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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の一
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第16話 足立郡・三沼案件

「あーーーっ!!! もう疲れたぁー!」


 土手縁で仰向けに転がって、深玖里(みくり)は結界を解除した。

 群れは四つだけれど、合わせると二十頭以上もいた。

 火狩も疲れたようで、早く帰せと言わんばかりに尾で深玖里を叩くから、早々に帰した。


 どれもそう強いやつはいなかったけれど、数がいたぶん手古摺った。

 深玖里の太刀使いがもっとうまければ、こんなに時間もかからなかったと思う。

 空はだいぶ白んできて、河川敷の草花も少しずつ色濃くみえてくる。


 横になっていると睡魔が襲ってくる。

 深玖里は立ち上がると、一度、宿へ戻って仮眠をとってから朝食を済ませ、請負所へ向かった。

 受付の女性に、川向こうの請負所の場所や宿の位置を聞き、川を渡った。


 荒川(あらかわ)を渡るともう足立郡あだちぐんで、松本(まつもと)のあたりに請負所があった。

 川向こうの田島(たじま)でいわれた通り、やっぱり山犬の案件がここでは三件でている。

 全部、剥がして受付を頼んだ。


「えっ? これ全部請け負うの?」


「駄目ですか?」


「駄目じゃあないんだけど……ちょっと待ってね」


 受付の女性は奥へ行くと、誰かとなにかを話している。

 数分すると、別な女性がカウンターへやってきた。


「これ全部、請け負ってくれるって本当?」


「はい」


 カウンターにさっきの依頼書と、別な用紙を広げた。

 それはこの辺りの地図だった。

 手にしたペンで赤丸をつけると深玖里をみる。


「今、この三件はこの赤丸で確認されてるの。でも、昨日から少しずつ移動していてね」


 今度は青いペンで別所(べっしょ)のあたりから三沼(みぬま)まで線を引いた。


「この線上に動いて、三沼に向かっているそうなの」


「ずいぶん動いてるんですね」


「そう。それにね、どうやらいくつかの群れが合流しているみたい」


「ふうん……そうなると、この三件を合わせた数より多くなっているってこと?」


「そうね。三沼の請負所からはついさっき連絡があって、新たに依頼書を書き直すそうよ」


「えーっ! じゃあ、ここで請けられないんですか?」


 深玖里はがっくり肩を落とした。

 受付の女性がクスクス笑う。


「大丈夫。とり急ぎ、この三件を受付して、三沼に連絡を入れておくわ。追加の頭数は、都度ごとに式神で通達してくれればいいから、終わったら三沼で申請してくれる?」


「やった! ありがとう。じゃあ、早速追いかけてみます!」


 カバンをたすき掛けに背に回し、地図を貰うと請負所を飛び出した。

 田島から新開(しびらき)、別所を抜けてもまだ山犬の群れは見えてこない。

 深玖里の足と犬の足では速度が違いすぎて、追いつきようがないのかもしれない。

 それでも、可能な限り急ぎ足で追った。


 途中で二つの群れをみつけ、呪符(じゅふ)を出して結界に閉じ込め、火狩(かがり)を呼んで山犬たちを倒した。

 群れは四頭と五頭で、どちらも移動中で油断していたのか、意外にあっさり片付いたけれど……。


「依頼は三件あったんだろう? 一つ足りてないな」


「うん……追い抜いたってことはないから、三沼に行かれちゃったかな……」


 浮蝶(うきちょう)を飛ばしながら、火狩に答える。

 火狩の鼻でも臭いが追えないというから、だいぶ遠くまで行ってしまったか。

 いない以上はどうしようもなく、深玖里はいったん火狩を帰して先へと進んだ。


 途中で休息を挟み、浦和(うらわ)から今度は上木崎(かみきざき)を抜け、高鼻(たかはな)まできた。

 一宮氷川神社いちのみやひかわじんじゃの門前近くまでくると、そばにあった宿に部屋を取り、三沼の請負所の場所を聞いた。


「すいません! 山犬の案件、式神を送った若山深玖里です!」


「ああ、あなたが。さっき確認に向かったから、もう少し待ってね。それから、追加の依頼書を渡しておくわね」


「ありがとう。これ……全部、三沼の周りに?」


 依頼書に乗っている山犬の群れの頭数は、三十を超えるようだ。

 こんな平地の人里で、これだけ大きな群れはかなり珍しいと思う。

 少なくとも、深玖里はこれまで見たことがない。


「そうなの。少し前まではばらけていたんだけど、急に集まりだしたのよ」


 周囲の畑や牧場は、相当な軒数が被害に遭ったという。

 それは野菜や動物だけではなく、人もだった。


「ひどいね……さっき倒してきた群れはこの時間も動いていたけど、この辺りではどんな動きをしているんですか?」


「ほかでも出てたと思うけど、この辺りでも夜の動きが多いわね」


「じゃあ、アタシ今のうちに眠って、夜に出てみます」


「数が多いけど本当に大丈夫?」


「ええ。使い魔もいますから」


「それじゃあ、懸賞金は追加が終わり次第になるから、また式神を送ってね」


「わかりました」


 ここでも地図を受けとり、宿へと戻った。

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