表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の二
85/127

第8話 遠江国・山犬の案件

「お待たせ~、遅くなってごめん」


 請負所から戻ってきた翔太(しょうた)優人(ゆうと)は地図を手にしていた。


「案件、あったの?」


「うん、古戦場(こせんじょう)にね、山犬(やまいぬ)が出ているんだってさ」


「どうやら信濃国(しなののくに)から移動してきたらしい」


 近くの茶屋に席を取り、地図を広げて翔太と優人が話を始めた。

 山犬はどうやら大きな群れで、数は八十を超えるだろうという。

 最初は数頭しか確認できていなかったのに、ここ数日でどんどん増えたらしい。


「信濃国から遠江国(とおとうみのくに)にきているってことは、これから畿内(きない)に行こうとしているのかな?」


「……可能性はあるな」


「八十っていうのも、そのくらい、っていう曖昧な数だからねぇ……もっといると思うよ」


 翔太の聞いてきた話では、街道が古戦場に沿っているのもあり、商人が襲われて荷物を奪われているそうだ。

 その荷のほとんどが食料で、きっと群れの数が多いせいで食べるものが不足しているんだろう。


「どのくらいいるのかわからないけど、数がいるってことは、仕切っている妖獣(ようじゅう)がいる可能性もあるよね?」


「そうだな。俺は間違いなくいると思う」


 優人は地図を眺めながら、ここから三河国(みかわのくに)尾張国(おわりのくに)伊勢国(いせのくに)伊賀国(いがのくに)を通れば、畿内まですぐだという。

 すぐ、といっても、それなりに距離もある。

 途中でまた別の群れと合流するのなら、行く先々でもっと被害がでる。


「ここから移動を始める前に、どうにかしないと面倒だよねぇ……」


「なんでよ?」


「山犬たちの足には、俺たちじゃあ追いつけようがないでしょ? まさか畿内まで追っていくワケにも……ねぇ?」


 前に足立郡(あだちぐん)三沼(みぬま)で、山犬の群れを追いながら倒したことを思い出し、確かに翔太のいう通りだ、と思った。

 あのときも追いつけないまま三沼まで行くことになり、賢人(けんと)と出くわしたんだった。


「依頼、当然、請けてきたのよね?」


「もちろん」


「このまま、ここで宿を取って、夜に備えよう」


「夜まで待つの?」


「この時間だと、まだ街道は人が多いだろう? 結界を張るにしても、万が一のことがあると困ることになる」


 万が一……。

 その言葉に、深玖里はドキリとした。

 ここ最近、結界が破られてしまうことがある。


 腕が落ちているとは思えないのに破られてしまうのは、それだけ妖獣が強くなっているということだろうか?

 ふと翔太を見ると、妙に神妙な顔つきをしている。

 長船山(おさふねやま)で結界が破られたとき、賢人が翔太や(えにし)も破られることがあるといっていた。

 きっと、深玖里のように自分の符術(ふじゅつ)に不安を覚えているんだろう。


「翔太、今回の結界だけどさ、アタシが内を囲うから、アンタ、外を囲ってよ」


「二重に張るの?」


「うん。前に新座(にいざ)で野犬の依頼を請けたとき、縁とそうしたんだよね」


 翔太はふと、なにかを思いだしたような表情をして、考え込んだ。


「ねえ? どう?」


「うん……実は俺、少し自分の結界に不安があったんだ。二重に張れるなら、そうしてくれると助かるかな」


「やっぱり? アタシもこのところ、破られるコトが多くてさ、ちょっと不安があるんだよね」


「深玖里ちゃんも? なんなんだろうね? 俺だってそれなりに使えると思っていたからねぇ……破られたときは結構ショックでさぁ……」


 箱根(はこね)では、縁の結界も破られていると翔太はいった。

 そのときに、大猪(おおいのしし)の妖獣がなかなか倒れなかったという。

 まだ名もないような若い妖獣が、そんなにも強いんだろうか?


「俺も縁も、そのときに、初めて黒狼(こくろう)を見たんだ」


「初めて? だって櫻龍会(おうりゅうかい)って、もう長いことヤツらを追ってるんでしょ? それなのに、初めてなんだ?」


「うん。初代が黒狼の(きょう)を倒してから、現れたのは多分、今回が初めてだと思う」


「へぇ……そうなんだ……」


 宿を取るために、賢人と優人が席を外してからも、深玖里は翔太と話を続けていた。

 聞きながら、深玖里は知らないことが多いと気づかされた。

 いかに自分が狭い世界の中で暮らしていたのかを、思い知らされる。


「アタシ……チョット使えるからって、思いあがっていたのかな……」


「それを言ったら、俺や縁も同じだよ。もう何年もやってきて、自分の符術が破られるなんてさ……思いもしなかった」


「いろいろと、鍛え直さないと、って思うよね? アタシ……やれることはきっと、まだまだあると思う」


「だね。落ち込んでいる暇はない、って、俺も何度も考えるよ」


 同じような壁にぶつかっている相手と、こうやって話しているだけでも、俄然、やる気が出てくる。

 それは翔太も同じなのか、表情がさっきよりも明るい。


「次の黒狼と遭遇する前に、もっと腕を上げないと……ね?」


「うん、頑張ろう!」


 自分に言い聞かせるように翔太は声を張り、自分の太ももを思いきりたたくと、立ちあがった。

 通りの向こうに、賢人と優人が戻ってくるのがみえた。


「まだ明るい時間だから、宿はすんなり取れたよ」


「今のうちに眠っておくだろう? その前に今夜の手順だけ決めておこう」


 二人に促され、翔太とともに席を立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ