かわいそうな、シクシクへ
シクシクのお話
あるところに、シクシクという子がいました。シクシクはとても若く、そして愚かでした。これは、そんなシクシクのお話。
シクシクは暗い森の中をひとり歩いていました。つまらない世の中だと考えながら、そんなことを考える自分がなんだかオトナっぽいと考えつつ、歩を進めます。
「まったく、つまらない世の中だ。」
シクシクは全てを見てきたように言いました。その様子が目に入った、木の上の梟が言いました。
「きみは愚かだね。つまらないだなんて、失礼じゃないか。」
「失礼だと?いったいぜんたい、シクシクの何が失礼なんだ!」
シクシクはひどく憤慨しました。
それにうろたえることなく、梟は言いました。
「きみの両親や、きみと接してきたもの達に対して、失礼だと言っているんだよ。」
シクシクは、ばかにしたように梟をひと笑いしました。
「あのねえ、シクシクが世の中を批判したところで、両親たちに失礼になるだなんて法律はあった?いいや、ないね!いい加減なこと言うな、ハッタリ梟め!」
「法律?きみは何をいってるんだ...」
梟はいよいよ呆れてきました。シクシクはあんまり愚かなので、梟も面白くありません。
シクシクは自分の言ったことが正しいと思っていますから、梟が面白くない理由は露ほども分かりません。
「きみに話しかけたのが間違いだったようだ。」
梟はバサバサと音をたてて飛んでいきました。
シクシクはそれを視界の端でとらえながら、言いました。
「シクシクだって、おんなじ気持ちさ!お前に答えなければよかった、ってね!」
シクシクは気分を悪くしながらも、こう思いました。
(あいつ、かえってこないかな。)
しかし、いくら待っても梟は帰ってきませんでした。シクシクは、その間に梟の言葉を思い返しました。
「失礼って何なんだ?シクシクは、何が失礼なんだろう。」
シクシクは考えました。つまらない世の中だ、ということがどうして失礼になるのか。
両親の顔を思い浮かべました。それに向かってシクシクは、世の中なんてつまらないね!と叫んでみました。するとどうでしょう、両親はさめざめと泣き始めました。
「お父さん、お母さん!どうして泣くんだ!シクシクに教えて、ひとりでは分からないんだ...」
シクシクも泣き始めました。
すると、シクシクという泣き声が聞こえた梟が戻ってきて言いました。
「ご両親はきみを愛しているんだよ。それなのに、きみが世の中をつまらないというなら、ご両親は自身を責めるだろうね。」
「どうして?」
「きみはまったく、おばかだね。想像の両親は泣いたのに、それが思いつかないなんて。」
「確かに、シクシクはばかだよ。もっと小さいときからずうっと言われてる。そんなこと、言われなくたって分かるくらいにね!」
シクシクは昔を思い出して、へたくそな何でもないフリをしました。梟はそれを見て、少し態度を改めました。
「では教えてあげよう。きみがご両親になった気持ちで、きみがつまらないと言ったとしよう。さあ、どう思う?」
シクシクは少しも考えずに言いました。
「あいにく、シクシクには子供がいないんだ。」
「きみね、ほんとに私を不快にさせるよね。想像して。」
梟の突きはなすような物言いに、シクシクは悲しいんだか、怒りたいんだか分からない気持ちになりました。
しかしシクシクはつとめて冷静に想像しました。
シクシクには、子供がいます。名前はラックスープです。ラックスープは唐突に言いました。
「つまらない世の中だ!」
シクシクは、一生懸命そだてたラックスープにそんなことを言われて、なんだか無気力になりました。
せっかく愛を注いできたわが子に、愛なんて関係ない、つまらないんだから。と言われたように感じて、ショックでした。
つぎに、シクシクは近所に住んでいたハツカネズミの気持ちを想像しました。
ハツカネズミは、たまたま通りがかったシクシクに挨拶をしました。しかしシクシクは、「挨拶なんてつまらない。だから世の中もつまらなくなるんだ!」と言い放ちました。
ハツカネズミは、そりゃあないだろう、という気持ちになりました。ただシクシクにおはようと言っただけなのに、つまらないだなんて。
「そうか、分かったぞ!」
突然あげられた声に、梟は驚いてまたバサバサと飛んでいってしまいました。
シクシクはとある結論を導き出しました。
「両親は悲しむし、ハツカネズミは怒る!すべては、シクシクが他人の気持ちも考えずにシクシクの見える世界だけを押し付けるからだ!」
想像のハツカネズミが、それだけではないけれど、まあよくできた方だろうと頷きました。
おいおいわかればいいのです。
シクシクは気分よく暗い森を歩き続けましたが、やがて森は終わりそうです。次はどんな場所にでるのでしょう。
シクシクは、歩きます。