わすれずに、みていてね
シクシクのお話
若くて愚かなシクシクは、町医者に連れられ、どうやら旅の目的地へと、ついに到着してしまったようです。
シクシクは怯えながら、ゆっくりと、シクシクの祖母の元へ歩いて行きます。
「おばあちゃん。シクシクだよ。ぼくが来たんだ。」
「シクシク、もっとこちらにおいで。よく顔が見たいの。」
「おばあちゃん!」
シクシクは悲痛な叫びをあげました。
横たえるシクシクの祖母は、誰がどう見たって、もう長くありませんでした。
想像しているものより、もっとずっと悪い今に、シクシクは驚きを隠せませんでした。
「かわいいシクシク、泣かないでおくれ。私は、あなたの帽子のまたたきのひとつになるだけよ。」
シクシクはその言葉に、泣きじゃくる他ありませんでした。
「あなたのこと、ずっと愛してるわ。」
「それなら、ずっとシクシクと一緒にいてよ!」
シクシクはついに怒り始めました。どんなワガママもきいてくれたシクシクの祖母ですから、当然これもきいてくれるはずだと、シクシクは信じて疑えません。
「それだけは、それだけは。きいてあげられないの。ごめんね、シクシク。」
シクシクは、受け入れがたい現実に直面しているのが分かりました。
期待していること、信じていること、それらに対して自分の想像を下回ったことで、とても大きなショックを受けたのです。
おばあちゃんなんて、大嫌いだ!
シクシクは心底そう思いました。
しかし、それを声に出してはならない、とも思いました。
暗い森を越えた時に、学んだのです。
シクシクがそんなことを言っては、シクシクの祖母が、どんなに辛く悲しい思いをするか、想像しました。
大嫌いだと、言おうとするなんて、シクシクは自分が小さく感じました。
しかし、そんなことを考えてはならない、とすぐ思い直しました。
小川を辿った時に、学んだのです。
シクシクがそんなことを言っては、シクシクの祖母はただでさえ、シクシクに別れを告げることで自分が嫌になっただろうかと、想像しました。
そして、思ったのです。
海を沿って歩いた時に、学んだのです。
シクシクの祖母が、今までシクシクにしてくれたこと。
愛情いっぱいに、大好きでいてくれたこと。
それを、帰さなくちゃいけないこと。
祖母を、責めてはいけないこと。
へたくそな言葉でも、恐れずに、まっすぐ自分の気持ちを伝えること。
そしてなにより、ありがとうと伝えること。
町医者に、学んだのです。
「おばあちゃん。ぼく、ワガママをたくさん言ってしまったね。本当にごめんなさい。おばあちゃんを愛してるから、離れたくなくて、分かってるのに。こんなぼくを、愛してくれてありがとう。ずっと大好きなんだ。ありがとう。」
シクシクはひとつひとつ、言葉を噛み締めて、選んで、やっとの思いで言いました。
「わたしはね、あなたのようなかわいい孫に会えて、心の底から嬉しいのよ。愛しているわ。シクシク、大きくなって…」
ふ、とシクシクの祖母は目をつむり、そのまま何も話さなかった。
シクシクは、とても悲しかったけれど、それでも、最後の言葉を聞けて嬉しかったと思いました。
シクシクはいつまでも若く、愚かです。
成長しても、また次の成長までもがき苦しむことでしょう。
そしていずれは、成長を忘れまた同じことにぶつかることもあります。
それでも、シクシクは歩を止めないのです。
読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
ここではずいぶんとジャンルが違うような気がしていました。
でも、内であたためていたらあつくなってきましたので。
お目汚しを、大変失礼いたしました。
どうかシクシクを、忘れないでいてくだされば、幸いです。