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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の二
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第13話 美濃国・土岐川

 岡崎(おかざき)から北へ向かい、加茂郡(かもぐん)に入ると、亀首(かめくび)の村で一泊し、そのまま白川村(しらかわむら)を抜けて美濃国(みののくに)土岐郡(ときぐん)に入った。

 途中、三国山(みくにやま)で熊と猪の依頼を請けたけれど、どちらも、ただの(けもの)で高額にはならなかった。

 土岐川(ときがわ)の手前で陽が落ちはじめ、近くの村に宿を取った。


「川沿いの宿だから、水音が結構聞こえるね」


「そうだな。今夜は早めに休んで、明日は一気に恵那郡(えなぐん)落合(おちあい)まで行くぞ」


「結構、進むねぇ……俺、今日はホントに早く寝る」


 そういうと、翔太(しょうた)賢人(けんと)を連れて風呂へ出かけていった。

 仲居さんが食べ終わった食器を片づけて、布団を敷いてくれている。


「このまま川沿いを進むの?」


 深玖里(みくり)はテーブルに広げた地図を眺めて優人(ゆうと)に聞いた。


「ああ。途中からここを、こう……しばらくは平地を進んで、落合から山に入るんだ」


「ふうん……」


「深玖里はこっちには、あまり来たことがないって言っていたよな?」


「そう。いつも妻籠(つまご)から山を通って、飯田(いいだ)のほうに抜けて帰る感じ」


 地図を指で追いながら、何度か通った場所を優人に教えた。


「ここから先へはまだ?」


「行ったことない」


「そうか」


 行こうと思えばいつでも行けたけれど、これまでは遠くまで行かなかった。

 というより、行けなかった。

 稼いだらすぐに海津屋(かいづや)に行かなければならなかったし、人探しもまったく進まなかったから。


「これからは、場合によっては西のほうにも行ったりするの?」


「いや。西側には、俺たちはあまり行かないな。あっちには、近江国(おうみのくに)櫻龍会(おうりゅうかい)の支部があるんだよ」


「へぇ……櫻龍会って、そんなに大きいんだ?」


「そうだな。西側は、そっちで対応している。俺たちも黒狼(こくろう)を探すために何度か行った程度だな」


 そんなに大きな会だとは思っていなかった。

 それを仕切っている統領とは、どんな人なんだろう。


「本部に行けば、嫌でも会えるよ。ケンの協働(きょうどう)になったんだから、顔合わせがある」


「あっ、もしかして、変なしきたりみたいなのがある? 口上(こうじょう)述べたりとか」


「あるよ」


「えーっ! 面倒~!」


「そう大げさに捉えるな。口上は決まっているし、頭をさげて挨拶すれば終わりだ」


「んん……まあ、仕方ないよね。アタシが自分でなるって言ったんだし……」


 翔太たちと入れ替わりに、優人が風呂に出かけていったのを見届けてから、深玖里は外湯に出かけた。

 宿に近い川沿いに、露天風呂があるのを見つけたからだ。

 湯に浸かって、すっかり暗くなった空を見上げた。


「なんだかんだで、うまくやれてる?」


 急に四人旅になって、最初はもっと揉めたりなんだりと、問題が起こると思った。

 蓋を開ければ、いいヤツばかりで、衝突することもなくここまできた。

 ずっと一人だと、他人との距離が良くわからない。


 今のところは、深玖里は受け入れられているようだけれど……。


 櫻龍会のほうの手続きは、どうなっただろう?

 (えにし)がうまくやってくれると言っていたけれど、まだなんの連絡もない。


 それに……。


 賢人と優人、駿人(はやと)のことだ。

 いい加減、黒狼との関わりも聞いておかなければいけない、そう思っているのに、タイミングがなくて話せない。

 駿人は四人兄弟だと言っていた。

 残る一人とも、会うことがあるんだろうか?


『もう一人、茶色がいるんだ』


 初めて駿人に会ったとき、そう言っていたっけ。

 似ている人に会ったと伝えたときに『なに色?』と聞かれたのには驚いた。


「……茶色って……なんなんだよ」


 一人、呟いて笑ってしまった。

 まあ、髪の色が茶色なんだろうな、というのは想像がつく。

 そして、きっとまた似た顔なんだろう。


「確か……守人(もりと)とか言っていたっけ……」


 そいつの協働は、どんなヤツなんだろう。

 符術師(ふじゅつし)なんだろうけれど、どれほど使えるヤツなのか、ちょっとだけ気になる。


 四人がただの人間じゃあないのは、駿人が消えて牙になったことでわかる。

 櫻龍会の本部とやらに着く前に、きちんと聞かなければ。

 

 それから……。


 一度、家にも戻らなければ。

 母屋に顔は出さずとも、弟の顔が見られれば、それでいい、そう思っていたけれど、火狩(かがり)が言っていたことが頭をよぎる。


 黒狼の詳しい話は、遠峯(とおみね)に聞けばいいと言っていた。

 そして、桐子(きりこ)にも。

 桐子が関わっているんだろうか?


「だとしたら……親父もしっているはず……」


 どちらに話を聞くのも嫌だけれど、まだ桐子のほうがマシか。

 とはいえ、話しにくいのは確かだ。


「あー……面倒。嫌だけど……仕方ないか……」


 一度、どこかで時間を作って、帰ることにしよう。

 あれこれ考えていて、のぼせそうになり、深玖里は急いで湯から上がり、体を洗うと宿へと戻った。

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