宇宙ウイルス
雲一つない青い空の下。街は変わらず平和であった。
子供は交差点を駆け回り、大人たちはカフェのテラス席でコーヒーを嗜む。
そんな変わらない一日の正午。
突然"それ"は現れた。
「おい!何だあれ!?」
誰かが空を指差して叫んだ。皆が彼の視線の先を見ると空には『未知の物体』が浮かんでいた。
金属音を響かせながらホバリングする銀色の奇妙な物体。
それが現れた瞬間、街に悲鳴が飛び交った。
「UFOだ!!」「マジで!?本物か!?」「やばっ!写メ撮ろ写メ!!」「皆さん!私はただいま緊急で動画撮ってます!!今、私の目の前には……」
ニュースやSNSは即座に速報を流し、この情報は瞬く間に世界に広まる。
『未確認飛行物体、A都市に飛来!!』『A国の陰謀か!?謎のUFO出現!』『速報・UFOがA都市の上空に出現』
『モノホンのUFO出たんだがwww』『A都市にUFO出現!これ加工じゃないよ! #UFO』『緊急生放送・UFO現る』
タグは一瞬にしてトレンドを埋め尽くしA都市のみならず世界中が大パニックとなる。
そして、その恐怖は『現実』のものとなった。
『ウィーン』
『カシャン』
金属音が聞こえたかと思うとUFOの底部が開いて噴射口が露わになる。
そしてそこから噴き出されたのは緑色の煙。
煙はガスのように宙を舞って街に降り注ぐ。逃げる暇なんてない。街の人々は咳き込みながら目と口を抑える。
「ゲッホ、な、なんだこれっ!?」
「クサッ…!苦しい…!ガス…!?」
その時、『ウィーン』と再び機械音が聞こえたと思うとUFOの先端からアンテナの様なものが伸びて、空中に巨大なビジョンを映し出す。
そこに映るは異形の三人。
緑の肌に黒い目の宇宙人。中央に立っている者が、冷酷に宣言した。
『ーーよく聞け、地球人ども。我々は"リーグ星"の民だ。今、貴様らの街にばら撒いたのは我が星の『死のウイルス』だ』
ビジョンの宇宙人はゆっくりと笑う。
そのウイルスは我々の意思によって活性化する。そして感染者は活性化したウイルスによって………確実に即死する!!!』
沈黙が街に広がる。
しかしそれは一瞬だった。即座に街中に絶望の悲鳴が響き渡る。
「は、はぁあ!?ふざけんなよ!!」 「い、嫌だ!!死にたくない!!死にたくなぁい!!!」 「神様…どうかこの子だけでも…!!神様っ…!!」 「も、もう終わりだ…!み、みんな死ぬんだぁ!!」
宇宙人は絶望に染まる地上のことなど気にも留めず宇宙人は言葉を重ねる。
『今から二週間の猶予を与える。それまでに我々に地球を明け渡せ。でなければウイルスを活性化させて滅ぼしてやる!!』
宣告を終えたUFOはゆっくりと空を離れて、青空の彼方へ消えていった。
残されたのは緑の煙と、混乱と、人々の恐怖だったーー。
UFOが去った翌朝ーー。
A都市に静かな異変が起こり始めた。
ある青年が鏡の前に立って喉元を押さえていた。
「…何だこれ」
喉にポツポツと浮き出ている小さな緑の発疹。
最初は小さな点々のようだったが時間が経つにつれて発疹はどんどん増えていって、数時間後には喉の周囲全体が緑色に変色していた。
そして同じような症状を訴える人々が続出して、街の病院はあっという間に満員となった。
医師たちはすぐに検査に取り掛かり、研究者たちもサンプルを片手に徹夜で分析を始めたが、ウイルスの正体はまるで分からなかった。通常のウイルス反応も細菌反応もない。ワクチンの開発どころか感染経路すら掴めない。
喉が緑になった感染者の数は、時間単位で増加していく。
ーーそしてその翌日、さらなる絶望と混乱が医療現場を襲った。
「せ、先生……その喉……!」
感染者を診断していた医師自身の喉にも、あの緑の発疹が現れたのだ。
「なっ…なに…!?嘘だろ…まさか、俺が……!?」
だがそれは一人ではなかった。
看護師、救急隊員、検体を扱った研究者ーー
次々と"発症"していく。
「……まさか、空気感染か…?」
「いや、それだけじゃない。マスクはしっかりとしていたはずだ。となると接触……?いや、まさかほぼ全ての感染経路を……!?」
「まずいぞ…!もはや、完全にパンデミック状態だ!!」
彼らの予想は的中した。
あの"宇宙人のウイルス"は極めて高い感染力持っていたのだ。
しかもそれはもはやUFOが現れたA都市に限られない。数日経たずして、他国にも感染者が現れ始める。
事態を重く見た国家は非常事態宣言を発令。
感染者の外出を禁じて、濃厚接触者には強制的な隔離命令が出された。
しかし、対応が遅すぎた。
人々は疑心暗鬼に陥り、互いを疑い始める。
喉元に少しでも赤みや腫れがあれば「こいつ感染者だ!」と叫ばれ石を投げられる。
SNSでは"感染者を探せ"のタグが拡散し、発疹がある人の画像が晒し上げられ『国に報告しろ』『近所の危険人物』と糾弾されていく。
「ねぇ!開けてよ!何で一緒にいてくれないの…?パパっ!ママっ!」
『ドンドンドンドンッ!』
ある家では、発疹が出た小さな幼い子供が扉を叩きながら泣いていた。
扉の向こうにいる両親は涙を流しながら、扉の前からそっと立ち去る。
ーー感染するよりも見捨てるほうがよっぽど苦しい。
だが、その選択肢しか残されていなかった。
感染者が更に増え続ける中、政府は最終手段として感染者の「強制隔離政策」を開始する。
軍が街に入り、感染の疑いがある者を片っ端から連れていく。
収容所も建設され、『一度入れば二度と出れない場所』として恐れられるようになる。
「いやぁぁああ!行きたくないよぉ!お母さぁん!!」
「この子だけは!この子だけは返してぇ!!」
泣き叫ぶ子供と引き裂かれる母親。
だが、兵士は目を背けながら言い放つ。
「すまない……だが、感染を防ぐためなんだ……!」
あのウイルスがただ存在するというだけで世界は理性を失いつつあった。
ーーこうして地球は、かつての"魔女狩り"を再現し始めた。
UFOが現れてちょうど一週間。
感染者の数はさらに増加し、世界人口の半数に迫っていた。
収容所はすでに限界を超えており、感染者同士が押し込められ、誰もが『次は自分の番だ』と震えていた。
外では変わらず"感染者狩り"が続いている。
ネットでは「感染者の家族もウイルスに感染している」などの声が上がり、無関係な者達までもが差別と迫害の対象となっていた。
そんな地獄の様な最中ーー。
突如、空が引き裂かれた。
「お、おい!アレ!!」
「ウソだろ…⁉︎アレは…!」
再び姿を現す、UFO。
あの日と同じ機体が、A都市のみならず世界各国の都市部の空に出現した。
街に響き渡る、宇宙人の"宣告"。
『よく聞け、地球人ども!我々は二週間待ったぞ!降伏するか否か、最後の決断を問う!!』
ーーA都市大統領室。
青ざめた司令官が叫ぶ。
「ば、馬鹿な!まだ一週間しか経ってないはすだ!」
秘書官は慌てて調べて、理解する。
「ど、どうやら…彼らの星では地球の一週間が彼らの二週間に相当する様です……!」
"降伏の期限"は既に過ぎていた。
『降伏の意図は無さそうだなりでは……今からウイルスを活性化させてやる!!』
ビジョンの中、真ん中のリーダーらしき宇宙人が大袈裟にボタンを掲げ、勢いよく押した。
『ピッ』
その瞬間、収容所、病院、隔離施設、そして街ーー
感染者たちは身構え、非感染者たちは顔を伏せた。
誰もが"死"を覚悟した。
だがーー
……何も、起こらなかった。
一秒、二秒、三秒。
静寂が訪れる。
そしてーー
「……ナニモ、オコッテナイノカ?」
収容所で感染者の一人が呟いた。
それは明らかにおかしな声だった。
まるで、ヘリウムガスを吸ったかのような、高く滑稽な声。
「オ、オイ!オ前、何ダヨソノ声!?」
「ア、アナタコソ!ヤダ!私モ!?」
瞬く間に収容所は"ヘリウム声"の大合唱となった。
だが誰も死なない。
誰も苦しんでない。
ビジョンの中の宇宙人が困惑と驚愕に染まる。
『お、おい!どうなってる!?誰も死んでないじゃないか!!』
『ウイルスは確かに活性化したはず……!』
部下の宇宙人が焦って自分のヘルメットを外して耳を澄ませた瞬間ーー
『ぎゃあああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎』
激しい悲鳴と共に、耳から緑色の血液が吹き出し、痙攣しながら倒れる。
宇宙人たちは凍りついた。
『あ……あの声……あの声は、我らの種族にとって……致死性がある……!?』
リーダーが叫ぶ。
『ま、まさか……我が種族にとって有害な"あの声"は地球人に効かないのか……!?』
『ひ、引けッ!引けぇ!!全機、撤退だぁ!!』
UFOはそのまま大慌てで空を駆け、どこかへと消えていった。
空が静かになると、地上にいた全ての人がその場にへたり込んだ。
「……助かった……」
「夢、だったのか……?」
「"死のウイルス"って……ただの声が変わるウイルスだったのか……?」
だが、誰も笑わなかった。
目を背ける者。
死んだ者の写真を抱いて咽び泣く者。
晒しあげた名も知らぬ"誰か"の写真を必死に消す者ーー
平和に戻ったはずの地球が、しん、と静寂に包まれる。
人々は、思い出していた。
自分たちが、この"たった声が変わるだけのウイルス"に怯え、
子供を収容所に引き渡し、
感染者を差別し、迫害し、
そしてーー見殺しにしたことを。
果たして人類にとってーー
『声が高くなるウイルス』と
『即死するウイルス』の、どっちが救いだったのだろうか??
〜Fin〜
どうもー
趣味人・暇人のSでーす!
この度、このなろうで初めての投稿となる『宇宙ウイルス』を投稿させてもらいました!
人生初のなろう投稿なのでよくわかんない状況で投稿しましたからなんか変な感じかもしれませんが(笑)
これからもこのなろうでオリジナルの小説を投稿していこうと思ってますので楽しんでいただけたら幸いです!
以上、Sでした!