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5 おかしくなっちゃう

「待機モードのとき、この世界の一日が、異世界では十日分の時間が進みます」


 静かに告げられたその言葉に、俺は思わず息を呑んだ。ってことは、俺がこっちで二十日ちょっとぼんやりしてた間に、あっちは二百日?


 半年ごとに決算って言ってたから、千八百日がひとつのサイクル。つまり、五年。

 五年ごとに世界の命運が分かれていく。


「最終的には、大神が創り上げたシステムにより、幸福度、人口、衛生、教育、信仰……あらゆる指標で、世界が評価されます」


 大神? 俺が出会ったあのセコそうな奴とは格が違うってわけか。

 ちらっと視線を向けると、シロエが示したホログラムには、現在の収入予定が表示されていた。


 十九万円。


 以前は年間四十万だったよな……ってことは、減ってるじゃん!


「で、発展の流れなんだけど。ざっくりでもいいから、聞いても?」

「もちろんです。まず最優先は、魔物の湧き潰しです」


 シロエは一拍置いて続けた。


「完全な根絶は不可能ですが、土地に根付いた“ボス級”の魔物を討伐することで、その地域は“浄化”され、安定します」


「でもさ、食料リストに魔物の肉ってあったし、交易品にもモンスターの皮とか素材ってあっただろ? 減らしちゃって大丈夫なのか?」


「その点も考慮して、ダンジョンの管理が必要です。魔物を減らしつつ、ダンジョン内で素材や魔石を確保してバランスを取ります」


 おぉー、魔石! お約束なやつだな。


「で、さ……お金でゴリ押し、無理かな? 神の力ってことで、はい一括! 浄化完了! 的な」

「可能です。ですが、現実的ではありません。莫大な資金が必要ですから」


 ぬぐっ……やっぱりそうか。


「そのためには、現地の人間に“導き”という形で自発的に解放してもらうのがベストです。ただ、その拠点となる施設をまず築く必要があります」


【世界樹:1億円】


 目を疑った。


「高っっっっ!」


 俺、軽く目眩してるぞ。


「ですが、これは最も費用対効果の高い投資でもあります。一度設置できれば、地域の自動安定が始まります。緩やかではありますがそれは世界にも影響を与えるので、むしろ必須です」

「じゃあ、前はなかったの?」

「ありました。しかし、モンスターの襲撃で腐らせてしまいました。今度は守るべき人員を慎重に配置しなければなりません。建築予定地、人材、すでに候補はありますが……問題もあります」


 流石シロエ。抜かりなし、本当に仕事ができる天使だよ。


 ただ問題って? シロエに導かれるまま、再び異世界へと降り立った。


 一面に広がる草原。鬱蒼と茂る森。その奥に、雲を突き刺すような高い山々。

 どこを見渡しても、息を呑むような光景ばかりでまさに、異世界って感じ。


「こちらです」


 開拓途中のような、小さな村。

 粗末な家々がいくつかあり、奇妙なことに村の中を分断するような柵が張り巡らされていた。


「犬耳? え、マジ! 感動だよ、獣人だ! かわ……もふもふしてぇぇ!」

「お気持ちはわかりますが、まずはこちらへ」


 お、わかってくれるの? ちょっと嬉しい。


 柵越しに、人々が睨み合っている。

 その瞳の中に、怒り、恐れ、そして諦めのような感情が渦巻いている。


「獣人と人族です。元々は疎開民として助け合っていたのですが、人が増え、些細な衝突がやがて火種となり、応酬が止まらなくなりました。今では一触即発の状態です」

「じゃあ、こんな不穏な場所じゃなくて、もっと安全な村とかないのか?」

「この土地は、大陸の端に位置しながらも緑が多く、モンスターのレベルも比較的低い。そして、人口密度も適切です。これだけの条件が揃う場所は他にありません」


 なるほど。この世界で“生き残った人間はもう一万人程度。

 その中で、この村だけで五百人はいるし、人口から考えれば多いよな。


「獣人は繁殖力が高く、戦闘に適した個体も多いです。人族は内政向きの職業・スキルの取得がしやすく、バランスの取れた組み合わせです」


【勇者:10億円】※世界で一人限定

【賢者:10億円】※世界で一人限定


 うおおおおおおロマン職!! ……でも、ロマン価格すぎる。


【戦士:1,000万円】


 お、安……くはない。高いよ! これで一般職?


「導く方法はいくつかあります。たとえば世界樹の種を彼らに授け、それを守らせる。ただし、神への感謝を自然に引き出せるような“演出”が不可欠です。そして、現状の村の空気も整えねばなりません」


 村の様子を観察するため、夜になるまで待機モードへ。

 やがて、森の影で待機する俺達のもとに、ガサガサと草を踏みしめる音が近づく。


 現れたのは、人族の青年だった。彼は周囲を警戒しながら、木陰に身を潜める。


 ——誰かを待ってる?


 少し遅れて、犬耳の少女が現れた。

 二人は言葉を交わすことなく抱き合い、胸を重ね、額を寄せ合う。


 ……うん、これ以上は野暮だな。シロエの視界を手でそっと隠して、その場を離れる。


「こう見えても、私はマスターよりずっと年上です」

「いやでもさ、身長とか見た目的にさ……」


 容姿って言ってもヘルメットで見れはしないけど。頼めば見せてくれたりするんだろうか?


「彼らは、それぞれ獣人と人族の中心人物の子どもです。今のままでは実らぬ愛かもしれませんが、それを叶える方向に動かします」


 恋と政治を絡めるとは、シロエさんマジ策士。


「ただし、時間がありません。周辺でモンスターの反応が活発になっています。このままでは、数日中に村が壊滅する可能性が高いのです。そこで、彼に“役割”を与えます」


【メッセージ:100万円】※20文字まで


 なにこの課金システム……高すぎるだろ!


「メッセージに加えて、職業の付与も必要となります。戦士を推奨しますが、タイミングも重要になってきます。」


 千百万……いやっほぉぉぉ……! 頭おかしくなりそう!


 世界樹と合わせた初期投資はとんでもない金額だ。

 残金は……二億八千万。


 覚悟はしたけど、これはまさに本気の第一歩。

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