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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の一
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第24話 足立郡・野犬案件完了

 請負所に着くと、受付で申請をする。

 浮蝶(うきちょう)を飛ばしてあるから、確認は早い。


「なるほど……先に式を送っておくことで長く待たずに済むのか……」


 いつも駿人(はやと)が確認を終えるとき、手続きが早いことを、不思議に思っていたという。

 間違いなく(えにし)が式を通じて請負所へ連絡を取っているからだろう。


「アンタはいつも申請をどうしているのよ?」


「おれは櫻龍会(おうりゅうかい)に任せているから……だいだい次の請負所で清算をしてもらっている」


「ふうん……」


 要するに櫻龍会が賢人(けんと)を甘やかしすぎているということか。

 ほかにもこんなヤツがいるんだろうか?

 それとも、賢人だけが特別なのか。


 一体どいつがこんなふうに賢人を甘やかしているんだか。

 櫻龍会もたいした団体じゃないのかもしれない。


「けどさ、アタシはやっぱり自分の後始末は自分でするべきだと思うのよね」


「まあ……そうだろうけど……」


「だからアンタはもう少し真面目に、協働(きょうどう)のことを考えたほうがいいわよ」


 協働というと賢人は頑なになる。

 以前、協働になった相手となにかあったんだろうか?


「今夜みたいにアタシがいれば結界くらいは張ってやれるけど、アンタいつも一人なんでしょ?」


「ときどきは、優人(ゆうと)や駿人と一緒になる」


「ときどきじゃ、しょうがないの! 無理強いはしないけど……」


 そうしているあいだに確認がとれ、懸賞金を受けとった。


「それじゃあ、これからどこに行くのかしらないけど、くれぐれも依頼を請けるときは気をつけなさいよね」


「キミはどうするんだ?」


 請負所を出て別れ際に賢人に聞かれ、これから雷嶺(らいれい)のところへ挨拶に行ってから宿に戻り、明日には発つと答えた。


「そうか。それじゃあ、これ」


 そういって背負った荷物から賢人が出したのは、いつか優人(ゆうと)に貰ったのと同じ、チューブに入った軟膏だった。


「さっき野犬に肩をやられていただろう?」


「あ……うん、ありがとう……」


 去っていく背中を見送りながら、悪いヤツじゃあないんだろうけど変わったヤツだと思った。

 霧牙(きりが)火狩(かがり)をそのままにしてあるから、急いで寺へと戻る。

 総門の前にその姿をみつけた。


「ごめん、待たせたね。雷嶺さまは無事?」


 霧牙と火狩はキョロキョロと周囲を見渡してから深玖里(みくり)に答える。


「ああ。今、向こうで待っていらっしゃる」


「アイツはどうした?」


「賢人? アイツはここへは来ないよ」


 門をくぐり森へと向かい、雷嶺に会った。


此度(こたび)は助かった。礼を言う」


「いいえ。なにごともなくてなによりです」


 雷嶺はしげしげと深玖里を見つめ、金の目を細めた。

 狸たちが足もとに集まってくると、深玖里に札紙(ふだがみ)の束を手渡してきた。


「その札はこの寺の住職が祈祷をしている。効力はなかなかに強いはず。手に余る獣奇(じゅうき)に会ったときに使うといい」


「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」


 頭をさげてお礼をいい、寺をあとにした。


「あ~……堅苦しいのは苦手。でも、呪符(じゅふ)を貰えるなんて思わなかったな。大事に使わないと」


「この先、またあの狼みたいなヤツに出会ったときに使えるな」


「そうだね……今回で懸賞金もだいぶ貯まったし、次は駿河(するが)に行こうと思うんだけど、その前に遠峯(とおみね)に顔を出していこうと思う。霧牙も火狩も、このまま先に行って報せておいてくれない?」


「わかった。それじゃあ、光葉(みつば)で待っている」


「うん、よろしく」


 光葉を越えて甲斐(かい)に入り、それから駿河へ向かえばちょうどいいだろう。

 宿へ戻ると湯につかって傷を念入りに洗い、賢人に貰った薬を塗りこんで眠りについた。


 翌朝、宿を出ると正面に賢人が立っていた。


「おはよう。こんな早くにどうしたのよ? ずっと待ってたの?」


「いや……ついさっき来たところ……これ」


 深玖里に気づき近寄ってくると、手にした封筒を差し出してきた。

 受けとって「なにこれ?」と聞くと、昨日のお礼だという。


「そんなもの、別に要らないわよ」


「そうはいかない。キミが結界を張ってくれたおかげで周囲に気づかうことなく戦えたし、ほかの野犬を相手にする必要もなくなって、狼だけに集中できたんだから」


 三沼みぬまで賢人に「守銭奴」と言われたっけ。

 確かにお金は必要で、いくらでも稼がなければとは考えている。

 だからって、自分の符術ふじゅつをこんな形でお金に変えようなどと思ったことはない。


「要らないったら! アタシは金の亡者じゃないんだから!」


「おれだって、そういうつもりで渡すんじゃあない」


「だったらなんで……」


「次にまた出会ったときに、後ろめたさを感じたくない。仕事には正当な報酬が払われて当然だろう?」


 返す言葉に詰まる。

 また会う可能性は確かにあるだろうし、賢人に気づけばきっとまた結界を張ってやるだろう。

 どう答えるべきか考えている間に、賢人は「じゃあ、これで」といって走っていってしまった。

 結局、受けとった封筒を返せずに、カバンにしまうと深玖里も歩き出した。

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