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7 寒村の決戦②

「うわぁあああっ!」


 ルイスが絶叫と共に、モンスターと村人の群れをかき分けて突き進む。目指すは——鬼。


 振り下ろされた巨木の一撃。それを、まるで風のような身のこなしでかわし、鬼の腕を駆け上がる。

 鋭く踏み込み、全体重を乗せて剣を振り抜いた。


 ゴギッ。


 剣が、嫌な音を立てて鬼の眼球に突き立った。

 鮮血が噴き上がり、鬼が天地を揺るがすほどの咆哮を上げる。


「うぉぉおおおおおおっっ!!」


 ルイスくんも負けじと声を出す。


 響き渡る狂気の咆哮。鬼の意識は完全にルイスに向いた。


「俺が引きつける! その隙に、数を減らせ!」


 ルイスは倉庫からできる限り距離を取り、鬼を誘導する。

 剣と盾をぶつけ、挑発の音を響かせながら、巧みに動き続けた。


 巨体から放たれる拳。ひとつ間違えれば即死。しかし——当たらない。

 鬼の攻撃を紙一重で避け、ルイスは冷静に、そして確実に鬼を翻弄していた。


 ——五分が経過した。鬼は荒い息を吐き、確実に疲弊している。だが、硬すぎる皮膚に剣は通らず、致命打には至らない。


 その時だった。


 ルイスくんの視線を追うようにして鬼が倉庫の上を捉える。

 弓を構えるアンちゃんがいた。自然と大丈夫か目で追ってしまってるのを鬼に気づかれてしまった。


 ニヤリ、と凶悪な笑みを浮かべ、鬼は方向を変えた。


「おい、俺を見ろ! お前の相手は——こっちだっ!!」


 叫び、駆けようとした瞬間。

 方向転換をして隙を突いて鬼の拳がルイスの横腹を直撃した。


 剣が砕け、彼の体は空中を舞い、地面に何度も叩きつけられる。砂埃の中、呻きながら倒れ伏す。


 鬼が追撃をしてくることはない、アイツはルイスくんを見ていない。標的は——アンちゃんだ。


「やめろ……やめろ……! お前の相手は、ぐっ……がはっ……! くそ、体が……!」


 ルイスくんが動けない。声も届かない。

 このままじゃ、アンちゃんが……死ぬ。


 俺の胸がぎゅっと締め付けられる。


 知らない人間ならまだしも、少しでも関わって、笑顔を見たこの二人が……目の前で死ぬなんて……絶対、嫌だ。


 それでも、シロエは動かない。静かに戦況を見つめている。


 俺の怒鳴り声が出そうになるのを、シロエが先に静かに告げた。


「彼が——祈るまで、です」


 鬼の拳が倉庫を砕き、瓦礫が飛び散る。

 アンがひらりと飛び降り、まっすぐに鬼へ向き直る。弓を番え、今度は自分を囮にするつもりだ。


「誰か……誰でもいい……! 助けてくれ……!」


 ルイスの声が、途切れがちに、けれど確かに天に向けて吐き出された。


「——神でも、悪魔でもいい。なんでも差し出す。だから……力をくれ! アイツを倒す力を!」


 その言葉に、シロエが軽く頷く。


「良いタイミングです。ただ——問題があります」

「またかよ!」

「職業だけでは勝てません。彼には武器が必要です」


 くっ、金か! 世知辛いぜ。

 シロエが表示したリストには見覚えのある値段の剣が並んでいた。


 鉄の剣:100万円

 鋼の剣:300万円

 魔鉄の剣:600万円


「鋼で十分な性能ですが……“神が与えた”武器としては、どうでしょう?」


 正直、微妙に見えるかもしれない。

 ——いや、ここは、最高の演出で行くべきだろう。


 俺は黙って、指を動かす。


【妖精剣:1500万円】

 妖精族が鍛えた魔法剣。神秘と力を併せ持つ、霊剣。


「——いけぇ! ぶっ倒せ、ルイス!!」


 ……神っぽくないメッセージを送っちゃった。ごめん。


 光が降り注ぎ、ルイスの体を包む。

 空中に出現した剣が、神々しい輝きを放ちながら彼の手に納まる。


「これは……誰だ……神様……?」


 天を仰ぎ、ルイスが涙を流す。


「感謝します」


 その瞬間、ルイスが風になる。


 軽やかに、滑るように、舞う。

 モンスターを両断しながら、鬼のもとへ、そしてアンのもとへ。


 その視線の先。

 アンは鬼に捕まり、血を流しながらもなお弓を構えていた。


「うおおおおおおおっっ!!」


 ルイスが叫び、鬼の腕を切り落とす。

 そのまま、アンをお姫様抱っこで抱き上げる。


 キタキタ! これだよ!


「ルイス……?」

「大丈夫。遅れてごめん。今度は俺が守る」


 もう、最高すぎるだろ!


 ゆっくりと歩を進めるルイス。たじろぐ鬼。

 斬撃は一閃。刹那。

 刃が鬼の喉を貫き、巨体が崩れ落ちる。


 それを見た残党モンスターたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

 あれがボスモンスターだったんだろう。


「深追いは不要だ。俺たちの勝利だ!」


 村全体が、爆発するような歓声に包まれた。


「やったぁああああああ!! そして……メッセージ、職業、剣、トータル二千六百万なりぃ!!」

「マスター、これから一億円飛びますよ」


 ぐぬぬ、そうだった。


 戦のあとの鎮魂と癒し。

 死者に祈りを捧げ、生き残った者たちが涙を拭う。


 そして翌日——


 村の中心に、村人たちが集う。

 その中央に、ルイスとアンが並び立つ。


「俺は、神の声を聞いた。忘れられたと思っていたこの世界に、まだ“神のまなざし”は注がれていた。俺たちは見られているし、応援されている!だから俺は誓う。この剣に、命にかけて、守り抜く!」


 力強く掲げた剣が、朝日に輝く。


「我ら獣人族はルイスを新たな族長として支持します!」


 獣人達から歓声が上がり、人族のおっさん達からも支持するような歓喜にも似た叫びが送られる。


「人族も! 支持するぞー!」


 うおおおおおおおおおっ!


 歓声が地鳴りのように響き渡る。


「そして俺は、アンを妻として迎える!!」


 ……あぁぁぁ……よかったねぇ……ぐすん。


「マスター、泣いている場合ではありません。今です」


 そうだ。世界樹の種、これを渡す時だ。


「さよなら、一億円!」


 光が、天空から降り注ぐ。

 神の威光をそのまま形にしたような柱が、二人を包み込む。


 そして、ダチョウの卵ほどもある黄金の種が、二人の手元に顕現した。


「神様だ……」

「神の祝福だ……!」


 誰ともなく膝を折り、祈る者たち。

 村は、今まさに新しい時代へと歩み出そうとしていた。


「神様。使命、確かに受け取りました。この種は俺たちが命を懸けて守ります!」


 ルイスくん、ちゃんと意図を汲んでくれてる。ありがとう。

 メッセージ代が浮いて助かった!


「これで、しばらくは安泰でしょう」


 シロエの太鼓判があるなら安心だ。

 

 よし、引っ越しの準備でも始めるか。

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