第15話 美濃国・賢人と優人
「人じゃあないって……どういうこと?」
「おれたちは、雪の一番の眷属だった、白狼『迅』の遺した呪いだ」
「白狼……じゃあ、アンタたちは黒狼と同じ存在だっていうこと?」
「そういうことだ」
「だって……人じゃん……人にしか見えないよ」
「俺たちが人の姿をしているのは、迅が、人の手ならば武器を持って戦える、と考えたからだ」
にわかに信じがたい話ではあるけれど、駿人が消えてしまったことを思い出すと、妙に納得がいく。
駿人は消える前に『相手はオレだった』と言っていた。
それは、残りの三頭も、賢人たちそれぞれが対峙して倒すたびに、対のように消えてしまうというのか。
「迅の命は『必ず黒狼を探して倒す』だった。だから本当なら、兇を倒したときに俺たちの使命は終わったのだけれど……」
「兇が新たに黒狼を生みだしたおかげで、おれたちも消えることなく、今に至るわけだ」
「じゃあ、残りの三頭を倒したら、アンタたちも駿人みたいに消えるってコト?」
「そういうことに……なるだろうな」
賢人と優人はそういうと、互いに顔を見合わせてほほ笑んだ。
深玖里はずっと黙ったままの翔太をみた。
うつむいたままで、顔を上げようとしないけれど、どこか寂し気な表情をしている。
翔太たちが何年くらい、一緒に旅をしているか知らないけれど、きっと密な時間を過ごしているだろう。
その相手が、消えてしまうことに、納得がいくんだろうか?
賢人と優人はもちろん、駿人も縁も受け入れていたように感じた。
最初からそれとわかって、一緒にいたからなんだろうけれど……。
二百年以上もずっと探し続けているのなら、早く探し出したいだろうと思う。
今になって急に現れたのがなぜなのか、それはわからないけれど、厭のように人を巻き込むのなら、深玖里だって早く倒したい。
「そういえばさ、人の中にも黒狼に手を貸しているヤツらがいるって聞いたけど、櫻龍会もそのことを知ってるの?」
「そんなことを、よく知っているな?」
「うん……前に火狩に聞いたんだ」
「ああ、あの使い魔か」
櫻龍会でもそれは認識しているという。
ずっと見つからないのは、人の手を借りているから、という部分もあるだろうと考えているそうだ。
ただ、それが誰であるのかまで、特定できないらしい。
「怪しいと思っても、なんの証拠もないし、それは仕方がないよねぇ」
翔太がポツリと呟いた。
「けど、怪しいと思っている家もあるんだ?」
「そりゃあね。味方のような顔をして、櫻龍会に倣っている家もあると思うよ」
「そいつらに、黒狼を倒すのを邪魔されたらどうするの?」
「そんなことはさせないよ。そのために大勢の仲間がいるんだから」
深玖里は『仲間』のなかに、入るんだろうか。
家のことを考えたら、その中に堂々と入っていかれない気持ちになる。
「とりあえず……全部は飲み込めないけど、事情と状況はだいたいわかった。早く黒狼を倒すために、アタシも協力するから」
「ありがとう」
賢人も優人も翔太も、深玖里に笑顔を向けてくれる。
見ていると、深玖里までつい、笑顔になってしまう。
消えてしまうとしても、黒狼を倒すことが本懐ならば、どうあっても力になりたいと思えた。
それにはやっぱり、探し人をみつけなければならないし、桐子にもちゃんと会って話を聞いてこなければ。
次の黒狼が、向こうから現れてくれるとは限らない。
少しでも、情報や手がかりを掴まなければ。
話が済んだタイミングを見計らったように、仲居さんが来て食器を片づけ、布団を敷いてくれた。
明日の朝食は弁当にしてもらい、出る時間を伝えておく。
次は木曽の福島まで、一気に進むと優人はいった。
「あとね、櫻龍会の本部って、確か磐城国だったよね? 信濃国に入ってから、どう進むつもり?」
「信濃から上野国、下野国を通るつもりでいるが、途中でなにかあるのか?」
「うん……あのね、少し寄り道になるんだけど、家に寄っていきたいんだよね」
「家?」
「深玖里ちゃんの家って……武蔵国だよね?」
「そう。時間はかけないつもりだよ。早く済ませてくる。それに、ちょうど翔太がいるからさ、姉さんのお墓参りにも案内できるしね」
どうしても用があるから寄りたいというと、意外にもみんな、あっさり承諾してくれた。
優人はすぐに地図を広げ、ルートを確認している。
「深玖里ちゃん、はなのお墓って……」
「うん、武蔵国の秩父郡だよ。こっちから行くと、山道ばかりになるから、翔太には辛いかもね」
「本当に? しんどそうだなぁ~」
翔太は布団に転がると、駄々をこねるように身を捩った。
「でも、はなに会うためだし、俺、頑張るよ」
「そうして。姉さんも喜ぶしさ。みんなもきっと、喜んでくれるから」
「うん」
帰る前にしっかり呪符を作らなければ。
手順を省略した呪符を持っているのが知れたら、なにを言われるかわかったものじゃあない。
それに、話を聞かなければいけないことは、黒狼のことだけじゃあない。
もう一つ、ちゃんと聞かなければならないこともある。
桐子が本当のことを話してくれるかどうかはともかく、必ず、聞かなければ。




