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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
短編2
103/139

デート(2)

「くぁ」

俺は欠伸を噛み殺してチケットを2枚買った。

「ほら」

チケットを1枚、琉雨(るう)の前に翳すと彼女はそれを受け取り、大切そうに胸に抱える。そんな琉雨の腕を引いて館内に入ると彼女は目をキラキラと輝かせた。

「映画館は初めてだよな」

「はひ!劇場は故郷で何回かありますけど映画館は初めてですっ!」

「そっか。あそこにしよう」

前過ぎず、後ろ過ぎず。見易そうな場所を指差すと、琉雨は一目散にそこへ走って行った。

「はしゃぎすぎ」

でも、琉雨が笑っているのなら悪くない。


「くぁ」

今日何回目かの欠伸を噛み殺した。

「ひゃう、駄目です!そっちには!っぐ、むぐぅ」

「黙って見てろ」

叫びたい気持ちは分かるが、煩いと俺以外の人に迷惑だ。

俺は膝に乗る琉雨の口を塞いだ。

暴れなくなったのでやっとこさ離してやると琉雨は「はい」と素直に頷いた。

「いい子だ」

頭を撫でてやると琉雨は目を真ん丸にして俺を見上げる。

何か可笑しかったのか?

「くぁ」

俺は再び欠伸を噛み殺した。


「楽しかったですね」

「あぁ」

俺の自信有りの推理は掠りもしなかったが。

今回も片木啓介(かたぎけいすけ)刑事と秦七海(かなでななみ)教授のコンビが鮮やかに事件の真相を暴いた。

流石。

「次は何したい?」

「旦那様は何かしたいことないんですか?」

琉雨が不安そうに訊ねてくる。俺もそこまで鈍くはない。

琉雨は俺が自分に振り回されているのではと思っているのだ。俺が琉雨の望みたいことだけをしようとするから。

つまり、俺はつまんないんじゃないかと思っているのだ。

現在12時20分。

「昼飯」

「同感です」

「何か食べたいものあるか?」

「パフェ食べてみたいです!」

パフェは昼飯なのか?

「喫茶店だな」

次の目的地は喫茶店。


「チョコだらけだぞ」

「むぐ~」

口の回りをチョコだらけにした琉雨は俺に指摘されて手の甲で口を拭こうとする。

「それじゃあ手がチョコだらけになるだろ」

俺はナプキンを一枚手にすると琉雨の口についたチョコを拭き取った。

「有り難うございます、旦那様」

と恭しく琉雨が頭を下げるものだから…

「あの二人どういう関係だろ」

と窺わし気に見られ…

「琉雨、外で“旦那様”はやめないか?」

「あ、そうですね。何て呼べばいいですか?」

と訊かれても答えられず…

「琉雨の好きにしろ」

「じゃあ……洸祈(こうき)さん」

と提案されあまり変わっておらず…

「別の」

「好きにしていいんじゃないんですかー?」

と尤もなことを言われたので…

「“さん”付けるな」

「無理ですよ。何で駄目なんですか?」

まぁ、“さん”を付けるのは琉雨らしさ…

「特別じゃない」

俺の我が儘だ。

琉雨は冷をコクリと音を発てて一口飲むとじっと俺の顔を見詰めた。

「ど、した?」

「口にチョコ付けてますよ。旦那様」

にっこり笑って琉雨はナプキンで俺の口元を拭いた。

恥ずかしい。

「おい、琉雨!」

「やっぱり“旦那様”がいいですよ。さっきルーが旦那様の口拭いた時の方が恥ずかしかったですよね?」

誠にそうです。

「良い天気だから、次は公園行きたいです、旦那様!」

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