00.プロローグ
むかし、この世界が闇に呑まれかけた頃——。
空から光が消え、人々の祈りはどれも虚しく夜に飲まれていった。星々は声を失い、世界はまるで永い眠りに落ちようとしていたという。
そのとき、ひと筋の光が夜空を裂いた。
光はただひとりの少女に宿っていた。
ミレイア・ノクティエル。
いまでは誰もがその名を知っている。
子どもたちでさえ口ずさむ。
“世界を救った星の聖女”の名を。
彼女の祈りは闇を祓い、その光は世界をひとつ丸ごと包み込み、もはや奇跡としか呼べない救済をもたらした。
人々は語る。
「聖女は神に祝福され、星々の間へ昇ったのだ」と。
「いまも世界を見守ってくださっているのだ」と。
そう語り継がれている。
そう信じられている。
……だが、それがすべてではない。
光を放ったその瞬間、
少女がどこへ消えたのか——
ほんとうのことを知る者はほとんどいない。
そして、その真実を胸に抱き、
いまだ彼女の光を追い続ける者がいる。
アレクト・ソルヴィエル。<聖女の騎士>
彼ひとりだけは、あの夜に少女が見せた最後の祈りを、誰より近くで見てしまった。
救いを願うように震えていた手も、痛みにゆがんだ微笑みも、星にほどけて散った光も。
彼は世界から讃えられながら、ただひとりで探し続けている。誰も知らない、本当の行き先を。
祈りの余韻が消える前に。
あの光が完全に途絶えてしまう前に。
遠い空のどこかで、
いまだ彼女が呼んでいる気がして——
彼の旅路は終わらない。
これは、
世界が讃えた“聖女”と、
世界に背を向けて“真実を追う騎士”の物語。
語り継がれる伝承の裏に隠された、
もうひとつの願いが動き出す。




