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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
東家 縁 其の二

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第1話 磐城国・白石

 (えにし)は長い廊下を奥座敷まで急いだ。

 深玖里(みくり)櫻龍会(おうりゅうかい)へ加入する手続きを進める中、いくつかの疑問が湧いたから。


 統領のチェック漏れだったんだろうか?

 翔太(しょうた)へ問い合わせの式神を送ったところ、登録をしたのは深玖里の叔父だと言ったらしい。

 叔父であれば、深玖里の性別を間違えようがないはずなのに、なぜか女で登録されていた。


 取り急ぎ、性別に関しては空欄のままで、要確認として承認を得たけれど、いつまでも空欄にはしておけない。

 賢人(けんと)協動(きょうどう)になったことで、本部に来たときに悪目立ちするのは確実だ。

 そんな中で、登録内容に不備があっては、加入自体を問題視されて困るかもしれない。


「しっ、失礼いたします。とと東家縁(とうやえにし)です」


 統領とは子どものころから何度も顔を合わせているけれど、今でも前に出ると極度の緊張を覚える。

 ()()()のはいつものことだけれど、声が上ずってしまった。

 緊張と焦りと恥ずかしさで、全身にじっとりと汗がにじむ。


「縁かい? お入り」


 障子の向こうから声がかかり、縁はソッと障子戸を開いた。

 こじんまりした座敷の真ん中で、統領は櫻龍会へ各国から送られてきた加入申請書類に目を通していた。


「まったく……最近は符術師(ふじゅつし)も少なくなったものだねぇ……」


 統領は書類を次々にめくり、押印しながらため息をこぼす。

 符術師が少なくなったのではなく、それぞれの家が、櫻龍会へ加入させるのを押しとどめているのだろう。


 跡継ぎの長子よりも、次子たちが力をつけ、能力が上回るのを良く思っていない節がある。

 それが女であれば、殊更に。

 紀江(きえ)などは、もう実家を継ぐ兄より強い符術師となり、家族にも相当妬まれているのだから。


 それに……。

 有力な家ほど、櫻龍会が力をつけていくのを危ぶんでいる、と聞いている。

 敵対するほどではなくとも、協力しようとは思わないようだ。

 手を取り合って符術を発展させたほうが、長い目で見て互いに利益になるはずなのに。


「ところで、どうかしたのかね?」


「あっ……はい、じっ、じじ実は、今回、加入申請をした……わ、若山深玖里わかやまみくりですが、性別が誤って登録をされておりました」


「ふうん……そう」


 気のない返事に、縁は思わず膝をにじり寄せて統領に訴えた。


「こっ、このままにしておくワケには、いっいい……いかないと思いますので、私のほうで修正をかけてもよろしいでしょうか?」


「……いいんじゃあないかい? その件は、縁に任せるよ。それからねぇ、賢人が戻ったときの協動承認の準備ね? あれも、登和里(とわり)と縁で進めなさい」


「はい。かしこまりました。でででは、しっ失礼いたします……」


 深く頭を下げ、急いでその場をあとにした。

 早々に書類を再整備しながら、統領になにも問われなかったことに、疑問を抱いた。


 櫻龍会では賞金稼ぎの登録員だとしても、申請の際、身元の確認は怠らない。

 なぜ間違った登録がなされたのか、調べるように言われると思っていた。


 深玖里の見た目は女でも通るけれど、詳細を確認すれば間違うことなどないはずだ。

 こんな初歩的なミス、縁が知る限りはなかったけれど……。


「このまま……しし修正するだけでいいのかな……?」


 深玖里が賢人の協働になったことは、櫻龍会のメンバーに瞬く間に知れ渡った。

 ずっと空席だったところに、突然、新人が入るとなって、誰もが不満を口にしている。

 あわよくば自分が……と考えていたメンバーは多い。安養寺(あんようじ)もその一人だ。


 駿河国(するがのくに)で深玖里を目にしたメンバーがいたせいで、賢人の協働は女だ、と思われている。

 だからこそ、余計に強く妬まれたのだろう。


 書面上だけでなく、口頭でも修正をしたほうがいいだろうか?

 登録ミスの原因を探ったほうがいいだろうか?

 迷いながら胸もとに下げた駿人(はやと)の牙を握りしめた。


 こんなとき、今までなら駿人がいて助言をくれたのに。

 たった今も、これからも、縁が一人で考えて決めなければいけない。


――……縁、強くなれ。符術や剣術だけじゃあなく、心をも……――


 駿人に言われた言葉は、縁の胸の奥に強く残っている。

 心を強くするために、人との関わりかたを今までのように避けていられない。

 わかっていても、今日、明日で、いきなり変われるものでもない……。


「……しょしょしょ書面だけ……いっ、今は書面だけにしよう」


 どのみち、深玖里がここに来るときには、全員が集まるだろう。

 そのときに、それぞれが見て判断すればいい。

 見た上で、全員が深玖里を敵視したとしても、縁は堂々と友視するだけだ。


 事務的な作業を進める部屋へ行き、登和里の姿を探した。

 木ノ内(きのうち)と一緒に地図を広げて話し合っているようだ。


「おおお話し中にすみません……」


「うん、構わないよ。なにかあったかね?」


「今、統領のととところ……へ……協動承認の準備を、とっ、登和里さんと進めるようにと……」


「そう。縁は準備は初めてだったかな?」


「はい」


「それじゃあ、先ずは手配の手順を教えるから、順を追って覚えておくれ」


「わかりました」


 昨日、問い合わせのために翔太へ式神を送ったとき、みんなはまだ、木曽(きそ)福島(ふくしま)にいた。

 白石(しろいし)までは数日かかるだろうけれど、準備は早いほうがいい。

 木ノ内にも教授を請い、縁は準備にいそしんだ。


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