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獣奇抄録 ~神炎の符と雪原の牙~  作者: 釜瑪秋摩
若山 深玖里 其の二
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第23話 信濃国・武蔵国へ向けて

 参拝をしてから、秋宮(あきみや)でも境内を眺めて歩き、門前の茶屋が開くのを待って、紀江(きえ)と一緒に団子を食べた。

 賢人(けんと)たちが着くには、まだもう少し時間がかかりそうだ。


「ねえ、諏訪湖(すわこ)、みにいく?」


「え~? 面倒くさいじゃない? ここで待っていればいいわよ~」


「でも、奇麗だったよ?」


 紀江は団子を食べながら、行くのを渋ってお茶のお代わりを頼んでいる。


「私、近江国(おうみのくに)出身だって言ったでしょ? 湖なんて毎日見ていたもの」


琵琶湖(びわこ)、だっけ? 噂では凄く大きいらしいけど、ホント?」


「大きいわよ~。場所によっては、対岸がみえないんだから」


「そんなに? 凄いね。想像もつかないよ」


「湖の中に、島もあるのよ」


「嘘だぁ……さすがにそんなに大きくはないでしょ?」


「ホントよ! 今すぐにでも見せてやりたいわね」


 いろいろと話しているうちに、あっという間に時間が経ったようで、街道をやってくる優人(ゆうと)たちの姿がみえた。


「紀江! 姿がないと思ったら、先に来ていたのか!」


 守人(もりと)が怒った様子で駆け寄ってきた。

 紀江はまったく気にする様子もない。


「だって深玖里(みくり)下諏訪(しもすわ)に泊まるなんて言うからさ。せっかくだから、一緒に泊まろうと思ったのよ」


「え? じゃあ、紀江、夕べのうちにこっちに来てたの?」


「なによ? 翔太(しょうた)が深玖里が下諏訪に泊まるって言ったんじゃないの」


「俺、深玖里ちゃん、呪符(じゅふ)作るからっていっただろ?」


「翔太、いいよ。アタシ結局、岡谷(おかや)に泊まったからさ」


「ホラ! 深玖里もいいっていっているでしょ? 結果、邪魔しなかったんだからいいじゃない」


 開き直った紀江の態度に、思わず深玖里は笑ってしまった。

 ちょっと意地悪で、押しつけがましくて、強引なようだけれど、良いように考えると、素直で世話焼きと思える。

 深玖里のことを嫌じゃないといった言葉は、信用できそうだ。

 紀江と守人とは、ここで別れたら櫻龍会(おうりゅうかい)の本部へ行くまで、会うことはない。


「それじゃあ、次は本部で」


 そういう守人に、紀江は最後まで深玖里たちと一緒に行くといってゴネていたけれど、守人に首根っこを掴まれるようにして中山道を先へ進んだ。

 大きく手を振る紀江に、深玖里たちも手を振って別れた。


「深玖里、ここから先、どのルートで武蔵国(むさしのくに)に入る?」


 優人に聞かれ、深玖里はこのまま甲斐国(かいのくに)巨摩郡(こまぐん)まで行き、小淵沢(こぶちざわ)から赤岳(あかだけ)を回るルートを説明した。


「山道が多いから結構キツイんだけど、なんだかんだでアタシの家に行くには、近いんだよね」


「赤岳を回って……信濃国(しなののくに)佐久郡(さくぐん)千曲川(ちくまがわ)沿いに抜けていくのか……」


「うん、そう。山ン中を通るんだけど、途中に宿もあるんだ。それに温泉もあるから、疲れもチョットはとれるよ」


「そうか。それじゃあ、それで行こう」


「請負所はどうする? 寄っていくのか?」


 賢人はこのところ、依頼が少ないのが気になっているようだ。

 深玖里も本当は、少し稼ぎたいところだけれど……。


「小淵沢までと佐久郡に入る前には、見たほうかいいかも」


「えっ? 赤岳を回るんでしょ? それならその前にも寄ったほうがいいんじゃない? だって山道が多いんだよね?」


「ん……そうなんだけど、多分、甲斐国と武蔵国は大丈夫だと思う。茂助(もすけ)銀子(ぎんこ)を、(ぬし)に使いへ出したから」


「主に話を通してあるのか? そういえば、長船山(おさふねやま)での熊の案件、主に頼まれたとか言っていたよな?」


「そう。甲斐国の下のほうだと難しいけど、長船山の近くを通るし、武蔵国もそのまま秩父(ちちぶ)に続く山だから」


 深玖里がそういうと、三人とも感心したような表情をみせた。

 そんなに珍しいコトじゃあないと思っていたけれど、翔太に言わせると、珍しいことだと言われた。


「まあ、とにかく、甲斐国と武蔵国は大丈夫だから、一回、茅野(ちの)の請負所で様子を聞いていけばいいよ」


「そうだな。小淵沢までは、そこそこの距離があるから、あまり遅くなると暗くなる」


「だね。先を急ごうか」


 紀江と守人がいなくなって、妙に静かに感じる。

 紀江が賑やか過ぎたんだ。

 なんとなく、ほんの少しだけ寂しい気分になった。


 道中、茅野や富士見(ふじみ)で請負所を覗いてみたけれど、特に大きな案件は出ていなくて、なにも請け負うことはなかった。

 この辺りの山にも動物はいるけれど、八ヶ岳(やつがたけ)は広い。

 山を降りてくることも少ないんだろう。


「こんなに案件が少ないっていうのはさ、やっぱりあの駿河国(するがのくに)に出た、山犬や猿たちに交じっていたのかなぁ?」


 翔太がポツリとこぼした。

 賢人と優人も、同じことを考えていたらしい。


 深玖里は駿河国に入るまで、甲斐国を通ってきたけれど、駿河の城下に着くまでは、ほとんど獣に出会わなかったし、依頼もなかった。

 だから、翔太たちが平塚(ひらつか)箱根(はこね)で、獣の群れと対峙していたとは、思いもしなかった。


「賢人は? アンタも甲斐国を通って駿河に行ったのよね?」


「おれも、深玖里と同じで、ほぼ素通りだったよ」


 だとすると、本当にこの辺りからも移動したのかもしれない。

 こんなに広い地域の獣を動かすなんて、黒狼(こくろう)はどれほどの力を持っているんだろうか。

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