第3話 櫻龍会本部・縁と紀江
櫻龍会で雑務を担当しているメンバーに指示を出していると、ヒラヒラと式神が舞い降りてきた。
「式……だだ誰が……?」
手にした式神は翔太のものだった。
書かれた文章を目で追い、最後まで読み切ると、縁は目眩で倒れそうになった。
「縁さま! 大丈夫ですか?」
そばにいたメンバーの橘に支えられ、縁はその場に座り込んだ。
「うん、だい……大丈夫……」
「少し休まれては――」
「本当に大丈夫だから……すっすまないけれど、ここの準備を任せていいかな? ボボ、ボクはちょっと急いで書類の整備をしないと……」
やっておいて欲しい作業の手順だけをしっかりと伝え、縁は事務室へと急いだ。
手にした書類に書き込みをしてから厳重に封を閉じ、その上からさらに符術を掛ける。
これで、統領が開くまで誰の目にも触れない。
「こっ……これでいい」
悪意があるのはわかったから、あとはそれを往なして翔太たちが到着するのを待てばいいとして……。
それまでに縁にできる限りをしなければ。
深玖里に合わせた口上は、登和里に手を借りて作ればいい。
「着くのは……い、五日後……くらいかな?」
今、みんなは武蔵国と上野国、下野国の境辺りにいるようだ。
駿河で黒狼が出て以来、獣や妖獣の依頼は減っているけれど、きっと途中で請負所へ寄りながら来るだろう。
一日でも早く、無事についてくれることを願いながら、縁はまた次の準備へと向かった。
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「縁!」
大広間で座席表を片手に各自の席を用意している縁に、体当たりをするようにして紀江が飛びついてきた。
「久しぶりじゃない! 元気にしていた?」
「きっ紀江、もう着いたんだ?」
「白石には昨日のうちに着いていたんだ。夜になってからだったから、街に泊まったんだよ」
紀江の後ろに立つ守人を見た。守人に会うのも久しぶりだ。
「ふふふ二人とも、疲れていないの?」
「そりゃあ、チョットはね? でも、いつものことじゃない?」
駿人と旅をしていたとき、優人や賢人と一緒になることは多くても、守人とはほとんど会わなかった。
それでも、駿人は守人を信頼していたし頼りにもしていたと思う。
「今夜は二人とも、しゅっ宿舎?」
「嫌よ。私と守人、これから統領に挨拶に行ったら、鎌先の温泉に宿を取るの」
「温泉? なっ……なんで?」
「紀江のヤツ、戻った途端に絡まれたんだよ」
「あぁ……」
情けないけれど、未だに縁同様、紀江も嫌がらせをされる。
同じ櫻龍会のメンバーだというのに、人の嫉妬心は本当に面倒だ。
「ま、返り討ちにしてやったけどね」
肩をすくめて苦笑いをする紀江は、気にもとめていないようだけれど、返り討ちとは一体、なにをしたというのか……。
「とりあえず、私たちは賢人たちが着くまで宿にいるから。翔太には式で報せたから、みんなが着いたら戻ってくるわね」
「わかった」
紀江は縁に手を振ると、さっさと統領の部屋へ向かって歩きだした。
守人は目を細め、懐かしそうにも寂しそうにも見える表情で縁の胸もとを見ている。
「あ……守人、こっ……これ……駿人の……」
縁は素早く駿人の牙を首から外すと、守人の手に握らせた。
手のひらを開いてジッと牙を見つめている守人は、寂しい気持ちが強いんだろうか……?
「そうか……こうなるんだな……わかった。縁、ありがとう」
「ボクは……なにもできなかった……」
守人は縁の手に牙を置き、その上から両手で包むようにギュッと握りしめた。
「そんなことはない。駿人はいつでも縁を頼りにしていたし、助けてもらっていたよ」
「でも、ボクは……」
「縁、これは縁が持て。そのほうが駿人も喜ぶ」
「だけど……」
「優人も賢人も同じことを言っただろう? 縁が持っていてくれると、オレたちも安心なんだ」
守人は優人や賢人よりも、駿人に似ている。
その守人がそう言ってくれると、駿人に言われたような気がして胸に暖かい感情が込みあげてきた。
廊下の向こうのほうで紀江が守人を呼んでいる。
縁の肩を叩き、紀江のところへ向かう守人の背中を、角を曲がるまで見つめていた縁は、ホロホロと涙をこぼした。
駿人と別れた次の日に、涙が枯れるかと思うほど泣けたのに、今まだ涙がこぼれ、最初は嫌でたまらなかった駿人との旅の日々が、縁にとってとても大切な時間だったと気づかされた。
次は守人なのか優人なのか、それとも賢人なのかわからないけれど、誰かがまた消えてしまうときには、残される紀江や翔太、深玖里には、縁が寄り添ってあげたい。
先だって縁に絡んできたようなメンバーには、強く対応しなければと、改めて駿人の牙に誓った。




