第4話:再会
王城・西訓練場
石敷きの訓練場に号令が響く。
「――止まれ!」
隊列が揃うまで、ほんのわずかな遅れ。 回廊の上からそれを見下ろし、姫は淡々と言った。
「三秒遅い。敵は待ってくれません」
将校が返答に詰まった、その時。
「三秒で死ぬ前提なら、もう少し休ませるべきです」
低い声が割り込む。 空気が一瞬で固まった。
姫は声の主を見る。
短く刈った髪、軍装、まっすぐな視線。
「……レオン?」
「ご無沙汰しております、姫殿下」
敬礼は正確だが、媚びはない。
回想:王立学院・中庭
「それ、机上の空論だろ」
「考えずに突っ込む方が、よほど空論よ」
噴水の水音。 二人は真正面から言い合っていた。
周囲の学生は笑っている。 険悪なのに、どこか楽しそうだった。
現在
「軍代表としてのご意見?」
姫は視線を逸らさずに言う。
「個人の感想です」 レオンは即答した。
「……そう」
姫は訓練場に目を戻す。
「被害ゼロが目標です」
「兵士は数字じゃない」
「数字にしないと、守れない」
言葉は静かだが、間に誰も入れない。
マリアが口を開きかけ、姫の手の動きで止まる。
回想:学院・模擬戦
「前に出すぎ!」
「押し切れる!」
剣が交わり、魔法が飛ぶ。
勝利。
だが、担架が運ばれた。
姫はその場で言葉を失った。
現在
訓練が終わり、兵士たちが散る。
「……変わりましたね」
レオンの声には責めがない。
「ええ」 姫は頷く。
「成長です」
「切り捨てたものも多い」
姫は、ほんの一瞬だけ黙った。
「……必要だった」
言い切りではなかった。
回想:学院・夕暮れ
石段に並んで座る二人。
「誰も死なない勝ち方って、あると思う?」
姫がぽつりと言う。
レオンは即答できず、空を見上げた。
現在
柵の上を、黒猫が歩く。
「……猫か?」
レオンが目を細める。
「ええ。猫です」
「昔はいなかった」
「今は必要なの」
姫はそれ以上、説明しなかった。
ノクスは何事もない顔で通り過ぎる。
別れ際
「それでも、兵士は人間です」
レオンは敬礼しながら言う。
「ええ」
姫は応じる。
「だから私は、数字にする」
レオンは納得しないまま、踵を返した。
エンディング
訓練場に一人残る姫。
遠くで、再び号令が上がる。
ノクスが足元に来た。
「……変わったわ」
黒猫が短く鳴く。
「でも、戻らない」
姫はそう言って、静かに背を向けた。




