第2話 派遣冒険者
俺と同じ地球からの召喚者だというアル爺さんと出会ってから1時間程経つ。
その間、俺は未だこれは夢だと思いつつも、とりあえずアル爺さんからこの世界について色々と説明してもらい、ある程度は理解できた。
まず俺が召喚された大陸の名前は『アトランデス』というらしく、俺の知識にある謎の大陸『アトランティス』に名前が似ているので更に胡散臭い気がしたのは言うまでもない。
それにこの世界の人間の大半は魔法が使えて当たり前、魔王やら魔物やらエルフややらドワーフなどラノベやアニメの世界でお馴染みの奴等も存在していて……
絶対に夢だろうが!!
と、言いたいところだが、まぁ、アル爺さんの話は非常によくできているので引き続き説明させてもらうけども……
俺が召喚された今いる土地を支配している国は『ガルバルド帝国』といい、この国は大陸の中でも一番経済が発展しているそうで特に多彩なギルドが経済を支えているという。
昔はギルドなどは無くどの職業も個人経営か国営だったらしいが何十年前かに『経済改革』が行われたそうで、ギルドという名でまとめられた株式会社や投資家などが誕生したことにより経済が急激に発展したそうだ。
主なギルドをあげると冒険者(探索・護衛・傭兵等)、医療(薬学・錬金術)、鍛冶師(金属加工・建築等)、金融(銀行・投資等)、運搬(配送・鉄道・郵便等)、メディア、娯楽、農作物、水産物、酪農等々……
ちなみにギルド発足の先駆けが冒険者ギルドらしく、冒険者ギルド創始者はなんと異世界から召喚された勇者で四十年前、彼が魔王を倒した後に皇帝からの褒美の一つとして『株式会社グーグッド・ワールド・アドベンチャーズ』(略称:GWA)を起こしたらしい。勇者が起業家に変身というのも面白い話だな。
それで元勇者が創設したギルドは現在も大陸最大手冒険者ギルドでガルバルド帝国の経済を支える中心企業の一つとして君臨している。
ついでだからGWAについても説明しよう。
【株式会社グーグッド・ワールド・アドベンチャーズ】
●資本金1億ゼニコ(1ゼニコ:1円)
●従業員
・役員21名(社長含む)
・管理職約1000名(各地ギルド支社長及び地区責任者含む)
・事務職約5000名(各地ギルド受付係含む)
・正規冒険者約10000名(パーティリーダー約1000名)
・派遣冒険者約50000名
この世界の通貨がゼニコというのも突っ込みたいところだが、それよりも冒険者が正規冒険者と派遣冒険者に分かれていることを知り「この世界にも派遣社員制度があるのかよ?」と心の中で突っ込んでしまった。そして正規と派遣の待遇の違いも日本と似ているのだから更に驚きだ。
まず冒険者にはランクがあり、SSS、SS、S、A~Zまでと「細かすぎるだろ!」と言いたいくらいにかなり細かく分類されている。
ただランク付けのルールを説明すると長くなるので今回は割愛するが正規冒険者と派遣冒険者の違いは紹介しておこう。
【正規冒険者採用条件】
➀冒険者ランクG級以上
※但しG級は契約社員扱い(5年以内にランクアップしなければ解雇もしくは派遣扱い)
➁経験・魔力・武力のいずれかの能力値が100以上
➂冒険者学校(3年制)卒業生(F級以上にならないと卒業できない)
【正規冒険者の福利厚生及び給与】
➀社保完備・雇用保険・交通費支給・週休2日、有給休暇初年度年間10日(勤務半年後に使用可能)最大年20日、退職金有(3年以上勤務が条件)
➁正規冒険者基本給25万~35万ゼニコ+残業・深夜手当+分配金
※パーティリーダーはリーダー手当あり
※新人(1年間)及び契約社員は基本給20万ゼニコ
※分配金とは狩った魔物のレベルや数または素材価値や採取した魔石、薬草などの価値及び採取数など総額の5パーセントがパーティに支払われる。それをパーティリーダーが仲間と分配するシステムで強いパーティほど分配金が多くなる。
➂賞与年2回(基本給の3ヶ月)
※新人及び契約社員は基本給の1ヶ月
➃Cランク以上の鍛冶師が造った武器・防具・備品などの無料支給
【派遣冒険者採用条件】
➀冒険者派遣ギルドに登録必須
➁冒険者ランクは不問(Zでも可)
➂学歴、能力値も不問(高いユニークスキルがあれば時給に影響あり)
【派遣冒険者の福利厚生及び給与】
➀社保完備・雇用保険・交通費支給・週休二日、有給休暇年度年間10日(勤務半年後に使用可能)最大年20日、退職金無し(派遣ギルドによっては慰労金有)
➁時給1000ゼニコ~3000ゼニコ+残業・深夜手当
➂分配金・賞与無し(派遣ギルドによっては寸志あり)
➃Dランク以下の鍛冶師が造った武器・防具・備品などの無料支給
➄冒険者パーティは正規冒険者の中に数名の派遣冒険者を加えなければいけないというルールがあるが派遣冒険者は同じパーティに3年しか所属できないという縛りがある。
この意味の分からないルールもまさに日本の派遣業界と同じじゃないか……
俺はこの『3年縛り』のお陰でどれだけ良い人材を失ったことか……
「ということだからヒロはまず冒険者学校に入学するか冒険者派遣ギルドに登録しないといけないな」
「いや、待ってくださいよ! 何で俺が冒険者になるていで話をするのですか? それにこの歳で学校って……無理があるでしょ?」
それに派遣冒険者ってなんだよ!?
何で俺が派遣なんだよ!?
正規冒険者との待遇に差があり過ぎだし……それに俺はついさっきまで会社の課長代理で部下も十数名いてその部下の中には派遣社員も契約社員もいてだな……俺にだってプライドってものが……プライドかぁ……
……はぁぁ……この世界がマジで夢じゃないとしたら俺のプライドなんてクソみたいなものになるんだろうなぁ……
「ところでヒロはいくつなんだい?」
「お、俺はもう50を超えているオッサンなんです。だから……」
部下達からは年齢よりも若く見えるとは言われていたが……
「50歳? うーん、そんな感じには見えないが……まあいい、ヒロ、右手を少しだけ挙げて『ステータス』と言ってみてくれないか?」
「へ?」
俺はアル爺さんの言う通りに右手を少しだけ上げ『ステータス』と口にした。すると突然、目の前にビヨンッと画面みたいなものが現れ俺は驚きのあまり尻持ちをついてしまった
「イテテテッ……」
「ハハハ、驚くのも無理はないが、この世界では自分のステータスを呼び出して確認するのが当たり前なんだよ。それでどうだヒロ? 君のステータス画面はどんな感じになっている?」
それを最初に言えよ! って言いたいところだがとりあえず我慢して……で、俺のステータスか……うーん、なになに……ん?
う、嘘だろ……?
【ステータス画面】
名前:ヒロシ・サトウ
年齢:19歳
『通常スキル』
●経験値:1
●ジョブ:剣士
・剣士レベル:2
●魔力値:10
・攻撃魔法:1
・防御魔法:1
・回復魔法:1
●武力値:20
・剣術:2
・格闘術:1
・射撃:1
●冒険者ランク:Z
『ユニークスキル』
・コミュ能力:10000
・ツッコミ:10000
・オヤジギャグ:5000
な、なんだこのステータスは!?
突っ込みどころ満載過ぎるだろ!!