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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の二

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第25話 武蔵国・秩父郡

「ひ~……ホントに山道なんだねぇ……」


 木に手を掛けて斜面を登りながら、翔太(しょうた)は息をあげて情けない声を出した。

 賢人(けんと)優人(ゆうと)は泣き言は言わないけれど、しんどそうな様子が見て取れる。


「しっかりしてよね! この山を越えなきゃ、姉さんの村には着けないんだから!」


「わかってる……頑張るよ……っと」


 横たわる木の幹を踏みしめて登ってくる翔太は、いつになく真面目な顔だ。

 最初こそ、姉の相手が翔太なんてとんでもないと思っていたけれど、こんな姿をみると本当に姉を思っていてくれたのが良くわかる。

 あんなことがなければ、今ごろは……などと、浮かんでくるのはたらればの話と後悔ばかりだ。


 見晴らしの良い場所まで来ると、翔太は山のすそ野に広がる小さな村の景色を眺め、目を細めている。

 きっと翔太のほうも、深玖里(みくり)と同じようにやるせない気持ちを抱えているだろう。


 賢人と優人はどうなんだろう?

 駿人(はやと)がいなくなったことに対して、なにか思うところがあるんだろうか?


「深玖里、この先はどっちへ行く?」


 優人が指で示す先には、二股に別れた道がある。

 片方はさらに山を登る、上へ行く道、もう片方は、下る道。


「これは登るほうだよ」


「そうか」


 深玖里が先導しなくても、二人はどんどん山を登っていく。

 翔太もなんだかんだとブツブツ言いつつも、しっかりとついてくる。


 数時間が過ぎ、山頂付近の開けた場所で昼飯を食べた。

 ここから谷へと降りて谷川を渡れば光葉山(みつばやま)だ。

 そこまで行けば、日野(ひの)の村もそう遠くはない。


 動物たちの視線を感じながら、谷を降りて川を渡った。

 光葉山に足を踏み入れたとき、遠峯(とおみね)の遠吠えが聞こえてきた。


「今の……まさか、狼じゃないよね?」


「違うよ。あれはここの(ぬし)だから」


「主……というと、山犬か?」


「そう。遠峯っていうんだよ」


「それって、確か光葉山の主だったよね? ってコトは、ここは光葉山?」


「うん」


「そうか……ここが……」


 翔太だけでなく、(えにし)紀江(きえ)も気にしている、光葉の一族が済む場所だ。

 変な緊張感が伝わってきて、深玖里としては少々複雑になる。

 そのまま山を越え、中腹あたりに来たときに、斜面からすそ野を見おろせる場所で、深玖里は翔太たちを呼んだ。


「ホラ、あそこ。見える?」


「んん……? あ~、なんだか大きな建物がみえるねぇ……」


「あれが、光葉の家だよ」


「へぇ……あれがそうなのか……あそこ、近寄れないかな?」


「無理だよ。すぐに見つかるね。結界が張ってあるから」


「ずいぶんと詳しいじゃあないか?」


 優人は光葉には興味がないのか、それでも深玖里が家の場所を知っていることに疑問を持ったらしい。


「まあね。この辺じゃあ、有名だから。さ、あと少しだから、早く行こう」


 三人を急かすようにして、また先を急いだ。

 この様子なら、暗くなる前に日野の村に着けるけれど、墓参りに行くには遅い時間だ。

 翔太には、明日になるまで村で待っていてもらわなければ。


 山道を下っていると、やがて庵の屋根が見えてきた。

 急ぎ足で向かうと、もう銀子(ぎんこ)茂助(もすけ)が待っていた。


「深玖里さま、お疲れさまにございますー」


 二匹揃って頭をさげる。

 何度言っても、どうしてもかしこまっている姿に、深玖里ももう(とが)めるのを諦めた。


「アンタたち、無事に使いをこなしてくれてありがとうね」


 銀子と茂助のお陰で遠峯に話が通り、獣たちに襲われることもなかった。

 途中で獣や妖獣(ようじゅう)を倒しながらだとしたら、こんなに早くここまでたどり着けなかっただろう。

 二匹を戻し、木彫りの人形をカバンにしまうと、また先へ進む。


 日が傾きはじめ、山の中は薄暗くなっていく。

 ここから平地に出ると、オレンジに染まる畑や田んぼがとても奇麗に見える。

 もう村のみんなは、仕事を終えて家に戻っているだろうか?


 先に姉の実家である『二村(にむら)』の家に行くか、それとも(おさ)である『チヨ婆』のところへ行くか……。

 今夜は村の近くで宿を取るとはいえ、明日の墓参りに黙って訪れるワケにはいかない。

 今後のことも話し合うと考えれば、チヨ婆に先に会ったほうがいいか。


「今日はもうお墓参りにいく時間じゃないから、近くに宿を取って、明日、行くことにしようよ」


「うん、そうだね。それに、()()の実家に手みやげくらいは持っていきたいんだけど」


「そうか……一応ね、宿の近くに和菓子のお店があるんだ。アタシはいつも、そこで買っているんだよ」


 村を通り過ぎた先にある宿に入り、大部屋へと通された。そのときに、深玖里の夕飯だけ断った。

 この宿は、いつもここへ来るときに使っているから、融通が利く。

 深玖里は着いてすぐに、風呂へと向かい、体を清めてから着替えをした。


「深玖里、その格好、どうしたんだ?」


「男の格好なんて、初めてみるな」


 優人と賢人に言われ、深玖里は苦笑いをしてみせた。


「女の格好で実家に顔を出すのは、チョットね……継母がうるせーんだよ」


「あ……そっか、そういえば深玖里ちゃん、実家に寄りたいって言ってたよねぇ」


「そう。だから、今夜は帰れないけど、明日の朝には戻ってくるよ。悪いけどそれまで待っていてくれよな」


「それはいいけどさ……帰れないって、実家、遠いの?」


「んん……遠いといえば遠いけど、近いといえば近いよ」


 三人とも不審を隠せない、なんとも言えない顔をしている。


「今日、来る途中で見ただろ? あそこ、オレんち」


「え……? だって、見たのは光葉……えっ? うっそ!? じゃあ、深玖里ちゃん光葉の――?」


「次男だよ。美少年かどうかは知らないけどね」


 深玖里は長い髪をまとめて団子状に結ぶと、カバンを肩にかけ「じゃ、チョット行ってくるから」と、唖然としている三人をそのままに、宿を出た。

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