第10話 遠江国・山犬案件完了
「深玖里!」
駆け寄ってくる賢人を横目に、深玖里は山犬に封印と幻の術をかけた。
「こっちにも妖獣が出たのか?」
「こっちにも……って、やっぱり賢人のところにも?」
「ああ。恐らく優人たちのほうにも――」
「――やった! 妖獣三頭!? コレ絶対高額でしょ!? 清算は気賀? いくらになるかな?」
「まあまあな金額になるだろ。それより怪我は?」
「怪我? そんなものないよ。今回は山犬だったしね」
カバンを担ぎ直し、賢人と一緒に翔太たちを探して野原を駆けた。
あちこちに山犬の骸が転がっている。
「多いね……こんなにいたんだ?」
「そうだな。深玖里の符術でだいぶ減っていたけれど、おれの倒したのは三十じゃあきかない」
「そんなに?」
深玖里自身も同じくらい倒したはずだ。
だとすると、群れの数は八十どころじゃあない。
しばらく走ると、翔太の式神が横切っていったのがみえた。
辺りのススキがほとんど刈り倒されている。
きっと優人の仕業だろう。
「深玖里ちゃん!」
「翔太! こっちも数がいたみたいだね?」
「うん、俺もだいぶ倒したけど、優人もかなりだった。それに、妖獣が二頭いたよ」
「二頭? じゃあ、全部で四頭か……完全に高額確定ね!」
「なんだ、そっちにも二頭出たのか?」
「そう。アタシと賢人で一頭ずつ。ねえねえ、これ、いくらになるだろう?」
賢人と優人は呆れたようにため息をついた。
どうせ深玖里を守銭奴だと思っているんだろう。
翔太はカバンをかけ直してポンポンと叩いでみせた。
「結構、行くと思うよ。俺も手持ちを増やしたかったんだよねぇ。今、呪符を結構使っちゃったし」
「やっぱり? アタシも今のでだいぶ使っちゃったよ」
街道へと向かいながら改めて古戦場を振り返る。
数が多かったのは、四つの群れがここで落ち合ったからなんだろう。
そうでなければ、妖獣が四頭もいるはずがない。
「このところ、山犬やら野犬やら、犬案件が多いよね」
「だね。やっぱり黒狼のせいなんだろうねぇ……」
それでも翔太は、ほかの獣がいないだけ良かったという。
確かに、猿や猪が混じっていたら、もっと時間がかかっただろうし、呪符も底を尽きたかもしれない。
「今後も群れに当たることが多いと思う。翔太も深玖里も、そのつもりで呪符を作っておくのがいいと思う」
優人のいうことはもっともだ。
一度、ちゃんと日数を取って、しっかり呪符を作りたい。
そのためにも、札紙代を稼いでおかなければ。
「清算は翔太が気賀へ式を送っているから、そこでしよう」
「じゃあ、急いでいこうよ。日付が変わるころには着くよね?」
「そうだな。着いたら先に宿を見つけて、ひと眠りしよう。おれは少し疲れた」
大手を振って、古戦場をあとにした。
もう深夜だからか、往来はまったくない。
広がる夜空には星が手に届きそうなくらい、たくさん瞬いている。
気賀の手前で茂助と銀子が顔を揃えて待っていてくれた。
「お疲れさまにござりますぅ」
「待っていてくれたんだ? 休んでいて良かったのに。アタシたちもこれから宿を取って休むから」
「宿ならお取りしてありますぅ」
気賀に着くのは深夜になるだろうと、銀子が気を利かせて宿を取ってくれたという。
「それはありがたいけど……どうやって取ったの?」
「はいー、私どもも妖獣の端くれなれば、人化けの術にて……」
「へぇ……化けられるのか。それは便利だねぇ」
翔太も見直した、と言わんばかりに銀子と茂助を褒める。
夫婦に化けて、あとから連れがくると伝えてあり、大部屋を取っていた。
「ありがとう。助かるよ」
深玖里も、賢人も優人もお礼を言うと、銀子と茂助は恐縮したように頭をさげた。
宿に入り、賢人たちが連れ立って風呂へ行った。
そのあいだに、銀子と茂助に周辺のことを聞いた。
「この遠江国では、三ケ日あたりまでは山犬が多少……三河国は、岡崎辺りまではなにも出ないようですぅ」
「途中、稲荷社がありますゆえ、諍いを避けて海沿いを通っていったようですよ」
「ふうん……とすると、そう問題なく進めるってことか……」
そうなると、岡崎に着くまでは、そう稼げないだろう。
それでも、今回、妖獣を四頭も倒しているし、数を考えれば十分な金額になるはずだ。
「二人とも、ありがとうね。宿のことも……本当に助かったよ」
またいつでもお呼びください、と最後までかしこまった様子だ。
馴染むのに、もう少しだけ時間がかかりそうだ。
深玖里は苦笑して、二人を戻し、猫と狸の人形をカバンにしまった。




