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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
短編2
115/139

条件(2)

琉歌(るか)!」


バチッ


電気が弾く音。

全身は白銀。嘴は銀色。瞳は深紅。しなやかに曲がる首や優雅に広げられた翼。

大きな白鳥の姿をしたそれは翼を広げて食堂に堂々と降り立った。


璃央(りおう)先生」

千里が無理矢理取り巻きを掻き分けて現場に乗り込む。

洸祈(こうき)!おい、洸祈!」

璃央が洸祈の肩を掴んで揺すぶっていた。

そんな二人の足元に転がるのは中野(なかの)だ。全身をひくひくと痙攣させているところを見るとどうやら璃央の護鳥(ごちょう)、琉歌の電撃にやられたようだ。

「洸?大丈夫?」

「……ちぃ、璃央」

瞳を閉じた洸祈は近くの椅子にぐったりと座る。

遅れて都月(つづき)がやってくる。取り巻き集団から脱け出すのに苦労したようだ。

「洸祈君!」

「都月か」

目を開けずに喋る。

「洸祈、大丈夫?」

テーブルに皆の昼食をのせると(あおい)が水に濡らした自らのハンカチを洸祈の瞼の上に乗せた。

「…サンキュー」

洸祈は暫くその体勢を保ちながら、深い呼吸をした。

その間に中野は校則違反で後から来た教師に引き摺られ、取り巻きと野次馬は火の粉を被らぬよう知らん振りをして食堂を離れていく。


「飯、あげるよ」

洸祈はポケットから小銭を取り出すと幾らか多めにテーブルに乗せる。

葵は無言で頷いた。

「しかし洸祈…一応治療所行った方が」

「いい」

治療所での休息を勧める璃央を手で制して洸祈は立ち上がった。

「良くない。崇弥(たかや)洸祈、一緒に来てもらおう」

「洸は悪くないよ!!」

「挑発に乗ったお前にも責任はある」

厳しい目付きの教師。一切の抗議を聞き入れない。璃央はぐっと息を呑んだ。その態度から分かる、彼には逆らえないと。

洸祈は疲れた目で厳格な教師を見上げた。そして、何も言わずにその教師に近寄った。洸祈の了承だ。

「行くぞ」

教師と洸祈、二人が食堂を去ろうとする。それを阻む物がいた。

「洸祈君は悪くないです!洸祈君は助けてくれたんです!そんな彼が連れていかれるのを私は見ていられない。罰を受けるのは私です!!」

誰でもない霧海(むかい)都月だった。無視して通り過ぎようとする教師の前に立ちはだかる。

「退け」

「嫌です!」

鋭い眼孔に怯まず都月は必死に見返す。

端から見ても分かる。恐怖からくる全身の震えが…

「医学科の小娘が!」

苛々が限界に達した教師は腕で都月を押し退けて進もうとした。

「!」

小柄な都月はバランスを崩して倒れかける。

衝撃を予想して目をぎゅっと瞑った都月は背中に柔らかい温もりを感じて瞳をゆっくり開けた。

「…洸祈君」

「大丈夫だから。もう無茶しちゃいけない」

諭すように洸祈は言う。

都月を立たせると洸祈は真っ直ぐ、反省の色のない教師を見た。

「先生、都月は小娘じゃありません。彼は弱くない。強いです」

「ふん、行くぞ。くれぐれも逃げるなよ」

「逃げませんよ」

呆然とする都月。悔しさに俯く千里(せんり)。同じ教師でありながら止められない無力さを堪える璃央。

ただ葵だけは違った。

「洸祈、ハンカチ。洗って返せよ」

洸祈は振り返らずに手を挙げて応えた。

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