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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の二

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第30話 武蔵国・日野村

 街まで戻り、賢人(けんと)たちが泊っている宿を訪ねると、三人はちょうど食事を終えたところだった。


「あれ? ずいぶん早く戻ったね? ゆっくりしてきても構わなかったのに」


 翔太(しょうた)はそういうけれど、あの家にゆっくりできる場所なんてないし、今日はお墓参りに行きたい。

 それになにより、一刻も早く、櫻龍会(おうりゅうかい)の本部へ行かなければ。


「ゆっくりはできないだろ? お墓参りいくのに午後からってワケにもいかないんだからさ」


「そうだろうけど……」


「和菓子屋さん、そろそろ開くから、みやげものと花を買ってそのまま村へいこう」


 翔太たちを急かし、日野(ひの)の村を訪ねた。

 いつものように、子どもたちに団子や饅頭を配りながら、チヨ婆の居場所を聞くと、もうみんな畑や田んぼに出ているという。


「本当は、はなのお宅に伺って、ご挨拶くらいはしたほうがいいんだろうけど……」


「うん、でもきっと、みんな忙しいだろうから……このまま、お墓に行こうか」


 子どもたちにみやげを全部預け、チヨ婆と二村(にむら)の家へ持っていくように頼んでから、あぜ道を歩いて山へ向かう。

 山の斜面を登ったところに、村を一望するように並んで村人たちのお墓がある。

 二村のお墓は一番手前だ。

 真新しい卒塔婆が、本当にもう()()がいないということを実感させる。


 周辺は掃き清められ、飾られた花もまだしおれることなく揺れていた。

 翔太はその花と一緒に手にした花を挿し、墓石の前にしゃがみ込んだ。


「来るのが遅くなってごめんな」


 そう言って目を閉じて両手を合わせている姿は、いつもの軽薄さはまったくなくて、悲し気にみえる。

 深玖里(みくり)や賢人、優人(ゆうと)が目を開いても、翔太はしばらくのあいだ、身動きもせず手を合わせ続けていた。


 もっと早く、もっと稼ぐことができていたら、今ごろはこの眼下に広がる村の田畑の中で、()()も仕事をしていたかもしれない。

 今、ここでは違う景色が見えたかもしれない。


 この先もずっと、きっと何度でも同じことを思うだろう。

 いつまでも消えることのない罪悪感を抱きながら、深玖里は必ずほかの黒狼(こくろう)も探し出し、倒してやろうと自分自身に誓った。


「いい景色だね」


 いつの間にか、翔太が隣で同じように村を見おろしていた。


「そうでしょ? 秋になるとまた、色づいた稲穂がキレイなんだ」


「へぇ……その時期に、また来れるといいんだけど……」


 櫻龍会で旅をしていると、なかなか思う時期に思うところへはいけないようだ。

 翔太はそれでも、どうにかして時間を作りそうな気がする。

 それに、黒狼を早く倒してしまえば、今よりは時間が作れるだろう。


「なるべく急いで櫻龍会の本部に行こうよ。黒狼の情報、きっと集めているんだろ?」


「そう思う。(えにし)はまだ、なにも言ってこないけれどね」


「深玖里、着替えはしなくていいのか?」


 賢人に問われ、今は男の格好でいることを思い出した。


「今日のところはこれでいいかな。それより、櫻龍会の本部ってどこにあるの?」


「あぁ、そういえば場所について話していなかったな。磐城国(いわきのくに)白石(しろいし)にあるんだ」


「ふうん……ここから、どうやって行く?」


 お墓の脇にある東屋(あずまや)で、優人は地図を広げた。

 ここから男衾郡(おぶすまぐん)榛沢郡(はんざわぐん)を通って上野国(こうずけのくに)下野国(しもつけのくに)を抜け、磐城国に入るといった。

 深玖里は岩代国(いわしろのくに)も磐城国も行ったことはあるけれど、白石までは行っていない。


「今から出発すれば、利根川(とねがわ)辺りまで行かれるだろうな」


 優人が指で辿るルートを確認して、賢人と翔太も含めて先のことを大まかに決めた。

 大きな街を通るときには、必ず請負所を確認することも忘れないようにしなければ。

 黒狼の(えん)駿河(するが)で出たけれど、ほかの三頭はどこにいるのかわからない。

 本部までの道中に出ないとは限らないから。


守人(もりと)たちは今ごろ、どの辺りまでいっているだろうな?」


「峠越えでなにもなければ、もう下野国まで行っているかもしれないな」


「おれたちも急げば、追いつくかもしれないな」


 優人と賢人が話しているのを聞いて、深玖里はドキリとした。

 やっと離れたのに、本部につく前にまた一緒に旅なんて、とてもじゃあないけど深玖里の精神がもたない。


「いっ……いいんじゃない? 別に追いつかなくても。どうせ行き先は同じなんだし……」


「さっきは急ごうと言ったじゃあないか?」


「紀江に会うのが嫌なんだろう?」


 優人と賢人に指摘されて言葉に詰まる。

 とはいえ、今の状態で紀江(きえ)と何日も旅をするのは絶対に避けたい。


「深玖里ちゃん、そんなに紀江を嫌わないでやってよ?」


「別に嫌いなんじゃあないよ。たださ、ホラ、紀江はオレを女だと思っているから、旅の途中で男だって気づかれても面倒でしょ?」


「あぁ、そっか……騙したのなんのって、うるさく騒がれるのも確かに面倒かなぁ」


 騒がれるだけならまだいい。

 紀江の符術(ふじゅつ)を見てしまったから、アレを喰らうのだけは御免だという気持ちのほうが強い。


「まあ、先ずは出発しよう。途中で会うかどうかもわからないのに、その心配をしても仕方ないんだからな」


 優人の先導で山を降り、日野の村を離れた。

 途中、翔太は名残惜しそうに何度も山を振り返っていたけれど……。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

ここまでで、また一区切りになります。

ただただ長いのに、お付き合いくださる皆さまには感謝しかありません。

少し間を開けて、次の章を綴っていきますので、しばらくお待ちいただけると幸いです。

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