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姫!侵入者です!  作者: 南蛇井


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第3話:質の低いモンスター問題

王城・応接会議室


「……で、その“猫”は会議に参加する必要があるのですか?」


魔法協会代表、セオドールは言葉を選んだつもりだった。 だが、その視線は明らかに窓辺で丸くなっている黒猫――ノクスに釘付けだ。


姫は書類から目を上げもしない。


「必要かどうかで言えば、あなた方よりよほど役に立ちます」


「……は?」


「少なくとも、無駄な魔力は撒き散らしていない」


マリアが小さく咳払いをする。 ノクスは尻尾だけ動かした。


「さて」


姫はようやく顔を上げ、協会側を見渡す。


「侵入事件についてのお悔やみ……ではなく、ご挨拶でしたね」


「被害がなかったことを喜ばしく思っております」 セオドールは即座に言う。


「ええ。それだけが評価点です」


「……それだけ、とは?」


姫は微笑まない。


「被害が出なかった。以上。英雄譚も努力賞もありません」


会議室の空気が一段冷えた。


「では本題に入りましょう」


協会補佐官が資料を広げる。


「近年、低位モンスターの発生が増加しております。魔力循環の自然な結果でして――」


「質が低く、数が多い」


姫が遮る。


「料理で言えば、生ゴミを薄めて大量生産したようなものですね」


「そ、それは言い過ぎでは……」


「味もしない、栄養もない、なのに腹だけは壊す。的確でしょう?」


マリアは視線を机に落とした。


「モンスターは自然現象です」 セオドールが言う。


「いいえ」


即答だった。


「管理された魔力環境の“排泄物”です」


「……言葉を選んでいただきたい!」


「選びました。最も実態に近い言葉を」


姫は指先で資料を叩く。


「魔力は自然に巡る? 違う。あなた方が流量を調整している。  その結果、溢れた分が歩いて城に来る」


「我々は世界の均衡を守っているのです!」


「ええ。だから城が迷惑を被る」


「……何を仰っているのですか」


「均衡とは、被害を均等に分配することではありません」


姫の声は低く、乾いていた。


「城が壊れ、民が死ぬ。それで循環が保たれるなら――  それは“守っている”とは言いません。ただの計算不足です」


「質の高いモンスターは、数が少ない」


姫は淡々と続ける。


「行動は単純、予測可能。対処コストも低い。  ですが質の低いモンスターは違う」


「数が多く、統率がなく、無駄に動く」


「あなた方の仕事ぶりにそっくりですね」


補佐官が息を呑んだ。


「魔力を止めれば世界は――」


「止めろとは言っていません」


姫は首を振る。


「“ちゃんと仕事をしろ”と言っているだけです」


「質を上げてください。そうすれば数は減る。  被害も減る。計算も楽になる」


「……それは理論上――」


「理論が現場を壊すなら、理論が間違っている」


その時、ノクスが机に飛び乗った。


協会補佐官が反射的に魔力感知を行う。


「……猫、ですよね?」


「ええ。猫です」


「しかし、この魔力反応は――」


「毛並みがいいでしょう」


姫は平然と言った。


「最近は栄養管理にも気を使っているので」


ノクスは満足そうに喉を鳴らした。


「発生調整について、再検討を約束します」


セオドールが折れる。


「結構」


「ただし」


姫は一枚の書類を差し出す。


「次に被害が出た場合、復旧費用は全額請求します」


「……城が相手ですよ?」


「ええ。だから逃げ場はありません」


協会一行が退出した後。


「……かなり強く出ましたね」 マリアが言う。


「弱く出る理由がない」


姫は椅子に深く座り直す。


「質の問題よ」


ノクスが短く鳴いた。


「……あなたはどっち側なんですか」


「猫は常に合理の味方です」


姫はそう言って、ようやく小さく息を吐いた。


会議室には、被害ゼロの静けさだけが残っていた。

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