デート(2.5)
「甘ったるい」
葵は一口サイズのシュークリームを口に放り込むと眉をしかめた。
「え~。甘くて美味しいんだよ」
そんな葵の傍らで千里は満足そうな顔でショートケーキを口に運ぶ。
はや4個目。
「太るぞ」
ぴたり
千里の動きが止まった。
フォークがカシャンと皿に置かれる。
「千里?」
「あおの馬鹿!」
と、葵のシュークリームの入った硝子の皿を奪い、中身を全て頬張った。
「あ!!なに人の食ってるんだよ!」
「いーじゃん、甘ったるいんでしょ」
ふんと鼻を鳴らしてショートケーキの残りを掻き込んだ。と、止まることはなく…モンブランケーキに手を伸ばす。
「さっきのは冗談だったんだ。千里は普通どころか痩せすぎだって」
ぎろりと千里は葵を睨んだ。
やがて「ほんひょに?」と口を動かしながら訊ねる。
「本当だって」
「………………」
食べるペースが遅くなった千里に葵は呆れるしかない。
シミ一つない白い肌。袖から覗く細い腕。サラサラと頬を撫でる眩い金髪。長い睫毛に宝石のような翡翠の瞳。整った容姿。澄みきった声。
女性が願って止まない理想の姿を千里は持っている。
現に、店に入った時から客達はちらちらと千里を見ていた。驚き、羨み、嘆き…当の本人は目の前のケーキに夢中だが…。
世の中は不思議で一杯だ。
「そこのお姉さん、チョコケーキと…レアチーズケーキと…モンブランと…抹茶ケーキを2つずつ下さーい。あ、待って。抹茶ケーキは4つで」
「まだ食うのか!?」
「うん」
ウェイターが繰り返すのを聞きながら千里は楽しそうに返す。
「だってもうお昼だよ」
12時30分。
「お昼にケーキかよ」
「甘いの苦手なあおの為に抹茶頼んだからね」
「俺にお昼に抹茶ケーキを食べろって言うのか」
「うん!」
葵は腹を押さえた。
あぁ、甘い。