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シクシクのお話  作者: なみだを
4/5

もう、だいじょうぶ

シクシクのお話


若くて愚かなシクシクが暗い森を越え、小川を辿り、海を沿ってその先にある集落へと向かうのには、理由がありました。

それというのも、その集落にはシクシクの祖母が暮らしているのです。


シクシクがずぅっと被り続けている、青いトンガリ帽子。

星の飾りがまたたいて、いつもシクシクに勇気をくれます。

くたびれてボロになった、革靴。

足によく馴染み、鈍くつやめいているのが、シクシクの自慢です。

他にも、鼻先が乾燥したときに塗る甘いクリーム、耳の毛が伸びすぎた時に使うナイフ、暑い陽射しも寒風も防ぐもったりした生地のマント。

全部、ぜんぶ、シクシクの大のお気に入りです。


それらは、以前シクシクの祖母が、シクシクの為にこしらえたものです。

シクシクは祖母に愛されていたし、シクシクも祖母のことがだいすきです。


しかし、そんなシクシクの祖母が病に倒れたのは、シクシクが暗い森を抜けるより少し前のことです。


あいにく、シクシクのいなかには医者がおらず、暗い森を越え、小川を辿り、海を沿った先にある集落に、やっとシクシクの祖母を診てもらえるところがありました。


シクシクは両親に言われ、祖母の様子を見に来たのです。


「おばあちゃんに会うのが、怖い。」


ピタリ、足を止めたシクシクがひとり呟きます。


シクシクは、だいすきな祖母を失うのが怖い、とハッキリ自覚していました。

このまま、やっぱり帰ってしまおうと、踵を返そうとしたその時です。


「おや?きみは。」


白衣を着た大柄なヒグマが、シクシクを見て何かに気がついたように声をかけました。

シクシクも、あんまり大きな存在に驚いて、動けなくなりました。


「シクシクに、なんかご用?」


ついに絞り出したように、シクシクはか細く巨体に質問を投げかけました。


「いや。いい帽子だね。」


「当たり前さ!シクシクのおばあちゃんが作ってくれたものだ。何にも負けるわけがない。」


シクシクは、さも当然だ、と言わんばかりに言い放ちましたが、ハッとなって口をつぐみました。


「なにも勝負を仕掛けたかったわけではないんだ。これは失礼したね。すまない。きみの帽子は素敵に決まってるさ。」


「ううん。シクシクが言い過ぎたんだ。ごめんね。」


「おやおや。謝ってくれて、ありがとう。」


町医者はそっ、と微笑みました。


「ありがとう?何が?」


シクシクは怪訝な顔をしました。


「きみは私の気持ちを汲んでくれたんだ。それはきみが私に寄り添ってくれた、優しさのためさ。その優しさに、ありがたく思ったんだよ。」


「そんなことで?」


「そんなことじゃないさ。大事なことだよ。」


ふうん、とシクシクはヒグマと目を合せ、あたたかな茶色い瞳をじっと眺めたあと、こう言いました。


「帽子を褒めてくれてありがとう。」


「どういたしまして。」


どうやらシクシクは、ヒグマの真似をして、お礼を言ってみたようです。

するとどうでしょう、シクシクは、こころがあたたかくなるのを感じました。

シクシクは、また何か得たような気持ちになりました。


「とろこできみ、その素敵な帽子はローベさんの?」


「え?なぜおばあちゃんの名前を知ってるの?」


「おや、やはりそうか。きみのおばあさまから話に聞いていたんだ、かわいいお孫さんがいるとね。おいで、案内しよう。」


シクシクは、大きな体を揺らしているのを、瞬間眺めていましたが、すぐに追いかけ始めました。

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