親友
「洸祈、葵」
「何?」
洸祈は振り返り、泥だらけの顔を傾ける。その隣で遊んでいた葵も手を止めて振り返る。
「今日、俺の先輩にあたる人の命日だからちょっと出掛ける。待てるか?」
「命日って?」
葵が首を傾げた。
「命が天へと逝った日だよ」
「じゃあその人死んじゃったの?」
その横であまりにも無表情で洸祈が顔を上げる。
「あぁ、去年な。あいつはいい奴だった。俺をいつも助けてくれた。…親友さ」
そう言うと洸祈と葵を両手で抱き寄せた。
「命日があるのはな。その人を忘れないためにあるんだ」
「忘れてるの?」
葵は腕から顔を出すと、小さな声で呟く。
「いや、俺は忘れてないよ。でも、その人の存在だけじゃなく過ちも忘れないためにあるんだ」
「過ち?」
顔を出した洸祈が尋ねた。
「俺達は忘れちゃいけないんだ柚里の死を……。お前達の泥がついちまった。着替えなきゃな」
立ち上がり際、洸祈と葵は悲しい顔をした父を見た気がした。
「あ!お前達も行くか?」
すると、父は先程とは違う明るい表情で言う。
「何で?」
「亡くなった俺の親友、柚里には千里って言う名のお前達と同い年の息子がいるんだ。俺は柚里に千里を任された。で、どうだ?会いたくないか?」
洸祈と葵は顔を見合わせる。
「葵は?」
「洸祈は?」
二人は泥だらけの顔で示し合わせたように笑った。
『行く!』
「よし!」
父は二人の胴を掴んだ。二人の前に父の顔。父の前に二人の顔。
「まずはその顔を綺麗にしないとな」