さあ、いこう
シクシクのお話
若くて愚かなシクシクは、小川にそって歩いていました。しかしやがて思い立ったかのように立ち止まり、言いました。
「シクシクなんかきらいだ。」
シクシクは水にうつるシクシクを見て、心底そう思いました。前に、世の中をつまらないと言ってオトナぶったことを後悔しているのです。
前回の反省をいかしたつもりでこう言ったのですが、それを耳に入れてしまった水辺のゴミたちがくちぐちに言いました。
「おまえ、そんな贅沢を言うなよ!」
「自分がきらいだなんて言うもんじゃないわ。」
「ジョークか?面白くないぞ!」
こうも矢継ぎ早に言われて、シクシクも腹が立ちました。
「おい、贅沢ってなんだよ。それにこれはジョークじゃない!本心で言ってるんだ!」
「本心だと!」
なおさら良くないね、とやはりくちぐちにゴミたちは言いました。シクシクは、苛立ちを隠すことなくゴミを睥睨しました。
「ゴミのくせにうるさいぞ。わきまえろよ。」
「我らをゴミと呼ぶな!だいいちゴミと呼ばれるのはおまえらのせいだぞ!」
「そうだ!そうだ!」
「私たちは捨てられた被害者よ。ぞんざいに扱われていいはずがないのよ...」
シクシクは最後のゴミの言葉を聞いて、少し同情しましたが、ゴミはゴミだと気を持ち直しました。
「そんなことはいい。それより、シクシクの何が贅沢だって?シクシクが心からきらいだって、別に関係ないだろう。」
ゴミたちは、ついに泣き出してしまいました。
シクシクはあまりに突然なことで、どうしたらいいのか分かりませんでした。
「我らは蔑まされる!何故か?ゴミだからだ!」
「認めたくはないが、そういうことになってるからな。」
シクシクは首をかしげました。そしてこう言いました。
「正しい評価じゃないか。」
するとゴミたちはさらに大声で泣きました。
「正しい評価!評価ね!そう!おまえらってほんとうに、たいしたヤツらだよな!」
「自分の価値観がすべてだ!ああ、たいしたヤツらだこと!」
「私たちの評価って、あなたたちが決めることだったかしら...?ねえ、ほんとにそう思うなら、たいしたヤツらだわ。」
シクシクは、次第に面倒になってきました。こんなのと話しても得るものはないと決めてかかりました。
「これ以上話してると退屈なんだけど。」
「なら手短に言うけど、あなたが自分をきらいだって構わないわ。けれど、あんまり言わないことね。」
「まわりの評価で既に下だって決まってるのもいる。」
「それが我ら...だ。だが、おまえときたらどうだ?我らより上と評価されるおまえは、自分がきらいだって。それを聞いた我らはいったい何なんだ?」
シクシクは、何だと聞かれてもゴミだとしか言いようがないと思いつつ、確かに虚しい気持ちを覚えた。
「まったく贅沢だ。おまえってやつは!」
「ああ、ほんとうに他人の気持ちを考えてものを言え!」
「あなたに悪気はないと思うわ。でも悲しいのよ。わかるでしょう?」
シクシクは何か得たような気持ちになりました。シクシクは彼らに対する評価を訂正しました。
「きみらは正しいよ。シクシクは配慮が足りなかった。今は心から思ってるよ、シクシクのこと嫌いじゃないって。」
「そうか...そうか!我らは嬉しく思うぞ!」
「ああ、あまり卑屈になるなよ。」
「あなたがそうおもってくれて、良かったわ。」
シクシクは、また流れにそって歩き出しました。ゴミたち、いや、彼らに別れを告げて。
やがてシクシクはひろい水たまりを見つけました。シクシクは好奇心でいっぱいです。
シクシクは、歩きます。