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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
内村 翔太 其の一
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第8話 相模国・合流

 請け負った案件は、平塚(ひらつか)から北側の八幡(やわた)四ノ宮(しのみや)中原(なかはら)と、少し広めの範囲に出る狐の退治だ。

 依頼書のほとんどは畑を荒らすものだったけれど、請負所で聞いた通り、確かに数が多い。

 狐は群れることが少ないはずなのに、どう見ても家族単位以上の数がある。


「取り敢えず、八幡と四ノ宮の二手に分かれて追い込みながら中原で倒す?」


「それじゃあ群れが散ったら逃げられるかもしれないだろ。翔太(しょうた)が結界で逃がさないようにしてくれないと必ず取りこぼしが出てしまう」


「んん……それじゃあ結構な時間を取られちゃうなぁ……多いんだよな、数がさ」


「こっちも数があったらどうだ?」


 すぐ後ろから声が聞こえて振り返ると、駿人(はやと)(えにし)がいた。


「ハヤ? こんなところまでどうした?」


登和里(とわり)さんから連絡があったんだよ」


「と……登和里さんが……翔太とす、駿河国(するがのくに)で合流しろって……」


 縁が相変わらずの挙動不審な態度で答える。

 いい加減、翔太にくらいは慣れてもいいんじゃないかと思うのに。


「そうなんだ? でもやけに合流が早いんじゃないか?」


豊島郡(としまぐん)で野犬を追って、東都(とうと)に入る前に連絡が来たからな。そのまま多摩郡(たまぐん)都築郡(つづきぐん)を抜けて相模国(さがみのくに)に入ったんだよ」


「へえ……」


「で? なんの数が多いって?」


 駿人と縁にこの辺りの今の状況を伝えた。

 二人とも、翔太たちと同じように狐が群れていることに疑問を感じたようだ。


「近ごろどうも(けもの)妖獣(ようじゅう)の動きが妙だよな? 山犬もずいぶん降りてきていたみたいだし」


「山犬? 野犬じゃなくて?」


「オレたちが新座郡(にいざぐん)で倒したのは山犬だったよな? 豊島郡(としまぐん)では集まっていたのは野犬だったけど」


「う、うん。深玖里(みくり)さんのおかげで時間をかけずに、た、倒せた」


「縁! にっ新座まで深玖里ちゃんと一緒だったのか!」


 思わず縁の胸ぐらをつかんで引き寄せ、ガクガクと揺さぶった翔太を、優人(ゆうと)が羽交い絞めにして止めに入り、駿人が後ろ手に縁を庇った。


「ず、ずっと一緒だったんじゃなくて、う、う……請負所で、た、たまたま……」


 涙目になって咳き込む縁は、か細い声でそういう。


平林寺(へいりんじ)の請負所で出くわしたんだよ。深玖里ちゃん稼ぎたいらしくてさ」


 山犬の数が多かったのと妖獣がいたから、懸賞金を折半にするからといって一緒に案件をこなしたそうだ。

 深玖里とはまた会う予感があったのに、実際に行動を共にしているのは、賢人(けんと)と縁、駿人だ。


「なんだよ~……なんで俺じゃないんだよ~……」


「なにを嘆いてるんだよ。翔太には本命がいるんだろう?」


「そりゃあ……」


 確かに駿人のいうとおりだけれど、気になるものは仕方がない。

 どうにもならない脱力感に崩れ落ちそうになる。


「そ、それよりどうする? ボクたちと翔太たちで二手にわかれて、し、四ノ宮と八幡から詰めていく?」


「そうだな、ハヤは四ノ宮、俺は八幡から、中原でまた合流して一気に倒そう」


「わかった。縁と翔太は先に中原で囲う準備をしていてくれ。狐どもはオレたちが追い込む」


 優人と駿人は手順をさっさと決めると、互いの割り当てに駆けていった。

 翔太は地図を持たない縁を促して中原へと向かった。


「そういえばさ、縁の式の使いかたなんだけど」


「う、うん?」


「探索、俺はどうもうまくないじゃんか。縁みたいに個体で判別してるのはさ、どういう感覚?」


「ボクのは……妖獣だけは赤って決めているんだけど……ほ、ほかの色は単純に手分けをするときの(しるべ)だよ」


「えっ? それだけ?」


「うん。常に赤は飛ばすけど、妖獣がい、いなければ戻ってくる」


 獣と妖獣は()が違うから、赤い式符(しきふ)には妖獣に反応する術式が書かれていて、それが反応するという。

 もっと複雑ななにかがあるのかと思っていたから、肩透かしを食らった気分だ。


「じゃあ、俺にも同じことできるかな?」


「翔太ならす、すぐにできる。だって内村(うちむら)にも妖獣だけ特定する符術(ふじゅつ)、あ、あるだろう?」


 それを式を使うときに組み入れたらいい、今すぐは使えないかもしれないけれど、翔太ならいつもどおり何度か重ねればすぐに使えるようになる、縁はそういって笑った。

 そんなものだろうか?

 若干の疑問を感じつつも、縁が言うんだからきっと使えるだろうという気持ちになる。


「狐、終わってもこのまま一緒に駿河に向かうだろ?」


「た、たぶん……」


「んならさ、道中で練習するから、縁、ちょっと見ててくれよ」


「わかった」


 中原に着き、畑の広がる景色の中で、翔太は縁と一緒に結界を張る範囲を決め、集団の狐を倒す呪符(じゅふ)をいくつか先に仕掛けた。

 遠くから少しずつ獣のざわめきが近づいてくる。

 優人も駿人も、うまく狐たちを追い込んできているようだ。


「いつも優人や駿人にばかりたよっていられないもんな。俺たちの呪符で半数は倒そう」


「うん、ボクもが、頑張るよ」


 強いくせにいつも自信がなさそうにしている縁の背中を、活を入れるように思いきりたたいた。

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