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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
東家 縁 其の二

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第4話 櫻龍会本部・翔太たちの到着

 翔太(しょうた)から連絡が届いたのは、紀江(きえ)が戻った二日後だった。

 もう白石(しろいし)の手前に来ていると言うけれど、遅くなりそうだから櫻龍会(おうりゅうかい)へは明日の昼前に着くようにするそうだ。


 統領との顔合わせや諸々の準備はすべて整っている。

 四人がゆっくり休めるように、本部の離れも人払いをして寝所(しんじょ)を作った。

 長く滞在すると、そのぶんほかのメンバーたちに接する機会が増えそうで、(えにし)は到着した翌日に協働承認(きょうどうしょうにん)の儀ができるように手配をした。


 統領のところへも、その旨を伝えに行くと「いいんじゃあない? 縁の思うようにおやりよ」という。

 急なことなのに拍子抜けするような返答を受け、なにか腑に落ちない気持ちのまま、翔太たちを迎え入れた。

 日中に戻ってきたことで櫻龍会本部に残っていたメンバーたちが、不信感を隠そうともせずに、あちこちから視線を向けてくる。


「相変わらずだなぁ。嫌な感じだよ、まったく……」


「うっ、うん……気づかれないようにと思ったんだけど、やっぱりみんな、きっ……気づいちゃうね」


「そりゃあそうだろ? アイツら暇なんだしさ」


「暇、っていうわけじゃあ……ななない……と思うよ? ただ、協働を気にしているだけだ」


 メンバーたちは今も遠巻きにこちらを眺めながら、ヒソヒソと話している。

 いつもはサッと見るだけで、すぐに立ち去ってしまうのに、今日はやけに長い。


「縁、久しぶりだね。手続きのこととか、いろいろとありがとうね」


 翔太と優人(ゆうと)の後ろから深玖里(みくり)が顔を覗かせた。

 今日も出会ったときと同じように女装をしている。


「ううん。ボクにでっ……できることなら、いくらでも力になるよ」


「ありがとう。そういってもらえると助かるよ。ところで……紀江はもう着いているの?」


「きっ紀江は、おととい着いたけど、今はちっ……近くの温泉に宿をとってる」


 縁がそう答えると、深玖里は大きくため息を漏らした。


「紀江が……どどどどうかした?」


「ん……チョットね」


 答えを濁そうとする深玖里の頭を軽く叩いて、賢人(けんと)が笑った。

 賢人のこんなに明るい表情を見たのは、ずいぶんと久しぶりだ。


「深玖里は紀江に会うのを遅らせたいらしいぞ」


「そっ、そうなの?」


「紀江のヤツ、深玖里ちゃんを女だと思い込んでいてさぁ、深玖里ちゃんの入浴中に乱入してきたんだって」


「だから、男だとバレたときに、符術(ふじゅつ)で蹴りを喰らわされるんじゃないかって、心配しているんだよ」


 翔太と優人まで、賢人と同じように笑ってそう言う。

 紀江の行動力には縁も呆れるけれど、こんなふうにみんなが自然に笑い合っているのをみると、いい関係を築けているようでホッとする。


「きっ紀江は明日の協動承認まで来ないと思うから、大丈夫」


「ホント? そしたらさ、その協働承認とやらが終わったら、すぐに発ってもいいワケ?」


「それは……そんなにすぐ……とは、い、いっ、いかない、かも……?」


「そうなの? まぁ……仕方ないか……ところで縁?」


「うん?」


「後ろでこっちをジロジロ見てる連中はなんなの? 翔太が言うように、櫻龍会って暇人が多いの?」


 振り返ると、翔太たちが正門をくぐったときよりも人数が増えている。

 普段は表情が乏しい賢人が笑うものだから、女のメンバーたちは深玖里に嫉妬してか、鋭い視線を送ってくるし、男のメンバーは深玖里の外見に目を奪われているのか、嫉妬とも羨望とも見える複雑な表情だ。


「みんなけっ、賢人の協働に興味があるんだよ」


「ふうん……」


 遠巻きに見ているメンバーたちをぐるりと見まわし、深玖里はニッコリと微笑んで小さく会釈をした。

 途端に男のメンバーたちがざわつく。

 深玖里は笑顔を崩さないまま呟いた。


「櫻龍会なんて大層な名前だから、どんなものかと思ったけど……馬鹿ばっかじゃないのよ」


 深玖里にそう言われると、縁も翔太も返す言葉が見つからない。


「あ……そっ、それより早く休みたいよね? ももも文言も覚えてもらわないと……」


 四人を促して離れに案内する間に食事の準備も頼んだ。

 休む前に協働承認の儀について話し、深玖里には流れと文言を覚えてもらわなければ。


「そっ、それから……性別は男で登録し直してあるから、と、当日の服も男物だけど……」


「うん、全然かまわないけど、服ってどんなの?」


「あれだよ」


 部屋の隅に掛けておいた衣装を指さした。

 女性だったら白と朱の巫女装束だけれど、男性の場合は縁が良く着る狩衣だ。

 今回の深玖里の衣装は、新たにあつらえたものだ。

 淡藤色(あわふじいろ)の狩衣に深縹色(こきはなだいろ)の袴は、涼し気な雰囲気を持って深玖里を引き立てるような気がした。


「狩衣なんて着るの、初めてなんだけど」


「着付けはしてくれるから大丈夫だよ。俺たちだって縁と違って着慣れてないからさ、未だに他人の手を借りてるんだから」


「なら、べつにいいけど」


「文言は難しいものじゃあなくて、け、形式的なものだから、すぐお、覚えられる。明日はしっ、七時に朝食で八時には支度を始めてもらうよ。顔合わせは大広間で、じゅじゅ十時からだ」


 メモを渡すと、深玖里はそれを眺めながら何度かうなずき「わかった」と言った。

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