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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
短編2
117/139

条件(3.5)

洸祈(こうき)は隠し事をしている。誰よりも近くにいる(あおい)にも千里(せんり)にも。

しかし、これだけは分かる。その隠し事は洸祈を苦しめている。少しずつ洸祈を壊していっている。

「何があったんだ」

璃央(りおう)は窓に寄りかかる。

首を回して洸祈の部屋のドアを見た。教授室に向かってもいいのだが、もう少しここに居たい。

先程荷を洸祈に渡したために手持ちぶさたになった右手を、闇に浮かぶ月に伸ばした。

届かない。否、届くはずがない。しかし、届いて欲しい。

…………………………………。

「……うっ……っ!……あっ!」

誰かの呻き声。

「洸祈!」

洸祈の部屋からだ。

ドアを他の寮生が起きないよう叩く。

「洸祈、洸祈!」

璃央の呼び掛けの間も洸祈の苦しそうな声は続く。

「おい、洸祈!」

ドアを蹴破りたくなる衝動を押さえて呼び続ける。

「っう………………………」

「…洸祈?」

止まった。洸祈の呻き声が聞こえなくなる。治まったのか?

「今夜はもう洸祈を苦しめないでくれ」

璃央は月に向かって沈痛な面持ちで吐き捨てると、その場を後にした。



布団の上からでも分かる。

洸祈は右肩を押さえていた。時折、本当に少しだけ痛みに顔を歪めた。些細な表情の変化。だからこそ痛々しく見えるのかもしれない。

自分以外の人間の“思い”は知ることは出来ない。

相手の心を読む魔法もあるとはいうが、そこから読み取れるものが“思い”とは思わない。何故なら読み取る者が何処かで無意識に脚色をしていると思うから。

しかし、もし“思い”を知ってしまったとしたら…幸せ、恐怖、喜び、憎しみ…全てを知ってしまったとしたら……

「…私は向き合えるのだろうか」

「…煉葉(れんば)君?」

「っ!!はい!」

「どうしたんだい?」

大先輩である明瀬(あかせ)教授が白くなった頭部を掻きながら眉根を曲げて心配そうに璃央の顔を覗き込んでいた。

ぼんやりしていたらしい。

洸祈が肩の痛みに枕に顔を押し付けて必死に叫びたいのを抑えている姿を想像してしまったら物思いに耽っていた。

「いえ、何でもないです」

璃央は慌てて開いたままの口を閉じた。

「何でもなくないよ。集中しないと命落とすよ」

ほれ。と璃央の手の中の試験管を指差す。

反応を起こして泡立つそれは無意識に傾けた試験管から溢れそうだった。

「うわっ」

璃央は慌てて手首を捻った。

「疲れているんじゃないかね?今日は辞めようか」

「いえ、私は大丈夫ですから」

「大丈夫って…いいかい?」

教授はカチャカチャと実験機具を鳴らして既に片付けをしながら話し始める

「君が扱っているのは少しでも肌に付着すれば爛れ、目に入れば手当ての間もなく失明させるものだ。実験では少しの不注意が命取りとなるんだ」

ひょいっと璃央の手の内の試験管を掴んで冷蔵庫に入れた。

「いつも通りこの部屋のソファー使っていいから、もう休みなさい」

明瀬教授は教授室の鍵を璃央に投げて寄越すと颯爽と出ていった。

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