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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
思い出に… 【R15】
100/139

二之宮(8.5)

ツー…ツー…ツー…

「ユ…ウ……」

「どないしたん?」

由宇麻(ゆうま)よりも高い。

梨々(りり)は腰を屈めて由宇麻に抱きついた。

彼女のポニーテールにした髪が左右に揺れて由宇麻の鼻先を掠り、耳朶を撫でる。

瑞牧(みずまき)は眠そうに目を細め、原田(はらだ)は興味深そうににやついていた。

「梨々?」

口を半開きにした由宇麻は梨々の震えに気付き、背中を撫でようと手を伸ばして…

やめた。

梨々が言葉を発したからだ。

小さい声で震える声で…

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

何度も謝る。

誰かに向けて。

彼女の手にした受話器が落ち、由宇麻の視界に入る。

「…(れん)君と何かあったんやな」

「ごめんなさい…蓮……ごめんなさい……」

泣くことを堪えて謝罪する梨々の背中を由宇麻は今度こそ撫でた。


涙を堪えていた彼女は由宇麻が撫でた瞬間子供のように泣き出し、あたふたする由宇麻に瑞牧は溜め息を吐いて昼休みだと言った。

「梨々、大丈夫か?」

「う、うん」

現在、食堂。

なんだか日常となった由宇麻と原田と瑞牧、3人での昼食に今日は梨々が加わっている。

先月できた新メニュー、かぼちゃサンドを頬張った由宇麻は細い喉を目一杯駆使して最後の一口を下した。そして、もう一つの新メニューのじゃがいもサンドに伸ばされた原田の手を打つと、梨々の顔を覗き込んだ。

「ごめんね。突然泣いちゃって…困ったでしょ?」

「それはもう。ね、瑞牧さん」

答えたのは原田。瑞牧に振る。

「え?あ?別に」

ちゃっかり由宇麻のじゃがいもサンドを口にした瑞牧はバレたかと思ってびくっと肩を震わせて言った。

「そうや!別に困ってないで。崇弥と比べたら可愛いもんや」

指がカリカリとないじゃがいもサンドを探して皿を引っ掻くが由宇麻の目は梨々を向いたままだ。

「可愛いだなんて」

ほんのり梨々の頬が赤く染まる。

「可愛いを勘違いしてるし、お前は一体どんな比べ方してんだよ」

原田は目を半眼にして由宇麻と梨々を見据える。

「司野と砂雫石(さしずく)だからな」

瑞牧はそれで納得だ。

「妙に納得ですね」

原田もそれで納得だ。



「ん、お粥」

「黒いけど?」

未だにぐつぐつ泡立つお粥。それは黒かった。

「つべこべ言わずに食えよ!」

「待ってよ!お粥が米の色してないっておかしいだろ!?」

青ざめる二之宮(にのみや)の前に洸祈(こうき)はずいっとお粥を動かした。二之宮は椅子を引いて、それから遠ざかる。

すると、洸祈は二之宮の背後に回り、首に腕をかけてスプーンに乗せた黒い物体を息で冷ましてから二之宮の口に近付けた。

崇弥(たかや)!食えない!食いたくない!!」

二之宮は顔を逸らす。

「食べないとよくならない」

「食べたら絶対悪くなる!っ!!」

口に入るのは名称がお粥の黒い物。

二之宮の顔が白くなる。

「ちゃんと冷ましたし、熱くはないだろ?」

熱くは、ない。

と、二之宮は洸祈の顔を掴むと唇を重ねた。

「!!!?んー!!!!!」

ごくっ

「美味しい?」

二之宮がほくそ笑む。

洸祈はその場に崩れ落ち、へたりと尻を床につく。

「…美味しく……ない。だからって!!!!」

「親鳥は子供に口移しで餌を与える。僕は崇弥に口移しでお粥を与える」

全く説明になっていない。脱力しきっている洸祈の頭を二之宮は撫で回した。

「それ…捨てる」

「ううん。僕が食べる」

「でも、不味いよ」

自身が不味いと感じるものを二之宮には食べさせられない。洸祈はスプーンに手を伸ばす二之宮に悲しい顔を向けた。

無理しないでよ。

「最初の頃の遊杏の料理も斬新だった。遊杏も同じように食べなくていいと言った。でもね、遊杏の傷だらけの指見たら捨てるわけにはいかないんだよ。僕のために…最高の料理じゃないか」

二之宮は洸祈の頭を撫で撫でしながら黒いお粥を消化していく。

「でも、流石に…」

言葉が震えている。

「だから、やめろって」

「お裾分けすればいいか」

「何を!?っ!!!」

またも口移し。

洸祈はお粥を下すと涙ながらに二之宮を睨んだ。

「捨てるのは勿体ない。自己責任って言葉があるし、一緒に食べようね」

二之宮は笑みを絶やさない。

「分かったから口移しはやめろよ!」

「やりたかったから」

さらりと白状。

「馬鹿!」

洸祈は口を固く閉じてスプーンを取りに行った。

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