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1 プロローグ

 三十四歳、独身。夏。


 家電量販店で働き、家との往復。夜はコンビニ飯にスマホゲーム。

 年収はそこそこだけど、昇進の見込みはゼロ。

 友人は家庭持ちになって疎遠。彼女? もう十年はいない。


 気づけば、人生はただのループになっていた。

 特に不幸でもないけれど、特別なことも何もない。


「……まあ、こんなもんか」


 そんな風に、乾いた笑いがこぼれる日々。

 ガソリンを入れて、いつもの国道をゆったりと車を流しながら帰宅。

 シャワーを浴びて、缶ビール片手にスマホをいじっていた。


「……え?」


 何気なく開いたスポーツくじのサイト。毎試合ちょっとずつ買っていたやつだ。

 そこに表示されていたのは、目を疑うような金額。


 一、十、百、千……七億円。


「七億……!? なな、おく……?」


 とりあえず銀行の残高を確認。

 ……増えてる。ガチで振り込まれてる。


「つねってみる……痛い……! 夢じゃねぇぇええ!!」


 興奮で叫びながら、部屋の中をぐるぐる早足で回る。

 とりあえず上司には「母が危篤なので休みます」とだけメール。悪いが、会社で働く気にはなれない。


「神様ありがとうーーー!!」


「いやいや、それほどでも」

「……え?」


 声が響いたと思ったら、視界が真っ暗になる。

 何もない空間。その中心に、ぼんやり光る人影が浮かんでいた。


「祈りはちゃんと届いたよ。僕は……まあ、神様みたいなもんかな」

「え、ちょ、なにこの展開!? ラノベ? 転生系? 俺、死んだ?」

「落ち着いて。まだ死んでないから」


 神様(仮)は、右手を掲げてポンと光る球体を出してきた。地球っぽいけど、どこか違う。


「君、異世界を買ってみない?」


「……は?」


「要は君のものになる世界。投資対象としてね。君、堅実に生きてきたし、大金をどう使おうか迷ってるでしょ?」

「まあ、株とかには興味あるけど……異世界って何?」

「街づくりゲームみたいなもの。あれをリアルマネーでやる感じ。もちろん収益も出るよ」


 ……なんてゲームだ。箱庭好きにはたまらない。


「……たまらんな、それ」

「だよね? しかも半年ごとに運営報酬も入る。僕が持ってた世界の一つなんだけど、最近ちょっと手が回らなくなってて」

「でも、なんかワケありって感じですね? 残しておいてもいいんじゃ?」

「正直、今は年間百二十万くらいの収益なんだ。でも、うまくやれば数億も狙える。手放すには一億円かかるし、住人が死んじゃうからさ。君らの基準で言えば、クレカの整理みたいなもんかな」


 うーん……年間百二十万なら悪くはない。でも、問題は価格だ。


「五億円のところ、特別に四億でどう?」


 怪しい。そんな軽々しく一億割り引くのか? それにしたって億って高いよ!

 考え方次第では四億で世界を一つ買えるってのは安いのかもしれないけど、ポンと出せる金額じゃない。


「……じゃあ、三億でいいや! 今なら天使もつける!」


 なにそれ、サービス特典かよ。


「十秒以内に決めてね! はい、10、9、8――」


 ちょっっ! まっ!


「……買った!」




 気がつくと、自分の部屋に戻っていた。

 天井、壁、冷蔵庫、狭い風呂、全部そのままだ。発光体がトイレにいることもなかった。


「……なんだったんだ、あれ。夢だったのかな」


 ポケットの中に違和感。スマホ……? いや、俺のじゃない。

 顔認証を勝手にしてくれたようでロックが外れ、部屋中に立体映像が広がった。

 まるで未来SFのような光景だ。かっこいい。


 その中心に、銀色のフルフェイスヘルメットをかぶった白髪の小柄な少女が浮かび上がる。


「あなたが新しい神様ですね?」


 小学生くらいだろうか? ちなみに声が信じられないくらい可愛い。


「か、神様では……ないけど。君が天使?」

「はい。AG80034です。これより貴方のサポートを開始します」


 AG80034って、型番かよ。


「名前はないの?」

「お好きにお呼びください」


 うーん、どうしよう。

 彼女の特徴、ヘルメット、美声、白くて綺麗な髪。


「よし、君の名前はシロエ、でどうかな?」

「問題ありません。神様のことは、何とお呼びすればよいですか?」

瀬川せがわ なぎが名前なんだけど、お兄ちゃんなんてどうかな?」


 ヘルメットで視線は読めないが、明らかに嫌そうな空気を醸し出している。

 機械的な対応かと思いきや、感情があるじゃないか。


「じょ、冗談だよ。じゃあ……マスターってことでどう?」

「了解しました。これより、マスターのための異世界運営を開始します」


 貴方が私のマスターか? そうです、俺がマスターです! なんちゃって。




 この瞬間から、俺の異世界経営ライフが始まった。

 ──酷い世界を三億円で買ってしまったことなど、まだ知る由もなく。

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