人形
僕は普通の男の子として育てられた。
親もいるし、兄弟も兄がいる。
親は僕に言う
「貴方は兄みたいにならないでね。」
うちの兄は成人済みだが、働いておらずいつも部屋に籠ってる。
かくいう僕は中学三年生で高校も受験を無事合格して
あともう少しで卒業というところだ。
今日は平日だが、僕は学校が休みで、父も母も仕事へと向かった。
自分の部屋から出て朝食を食べるため廊下へ出た。
兄の部屋のドアを前に少し立ち止まった。
(兄はご飯食べなくていいのかな。)
そんな疑問を抱きながら僕は久しぶりに兄の姿を見たくなった。
「ガチャ」
目の前には髭を生やした兄がドアを開けた。
「…なに?」
「いや、なんもないよ。」
兄は首をポリポリと掻き欠伸もかいた。
「…あぁ、お前はもう卒業か。」
兄は僕の顔や身体をジロジロと観察するように見つめた。
「お前はなるなよ。失敗作に」
そう言って兄は僕を通り過ぎて行った。
俺になるな?何を言ってるのか分からないがそのまま兄に着いて言った。
兄は冷蔵庫からうどん3玉を取り出して
「食べるか?」
と聞いてきた
僕は少しだけ兄に不信感抱きながら小さく頷いた。
頷いた僕を見て兄は黙々とうどんを作り始めた
「俺は元々さー、料理人になりたかったんだよ」
兄は語り始める。
「たださぁ、親に反対されてさ、『お前には無理だ。』『料理は似合わない』ってさ なりたかった夢をさ否定されて、しかも俺さ、高校卒業間近で勝手に就職先を父の職場に決められたわけ」
こんなによく喋る兄を初めてみた。
僕に喋れてるのを嬉しそうにも感じるがその話の内容も相まってか、少しくらい顔で茹で終わったうどんを締める
「それでさ、俺昔からさ、親の言うことを聞くことばっかしてきて反抗なんてしなかったんだ。」
「それは僕も、」
初めて兄との既視感を感じてつい声を漏らしてしまった
「怖いよな!なんか怒られそうでさ」
兄は同情したかのように笑みを浮かばせた
「でもさ、やっぱ父のコネで入ったからか、結構周りからさしつこく悪口や罵倒を陰から時々聞こえるように言われててさ、初めてその時父親に反抗したんだよ。」
「なんて言ったの?」
そういうと、兄は少し笑いながら
「『僕は、お前らの【人形】じゃねぇんだぞ』って」
と話した
「ふふっ」
少しだけ笑みがこぼれた。
「なぁ、お前はどうしたい?」
そう言いながら兄は僕の分と兄の分のうどんを運んできた。
「うーん。まだわかんない。」
兄は少し目線を下にした後、パッとうどんに目線を合わせて
「うどん。冷めちゃうから食べよっか」
と言ってきた。
昔の名残りがあって、僕に優しいお兄ちゃんのままだった。
少しだけで嬉しかった、見た目が変わっただけで何も変わらないお兄ちゃんであることに
ーうどんを食べ終わった後、兄は
「今はまだ、親に会いたくないからさ」
そう言って部屋に戻って言ってしまった。
兄は僕に自分の意思をちゃんと持って欲しいと思って声掛けてきたのだろう。
うどんと同じぐらいの兄の温かさに心まで温まりながら兄と僕の分のお皿と橋を洗いながらその気持ちに浸った。
皿洗いを終わらせて部屋に帰る前に少しだけ兄に感謝を伝えたくて、兄のドアをノックした。
「…どうした?」
ドアを開けない兄はドアの奥から声を出した。
「ありがとうね、うどん。 僕はお兄ちゃんを失敗作なんて思ってないから。」
僕の声を聞いた兄は少し黙ってしまった。
「…なるなよ?人形に。」
僕は少し考えてこう答えた。
「憧れの人が人形なら僕はそれになりたい。」
そういうと照れながら兄は
「人形も悪くないな。」
と答えた。そのあと数秒経った後
「俺は失敗作なんかじゃないのかもな。」
と兄は呟いた。
「大丈夫、お兄ちゃんは人形じゃないから。」
ー次の日
僕は少し起きるのがめんどくさいが、学校へ向かうため体を無理やり起こすように背伸びして自分の部屋から出た。
廊下に出ると兄の部屋のドアが空いてた。
恐る恐る覗いてみるとスーツ姿でボサボサになってた髪を整え、生えてた髭を剃ったお兄ちゃんがそこに立っていた。
「おぉ、おはよう」
僕に気づいて挨拶をしてきて、制服姿の僕を見てふふっと笑った。
「おはよう。」
僕も兄の格好を見ながら少し笑みをこぼしながら答えた。
「俺、もう1回料理人やってみようと思ってさ」
そういった兄を僕は尊敬の眼差しで見つめた。
「俺、もう人形じゃないから。」
そういう兄の目には確かな小さい希望の光が満ちていた。




