条件(3)
『学校内で揉め事は起こすなと言っているだろ』
…―すみません―…
俺じゃない。あの馬鹿な先輩のせいだ。
『だから櫻の出来損ないとの接触も許可してやってるんだ』
…―すみません―…
許可される覚えはない。ちぃは俺の親友だ。
『あれしきの魔法に何故対応出来なかったんだ』
…―すみません―…
中野をもう立てなくすれば良かったか?
『昔のトラウマごときで』
…―すみません―…
お前ら全員、丸焦げにしてもいいんだ。
『無理矢理越えさせてやろうか?』
…―すみません―…
ほっといてくれ。越えなくてもお前らぐらい簡単に。
『お前は部屋で大人しくしてろ』
…―すみません―…
言われなくても大人しくするさ。
『卒業すればいい。ただそれだけだ』
…―すみません―…
そのつもりだよ。金で動く軍の手駒に迷惑はかけない。
『契約、忘れるなよ』
…―すみません―…
契約?違うだろ。脅迫だろう。
『使えん奴め』
…―すみません―…
だったら今すぐ俺を解放しろよ。
『ここにいる間はちゃんと命令に従えよ』
…―すみません―…
俺に命令するな。
ガチャ
洸祈は靴を乱暴に脱ぎ捨てると、明かりも付けずに暗い部屋に入った。
食器棚からグラスを掴んで蛇口から水を入れると、喉に流し込み、そのまま流しにグラスを置いてベッドに倒れ込む。
疼く右肩を左手で強く掴み、重い頭を枕に沈めた。
コンコン
控え目なノック。
「洸祈、私だ。帰ってるんだろ?」
知っている声。ベッドから降りようとした時、寒気を感じたので布団で体を包むとドアをゆっくり開けた。些か失礼だが、小さい頃からの知り合いだ。問題ないだろう。
「……………璃央」
「…飯」
一瞬だけ驚いた表情をすると、璃央はスーツ姿で売店の袋を洸祈の顔の高さまで上げた。
「いらない。食欲ない」
洸祈は首を振って俯く。
「なにも今日食べろなんて言ってないだろう。腹減ったら食べればいい」
そう言って強引に袋を洸祈に押し付ける。洸祈は布団から片手を出すと渋々袋を受け取った。
「有り難う。じゃあ」
洸祈が閉めかけたドアを璃央は止めた。
「葵と千里と霧海が夜中に寮を抜け出してここ訪ねようとしてた。翡翠寮は消灯時間以降の無断外出の罰則が厳しいからな。私が念入りに止めておいた」
「そう。璃央、明日も自宅出勤なのにこんな遅くまで待たせてごめんな」
「別に。1時から教授の実験に付き合わないといけないから帰れないんだ。休んでるとこ起こして悪かったな」
璃央はドアにつっかえさせていた腕を抜いた。




