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願いは星へ<聖女を探す騎士>  作者: 響子


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2/2

01

聖女ミレイアが消えてから、三年が過ぎた。


世界はあの日、再び光を手にした。

魔物に荒らされた土地にも、人々は少しずつ戻りはじめ、焼け落ちた街の跡には新しい家が建ち、王都の市場には、子どもたちの笑い声が戻りつつある。


復興は確かに進んでいる。

それは——聖女が祈りと命を懸けて守った未来そのものだ。


だが、その未来のどこにも、彼女の姿だけはなかった。



まだ薄明かりの残る早朝、王宮の裏庭にひとりの若き騎士がいる。


アレクト・ソルヴィエル。

王太子の第一護衛として国の中心に立つ男だ。


彼は、誰もいない王宮内の温室の前で剣を振る。

その静かな音だけが、朝の空気を切り裂いていく。


三年の間、彼は毎朝ここに立った。

理由を問う者はいない。

温室には聖女と騎士だけの思い出がある。

聖女が気に入っていた温室の中は、あの頃のように花は咲いていない。


三年前。

光に包まれながら、切なげに微笑んだ聖女の姿。


〈アレクト、もう……大丈夫だよ〉


最後まで誰かを気遣い、自分の痛みを隠して笑った少女。彼は守りたかった。しかし守れず、失い、その悔いだけが胸に残った。


だからこそ剣を振る朝は、いつもほんの少しだけ痛む。



その朝――

彼の視界を、銀青色の小さな光がかすめた。


ひどく儚く、風に揺れれば消えてしまいそうな粒。


露でもない。陽光でもない。

ただひとりの少女が放っていた、あの色。


アレクトだけが知る色。


「……また、か」


そう呟いた彼の手の届くほど近くで、

光はふわりと揺れ、まるで彼を見上げるように漂った。やがて、霧のように静かに消えゆく。


三年の間、誰にも気づかれない微かなこの光を、彼だけは何度も目にしてきた。


聖女ミレイアが聖魔法を使うとき、

必ず放たれていた銀青色の輝き。


先ほどの光も、まったく同じ色だった。


その瞬間、彼の胸はひどく痛む。

忘れられるはずがない――ミレイアの色だ。


その色を見るたび、三年経っても終わらない痛みが静かに締めつける。


触れることもできず、声も届かない光が、

今もなお彼に“あの日の聖女” を思い出させ続けている。

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