」

雪のように白くて枝のように細い手首。洸祈はギリギリと締める手を退かそうとするがびくともしない。

「…っ……だっ…れ…だよ…っ」

…―忘れた?忘れたの?洸君―…

忘れてない。忘れるわけがない。ただ、本当にあいつか知りたかった。

洸祈ははたりと抵抗をやめた。腕が糸の切れた操り人形のようにベッドに落ちる。

千里の顔がかくっと首を傾けた。

…―どうしたの?―…

千里の締める力が少し弱くなった。

「…っゴホッ…ゴホッ」

体が空気を欲して洸祈は噎せた。咳で折れ曲がろうとする洸祈の体を千里は押さえ付ける。

…―どうしたの?―…

逃がすつもりはないらしい。しかし、洸祈が抵抗しない理由も訊きたいらしい。

洸祈は跳ねる鼓動を落ち着かせてから瞳を閉じたまま笑んだ。

「俺はお前に殺されて当然のことをしたんだ」

これでお前の気が晴れるのなら…。

…―ふ~ん。じゃあ、やめた―…

千里あっさりは顔を上げると洸祈の上から降りた。

…―洸君、覚えておいて。ぼくは君を一生、赦さない―…

それが現実。許されるはずがない。

…―だから殺さない。その罪を背負い続けるんだ―…

千里が背を向けて出て行こうとする。

「せん―」

バタン。

ドアが閉まった。


罪が重い。

俺はまだ解放されない。

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