【不燃ごみ】SR魔法使いヒート
ソシャゲ最近やれてないんですよね。
今度はユーザーID203219567か。
「ヒートさん出番ですよー。」
受付から声がかかると同時に転送先のIDが表示され、体が光に包まれていく。
次の瞬間には、何百、何千万回と見た魔方陣の上に杖を掲げて立っている。
派手な音と共に
☆☆☆SR☆☆☆のカットインが入り
炎の竜巻が魔方陣の周りを駆け巡る。
『俺の名前はヒート!全部燃やしてやるぜ。よろしくなマスター!』
いつもの召喚時ボイスを言うと、シュッという音とともに、あたりが暗くなる。
ユーザーID203219567が消去されました。
いつものアナウンスが流れ、次の瞬間には、最初の待合室へと戻っていた。
「おかえりなさい。今回も早かったですね。」
分かりきっていたことを言ってくる受付からエールの入ったジョッキを受け取り席に着き、深呼吸。
「俺だって冒険に出てぇよぉぉぉおお」
「でもヒートさん弱いじゃないですか」
この一連の流れが俺の仕事だ。本当は召喚されたあとの冒険がメインだが、ここ1年以上数えるほどしか冒険に出ていないので、関係ない。
ガチャで引いた冒険者たちでパーティーを組んでダンジョンに挑む全世界2億ダウンロードの大人気ソーシャルゲーム [ハンター&マジック] 通称ハンマジに登場する冒険者。
チュートリアルガチャで排出される9人いるSRキャラのうちの1人。攻略サイトによると、Rキャラを含めたランキング唯一のDランク評価。それが俺、魔法使いヒート。ユーザーには不燃ごみと呼ばれている。
「そもそも運営の調整が悪いだろ。なんで全モンスターが火耐性持ってるんだよ。」
「リザさんが強すぎましたからねー。」
リザ=天音=ベアトリス。ハンター&マジック最強の火…魔法使いである。
リザはハンマジ1周年で登場したSSRの周年キャラであり、性能はこれまでのすべてのキャラを凌駕していた。
同じキャラを2体目以降入手した際に変換されるアイテムを使ってリザを限界突破すると、他のキャラが3回以上攻撃して倒せるモンスターを範囲攻撃1発で全部倒してしまう程だった。
その分、排出確率が1%と絞られており、(実際は絶対1%もなかったぞ)、クレカ上限まで突っ込んでも引けず、引退する廃課金ユーザーも出る始末だった。
リザゲーと言われ、炎上したが、運営は出したばっかの周年キャラをすぐに弱体化するわけにもいかず、ずるずると一か月が過ぎた。
その時の俺は同じ火魔法使いであるが、チュートリアルガチャで狙えばだれでも入手でき、レアリティがSRのため、通常ガチャからそれなりに排出されるので、リザが引けていないユーザーには限界突破もしやすいため、重宝されていた。
そんな折、運営は最悪の調整をしてくれた。リザを弱体化するのではなく、全モンスターに圧倒的な火耐性をつけたのだ。
リザはSSRキャラなだけあって、サブ魔法として土、風魔法や補助魔法さらには回復魔法までも使えていたため、相対的に弱くなったが、最強格の座からは下りなかった。
一方割を食ったのは、SR以下の火魔法しか使えないキャラ、つまり俺だけだ。他にもアーシャ、エリックなどの火魔法使いはいたが、そいつらは俺に比べて火魔法が弱い代わりに他の攻撃手段や補助魔法を持っていた。
「俺はあの時まで火魔法最強キャラだったんだよぉぉぉおお」
「今じゃR含めた最弱、通称不燃ごみですもんね(笑)」
あの日から俺の評価は一変、チュートリアルガチャ最強、リセマラ終了キャラから、リセマラ続行必須キャラまで地位を転げ落ちた。
「それでも使ってくれる人はまだいたんだよぉぉ」
「ヒートさん初期キャラですし、弱くなった後もなんだかんだファンが多かったですもんね」
「『ヒートを救いたい』とかのサムネ攻略動画もありましたねー」
「そういう動画も時間がたつにつれ全然見なくなったけどな」
そう、それだけならまだよかったのだ。チュートリアルガチャではリセマラ対象の俺でも通常ガチャから複数体でた場合は限界突破して冒険に行けたのだ。
俺の召喚されては戻ってくる日々が決定づけられた運命の日はまたしても周年祭、2周年の刻だった。
2年も続いたソシャゲには邪魔になってくるものがある。ソシャゲをやったことがある人にはわかると思うがキャラが増えすぎるのだ。
ユーザー側からすると、狙ったキャラが引けない。運営側から見るとバランス調整が大変なのだ。
ユーザーがあまり使わないキャラは、もう調整もされずに放置されている。誰とは言わないが。
そこで運営様は素晴らしいイベントを打ち出した。
それが、【ハンマジ2周年人気投票】
『上位3位以内になったキャラは別バージョンが実装決定!君の好きに投票しよう!
(下位30位以内になったキャラはガチャからの排出が停止します)』
結果は見るまでもなかった。俺を含めた下位30人はガチャからの排出が停止した。
あるものは、次の周年に開催されえるであろう人気投票での復帰を夢見て待合室に残り、あるものは運営が同じ別のゲームにちょっと見た目を変えて出て行った。
またある者は、もう疲れたと言い残し、姿を見せなくなった。
俺もこれからどうしようか考えていたが、通常ガチャからの廃止は停まってもチュートリアルガチャは別だったらしい。30人の中で俺だけ残業というわけだ。
しかし、通常ガチャからの排出がないということは限界突破ができないことを意味する。限界突破したRキャラには唯一の取柄であった火魔法の威力でさえ負けている。
こうなると火魔法しか使えない俺は、限界突破した火魔法使いのRキャラの完全下位互換である。
「チュートリアルガチャから出なければ、俺も吹っ切れるのになぁ」
「名実ともに処分に困る不燃ごみになっちゃいましたね(笑)」
・・・
「それでも私には羨ましいですよ」
「そんな顔で見ないでくれアーシャ、今のは俺が悪い。」
クスクス
「はい!なので今回も頑張ってきてください」
「お前全然元気じゃねえか!!」
ユーザーID203219783
怒鳴ると同時に転送先のIDが表示され、体が光に包まれていく。
「もうすぐ3周年ですからね。今回は長く冒険してきてくださいよ。」
「ああ、行ってくるよ。」
次の瞬間には、何百、何千万回と見た魔方陣の上に杖を掲げて立っている。
派手な音と共に
☆☆☆SR☆☆☆のカットインが入り
炎の竜巻が魔方陣の周りを駆け巡る。
『俺の名前はヒート!全部燃やしてやるぜ。よろしくなマスター!』
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