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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
内村 翔太 其の一
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第3話 荏原郡・北品川

 夜が明ける前に北品川(きたしながわ)に入り、まずは請負所で清算をした。

 空が明るくなっていくと、潮が引いたように野犬たちの気配が薄れていった。


「こんなに気配が消えるものか? ヤツら一体どこへいってるんだろう?」


「さあな。どのみち暗くなれば出てくるんだ。深追いする必要はないだろう?」


 優人(ゆうと)は少し不機嫌だ。

 きっと眠いんだろう。

 かく言う翔太(しょうた)自身もまた、眠い。


 早々に宿を取り、櫻龍会(おうりゅうかい)であることを先に伝えておく。

 夕食までは起こさないでくれるように頼んで、すぐに眠りについた。

 目が覚めたときにはもう夕方になっていて、窓の外は茜色に染まっていて奇麗だ。


 優人がまだ眠っているようだから起こさないように外へ出る。

 宿の仲居さんに声をかけて、最近のこの辺りの治安を聞いてみた。


「危ない(けもの)とか妖獣(ようじゅう)とか、この辺りはどうです? 最近は野犬が多いみたいだけど」


 夕飯の準備のために運び込んでいる食器を持ってやり、色々ときいてみた。

 どの仲居も、確かに野犬は多いけれど妖獣は見ないし出たのも聞かないという。


「……となると野犬を率いてる妖獣はどこにいるんだ?」


 宿を出て街道沿いの店を冷かしながら、翔太は今夜のことを考えていた。

 目指す神社はこの街を出たらすぐで、妖獣がいるならすぐそばにいなければおかしい。


視影探索(しえいたんさく)


 人型に切った和紙に『犬』と書き、街はずれまで来てそれを飛ばした。

 続けて数枚を飛ばし、くまなく探るも、今のところは野犬たちの気配がない。


(かい)


 式神を解いて、翔太は大きくため息をついた。

 探索は苦手じゃないけれど、(えにし)のように詳細まで探れないのが不便だ。


「……縁となにが違うってんだよ」


 懐から出した人型の紙をみつめて考えるも、違いがよくわからない。

 力量が違うからだとは思いたくなかった。

 縁は翔太の二歳年上だけれど、櫻龍会に入ったのは同じ時期だから同期といえる。


 そんなヤツは他にもたくさんいるけれど、優人と駿人(はやと)協働(きょうどう)になっているという近しい立場だから、ついライバル視してしまう。

 いつもビクビクして挙動不審で、気の弱さが全身からにじみ出ているけれど、良く見れば整った顔で、ひそかに女子に人気があるのも気に入らない。


 だからといって、嫌いかというとそんなことはなく、意外と話しやすいし嫌味なことも意地悪なことも言わないから、言ってみれば好きな部類には入る。


「縁の符術(ふじゅつ)……ちょっと聞いてみたほうがいいのかな……」


 さすがに東家(とうや)の符術を盗もうとは思わないけれど、なにかヒントが見つかるかもしれない。

 念のため、内村(うちむら)の家にも連絡を取って、符術が改良されていないか聞いてみることにした。


 それから日が完全に落ちるまで、街なかの女の子たちに声をかけまくり、この近辺に出る獣や妖獣がいないか、聞いて回った。

 もちろん、自己アピールも忘れずに。

 出てくる話しは宿の仲居さんと同じで、最近出る野犬のことばかりだった。


「翔太、どこに行ってたんだよ?」


 宿に戻ると優人はもう起きていて、部屋の座卓には既に夕飯の準備がされていた。


「ちょっとな。街なかでこの辺りの状況を聞いてきたよ」


「そうか」


「やっぱり野犬が最近多い、ってくらいしか聞けなかった」


 本当ならここで優人に妖獣の情報を聞かせたかったのに、式神で探れなかったと話すことができなかった。

 カッコつけるワケじゃないけれど、優人には『できない』をなるべく言いたくない。

 『できない』を絶対に『できる』に変えてからいいたいと思っている。


「まあ、今夜、古龍(こりゅう)のところへ野犬どもが集まってくれば、嫌でも出てくるだろう」


「そりゃあ、そうだろうけどさ」


「そのときは翔太、ソイツに(しき)をつけてくれよ?」


「もちろん!」


 そう答えつつも翔太としてはイマイチ満足できない。

 一日でも早くもっとうまく式神を使えるようになりたいのに。

 クサる気持ちを持て余しつつも、今できる最大限のことはしなければならない。


 腹ごなしをしてから、優人と二人でもう一度地図を眺める。

 神社までの道を頭にしっかり叩き込み、支度をして宿をでた。


「先に古龍に挨拶くらいはしておきたいな」


「そうだねぇ……俺も結界を広めにとらなきゃいけないかもしれないから、話しくらいは通しておきたいかな……」


 そうは言っても古龍ほどの妖獣が、訪ねていったところで翔太たちを相手にしてくれるだろうか?

 翔太は使い魔を持たないけれど、こんなときにはいれば良かったかも、と感じる。

 ただ、言い換えればこんなときでなければ、必要としないということだ。

 位の高い妖獣と、ほんのわずかな時間、話しをするためだけになら必要とはいえないだろう。


木ノ内(きのうち)さんが話しを通してくれているといいんだけど」


「櫻龍会はその辺は抜け目がないからな。もう話しが通っている可能性もある」


「とすると、主の妖獣を待たせるわけにはいかないし、早く行こうか」


 街はずれから神社へと、翔太と優人は駆け足で向かった。

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