第1話 召喚事故ってどゆこと?
「ロイ、カル、アミ、シャル、モモ、ヒメ、それとマロンちゃん、みんな大丈夫か!?」
「バカにするなヒロ! 俺はこのパーティのリーダーで最強の魔剣士だぞ!」
ロイ、お前は最強の女好きでもあるけどな!
「副リーダーの私だって大丈夫に決まってるじゃない! まだまだ魔力は残っているわ! ヒロがどうしてもと言うなら援護してやってあげなくもないわ」
カル、相変わらずツンデレさんだな!
「私も大丈夫だぞ……ただ私はヒロ達と違って180年も生きているからここで死んでも別に悔いはないけどな」
アミ、縁起でもないことを言うんじゃないよ!!
「ヒ、ヒロさん……私も大丈夫です……私は死んでも皆さんを回復させてみせます!」
セリフが矛盾してるぞ、シャル!!
「ヒロにゃん、あたしは元気モリモリにゃん! まだまだもっとテイムさせるにゃーん!! 何をテイムさせるかリクエストしてにゃ~ん!」
にゃんにゃんうるせぇよ、モモ! 話が入ってこねぇ!
「ワォォォオオオオン!!!!」
おーっ! 俺の可愛いペットでもあり最初の友人でもるマロンちゃん、今までありがとな。そしてこれからもよろしくね~!!
ついに来た。やっとここまで来たぞ。
ようやく最高の仲間達と共に魔王と直接対決するところまで来た……絶対に魔王を倒して帝都に凱旋し、そして俺は……
この世界に召喚されて約3年……
長いようで短かった3年間……
つい最近のように思い出してくる……
――――――――――――――――――――――――――――
【3年前】
おいおいおい、一体ここはどこなんだよ?
目の前に見たこともない凄い景色が広がっているんだが……
富士山よりも高い山がいくつもあったり、空に島みたいなのが浮かんでいたり……キリンに似た動物が空を飛んでいたり……
ここはまるで俺がよく見ている深夜アニメの異世界みたいじゃないか!!
俺はさっきまで通勤の満員電車の中にいたはずだ。
そして途中でお腹が痛くなってジャケットのポケットに常に入れている水いらずの腹痛止めを取り出そうとした時に電車の中が急に光りだしたかと思ったら突然急ブレーキがかかりそして車内が大きく揺れだし乗客たちが喚きだす……
これは脱線事故!?
もしかして俺は死ぬのか!?
俺も目を閉じ頭を抱えながら「うわーっ」と大きな声をあげる。
そしてしばらくすると揺れがおさまり周囲も静かになったのでソッと目を開けると、まるでここは……
「別世界じゃんか~っ!!」
って言っている場合ではない。
今日は大事な会議が控えていたんだ。これじゃ遅刻してしまうじゃないか。
課長代理で50過ぎのいい歳したおっさんが遅刻なんて恥ずかしくてできるものか!!
でも俺はこの歳で独身だから部下達には「課長代理は朝、起こしてくれる奥さんがいないですから、たまに寝坊で遅刻しても俺達は何も言いませんよぉ」といじられることはあるが……
ん? 右手で握り持っている物が……
手のひらを広げるとそこには水入らず腹痛止め薬……
なるほどね。これは夢だな。
きっと深夜アニメの見過ぎで寝不足になり俺は電車のつり革を持ち立ったまま寝てしまったんだよ。それでアニメの影響もあってこんな異世界ファンタジーな夢を見ているということだな。うん、間違いない。
でもどこからが夢なんだろうか?
事故は? お腹が痛くなったのも夢だったのか? しかし手には薬が……
まぁ、アレだ。夢なのに深く考える必要はないよな。
とりあえず毎日面白くもない通勤時間を俺の好きな異世界っぽい夢で楽しめるのなら目が覚めるまでとことん楽しんでやろうじゃないか!
「うっ、イテテテッ!」
ん? 何やら声が聞こえるのだが……あ、人がうずくまっているぞ。
これは夢の中の第一村人ならぬ、第一異世界人発見だな!!
しかし残念だ。木の下でお腹を押さえながらうずくまっているのは老人じゃないか。せっかく楽しそうな夢を見ているんだから、ここは可愛い村人女子とか貴族令嬢とかにしてほしかったぜ。
でもまぁ文句を言っても仕方がない。誰であれ苦しんでいる人を見捨てるようなことができる俺ではないからな。とりあえず声をかけてみよう。
「大丈夫ですか、お爺さん!? お腹が痛いのですか!?」
「そ、そうなんだ……突然お腹が痛くなってね……もしかすると先ほど食べた物に当たったのかもしれん……ううっ、痛い……」
なんとグッドタイミング!
俺は今、腹痛止めを持っているつていうか夢だからタイミングが合ったってことかな? しかし今はそんなことを考えている場合じゃないな。
「お爺さん! こ、これを口に入れてください。良く効く腹痛止めの薬なんで直ぐに腹痛が治まりますよ」
俺は自分が舐めるつもりだった腹痛止めをお爺さんに差し出した。
「え? いいのかい?」
「はい、全然いいですよ」
「あ、ありがとう……それでは遠慮なくいただくよ。モグッ……ん? おーっ、痛みが治まってきたぞっ!!」
「効果早っ!!」
いや、早すぎるだろ!?
さすがに舐めて直ぐに痛みが治まるはずは……
「き、君!?」
「え、何でしょうか?」
「もしかして……この薬は『地球』で作られた薬では!?」
地球? えらい大きなカテゴリーで言う人だな。でも言っていることは間違いではないし……
「はい、そうです。この薬は地球にある日本という国で作られた一時大ヒットした腹痛止めの薬ですが……」
「おお、そうか!! この薬は日本で作られたのか!? さすがは『同盟国』だ!! 我が国と医療技術は同等だと聞いていたが、こんなにも即効性のある腹痛止め薬を作れるようになっているとは……で、君は『いつの時代の日本』から召喚されてきたのだ?」
「へ?」
同盟国……? いつの時代の日本……?
おまけに召喚って……?
この老人は何を訳のわからんことを言っているんだ?
ただ都合よく言葉が通じるのは助かるが……さすがは夢だ!
よく見ればこの老人、白髪交じりの金髪で肌は白く瞳はブルー、そして腹が立つくらいに鼻が高く昔はかなりイケメンだったと思わせる容姿……この老人はアジア系ではなくヨーロッパ系だな。ということは日本と同盟国だとしたらアメリカ人ってことになるのか?
「俺は2023年の日本からやって来た? と思われる佐藤弘といいます……それで召喚というのはどういうことでしょうか?」
「な、なんだってーっ!? 『ヒロ』は2023年の日本からやって来たのか!? ということは私がいた時代からもう80年以上も経っているということに!? はぁ……そうなのかぁ……そりゃぁ80年も経てば医療技術も進歩するのは当たり前か……」
なにシレッと俺のことを『ヒロ』って呼んでるんだよ?
でもこの老人、心なしかとても落ち込んでいるような……
もしこの老人の言っていることが本当であれば彼は約80年前のどこかの国からやって来たことに……ん?
80年前の同盟国ならアメリカではおかしいぞ。たしか、そのころの日本と同盟関係にあった国は……
「も、もしかしてあなたはドイツかイタリアからこの世界にやって来た方なのですか?」
「おお、そうだそうだ!! 私は10歳の時に1942年のドイツからこの世界に召喚されたアルというものだ。私のことは『アル爺さん』とでも呼んでくれ? それにしても久しぶりに同じ地球人と出会えるなんて……まして命まで助けてもらって私はとても嬉しいよ!!」
命までってそれは大げさすぎでしょ?
それに『アル爺さん』って……
「お、俺もいくら夢の中だとしても言葉が通じる地球人と……ア、アル爺さんに一番最初に出会えて助かったというか、本当に良かったですよぉ。目を開けたらいきなりこの場所だったものでほんと、どうしようかと思い凄く焦っていたんですよぉ。ハハハ……」
「夢ではないぞ」
「え?」
「私も最初は夢だと思ったものだ。いや思いたかった。でもそう思ってからもう50年になる。だからこれは夢ではなく現実なんだよ。それに……」
この老人は何を言っている? 夢ではないだと!?
そんなアニメみたいなことが現実にあるわけな……
「それに君は目を開けたらこの場所にいたと言ったように聞こえたのだが……」
「は、はい……そう言いましたけど、それが何か?」
「はぁああ、君は私と同じで地球から召喚された『異世界召喚者』ではあるが、どこぞの国の召喚魔法を使用した神官がバカなのかドジなのか経験不足なのかは分らんが、どうも君を召喚させる場所をミスったみたいだね……うん、これは間違いなく『召喚事故』だよ。稀にある事故だとは聞いていたがまさか私の命の恩人の君がその犠牲者だなんて笑える話だよ。ハッハッハ!!」
「え――――――――――――――――っ!?」
笑い事じゃねぇぞ、ジジィ!!
それに召喚事故って何なんだよ!?
それも俺が乗った電車が事故ったかもしれない場面での召喚事故って……
これじゃダブル事故じゃねぇか!!