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姫!侵入者です!  作者: 南蛇井


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第5話:現場の声

王城・外郭防衛区 詰所


鉄の扉を開けた瞬間、姫は空気の違いを感じ取った。


城内よりも湿っていて、血と鉄と土の匂いが混じっている。


「……ずいぶん年季が入っていますね」


「最前線ですから」


低い声で答えたのは、詰所の中央に立つ男だった。


体格は大きく、鎧は実用一辺倒。無駄な装飾は一切ない。


「外郭防衛部隊隊長、ガイウス・ヴァルドです」


敬礼は最低限。 だが、頭は下げない。


「姫殿下」


姫はその態度を咎めなかった。


「状況報告を」


「ここ三日で侵入四件。全件、指示通り迎撃前に誘導、排除」


ガイウスは壁の地図を指差す。


「死者ゼロ。重傷者もなし」


「優秀です」


姫は即答した。


「……ですが」


ガイウスは一拍置く。


「兵は限界です」


詰所の隅で、兵士たちが無言で視線を逸らした。


「被害は出ていません」


姫の声は静かだ。


「数字上はな」


ガイウスは即座に返す。


「ですが疲労は?」


「数値化しづらい」


「なら言語化します」


ガイウスは一歩前に出る。


「寝不足。判断遅延。集中力低下」


「次の侵入で、同じ対応ができる保証はありません」


「命令は合理的です」


ガイウスは続ける。


「俺も否定はしない」


姫は黙って聞いている。


「だが、現場は命令を“守り切る”ために削れていく」


「被害ゼロを守るために、兵の中身が減っている」


「それでも、被害は出ていません」


姫は繰り返す。


「今はな」


ガイウスの声が低くなる。


「だが次は?」


「次も同じだと、誰が保証する?」


梁の上で、黒猫が静かに尻尾を揺らした。


兵士の一人が無意識に距離を取る。


「……あれは?」


「猫です」


姫は即答する。


「前線に?」


「必要です」


ガイウスは鼻で笑った。


「便利な言葉だ」


「殿下」


ガイウスは敬語に戻す。


「被害ゼロ主義は、机の上では完璧だ」


「だが、ここでは“先送り”に見える」


「壊れないように、壊れるのを遅らせているだけだ」


詰所が静まり返る。


姫は反論しなかった。


それが、兵士たちを一番驚かせた。


「……あなたは、正しい」


姫はゆっくり言った。


「現場の声として」


ガイウスは目を細める。


「だが」


姫は視線を上げる。


「被害が出た瞬間、その“正しさ”は何人守れます?」


「分かりません」


ガイウスは即答した。


「だが、今のやり方も万能じゃない」


「それだけは断言できます」


二人の視線が交差する。


勝敗はつかない。


「報告は受け取りました」


姫は踵を返す。


「命令は維持します」


兵士たちの肩がわずかに落ちる。


「……ただし」


姫は立ち止まった。


「疲労の数値化、提案してください」


ガイウスが目を見開く。


「現場の声を、数字にしてください」


「……了解です」


ガイウスは深く息を吐いた。


「それが、あなたの戦場です」


詰所を出た後。


ノクスが姫の肩に跳び乗る。


「……敵に会った気分です」


姫は小さく言った。


黒猫は鳴かない。


「でも、必要な敵」


姫はそう付け足し、城へ戻っていった。

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