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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の一
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第15話 郡境・荒川河川敷

 深玖里(みくり)駿人(はやと)(えにし)と別れると、新座郡から北東へ向かった。

 荒川を渡るときに、河川敷に大和田のときのような山犬が数頭でた。

 それらを倒し、近くの村で請負所を訪ねると、いくつか依頼が出ている中から、該当の依頼書を外す。


「すみません、依頼の申請をしたいんですけど」


 受付の女性に確認を出してもらって賞金を受け取った。


「あの、ほかの依頼書、全部このあたりに出るんですか?」


「ああ……あれね……」


 今、出ている依頼書は深玖里がたった今、申請をしたもの以外に四枚出ている。

 どれもみな山犬の群れの退治だ。


「最近、なんだか急に増えたみたいで。この河川敷だけで四件だけど……」


 受付の女性の話しでは、川を越えたところにある請負所では、また別件の依頼書がでているそうだ。

 どれも五、六頭の小さな群ればかりだけれど、数が多いという。


「群れだから、単体の獣退治に比べると、懸賞金はちょっと高いけど、追うのも大変みたいなの」


「へえ……これ、アタシが全部請け負ってもいいのかな?」


「そりゃあ……そうしてもらえると助かるけれど、大丈夫なの?」


 女性は深玖里を上から下まで眺め見てから、不安そうにそういった。

 それに対して大きくうなずくと、出ている依頼書を全部剥がした。


「アタシ、ここに来る前も山犬退治してきたから」


 受付で宿の場所を聞き、腰を据えて退治にかかることにした。

 詳細を聞いたとき、出るのは夕刻から明け方までが多いと言っていた。

 その辺は、大和田のヤツらと同じだけれど……。

 宿へ向かう途中、水門近くの土手で使い魔の山犬『霧牙(きりが)』を呼んだ。


「霧牙、ちょっと頼みがあるんだけど」


「頼み? 深玖里が俺に頼みごとなんて珍しいな」


「うん、このあたり、最近、急に山犬が増えているらしいんだ。原因、探れるかな?」


 霧牙は僅かに鼻を上に向けて周囲を見回した。


「いるな……結構な数だぞ。全部倒すのか?」


「そうしたい」


「……妖獣(ようじゅう)は……この近くにはいない」


 妖獣がいないのであれば、そう苦労はなさそうに思う。

 霧牙は、火狩(かがり)を呼んで必ず二人で対応しろといった。


「小さい群れに分かれているようだが、ヤツらが別々に行動しているとは限らないだろう?」


 霧牙の言うとおりかもしれない。

 宿を取り、夕飯を済ませてから、深玖里は河川敷へ立った。


「昨日の河原から、そう離れていないのにここにも山犬の群れがでるのか?」


「うん、そうらしい。霧牙は妖獣はいないっていってた」


 火狩もそよぐ風に鼻を鳴らし「確かに、ここにはいない」といった。

 河原を埋め尽くす雑草は、ヨシやススキと同じくらいに背が高い。

 深玖里の背丈では、雑草が邪魔で犬たちの姿はまったく見えなかった。


 こんなときに、縁のあの()があればと思う。

 目当ての獣や妖獣がどこにいるのか、一目瞭然になるから。


「四件あるんだ。一件だいたい五、六頭」


「多いな」


「うん、だから気はすすまないけど、場合によっては火狩も請け負ってくれるとありがたい」


「わかった。それじゃあ……」


 言いかけた火狩の耳がピクリと動く。

 カバンから呪符(じゅふ)を出し、取り急ぎ広範囲で結界を張った。

 火狩はあとの言葉を継がず、草むらに駆けだしていった。


 深玖里は太刀を抜いて構え、周辺の雑草を斬り払った。

 払いながら、駿人の太刀筋を思い出す。

 目を閉じて柄を握る手に集中し、呪符を放つときの感覚で切っ先を横に流した。


風刃(ふうじん)!」


 乱れた風が巻き、伸びた雑草の所々が切り倒されている。

 ギャウンと犬の鳴き声が響き、深玖里はハッとして火狩を呼んだ。


「火狩!」


 ザザッと音を立てて草むらから飛び出してきた火狩は、深玖里の足もとにすり寄った。


「唐突に妙な術を放つな!」


「ご、ごめん。草が邪魔で、昨日の駿人の真似をしてみたんだ」


「一頭倒したからいいものの、一歩間違えたら俺が倒れていたぞ」


「だからごめんて……」


 今の一撃で山犬たちの様子が変わった。

 深玖里たちを敵と認識したんだろう。

 グルグルと唸り声が響いている。


「わざわざ集まってくれるとはありがたいね! 火狩、少し離れてほかの群れを探って追い立ててきて。コイツらはすぐに倒す!」


 唸り声をあげて飛びかかってくる犬たちに太刀を振るう。


(かん)(くう)(じん)!」


 さっき雑草を斬ったときとは別の、犬の体を貫くような風をイメージしてみた。

 切っ先が伸びたかのように易々と犬の体を貫くけれど、どうもしっくりこないのは、これが初めての試みだからか。


 背後からも次々にかかってくる攻撃に対応するには、いつも通りの扱いのほうがよさそうだ。

 実験的になにかをするなら、もっと数が少なくないと、危ない。

 今はまず目の前の群れを倒すことに集中して、刀で術を試すのはあとにしよう。


 深玖里は呪符を出し、火狩が追い立ててくる山犬たちへと金縛りの術を放った。

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