07話
――――レグシルツ街・西警備所――――
この街らしき・・レグシルツと言う名の街にイオ達は着いた。だが、聞いていた通りの様で街へ入るには、四方位に出入り口が幾つか有る警備所を通る事に成る。そこで必要なのは二人の氏素性でありそこを明確に表す事、この街に来た目的云々も疎かには出来ないと言われてる。
それが何故か尋問の形に成っているのは、立場を考えたなら仕方の無いと事だろう。そして少し前にこの街に訪れた行商人から、この二人の話しを聞き盗賊討伐の証明書のそれが収まっていてもだ。しかも警備の者は何も知らない装いで、何処の者なのかを問い調べるのが役目とされていた。
(この男・・身なりが良いな)その郊外のド田舎に住んでいたマーレが、自分に起こった事の経緯の詳細を話し終え、次の問題はオレ・・そこは血気盛んな若者が、幼馴染の婚約者とこの街で結婚をするのに一旗揚げに来たと。この世界の住民登録など村の出身者にはないので、故郷の背景や歴史がそんな証拠と扱われてもいる。彼等にイオの身なりが気に掛ったのは、街には少ない王都の者が着ている値の張る衣服だったからだ。(拾い物です)
それよりもここで通過する為に必要な税金・・どんな理由から税金を払うのか?まず商人はその都度に申告した売り上げの中から必要分を出す、村人も生産品を物売りに来たのならそこで始めて税が発生する。他に・・他所から訪問される貴族等でも所定の税は掛り、頻繁に出入りする冒険者は定額な税金の支払いと決まっているが、そこには所定の証明書を用意する必要があった。
「冒険者登録をする前なら最低の税金として構わないが、明日中にその証明書をこちらに提示して欲しい。そこは還付が必要ならだが」
その冒険者の存在が街への貢献が大きいとの事で、その辺の特別扱いが?・・明日までに証明書を持参出来れば、今に預かる税金を返却してくれるとの事だ。それは証明書が即日交付がされないかを訝しむと、今からの時間ではその可能性が高いらしかった。
それなら急げとばかりに冒険者ギルドを目指す、そこは街の中心地よりも少し南にあり、馬車で一時間程・・
(遠いよ!)オレの叫びが消えない内に、その建物らしい中へと意気揚々と入った。その時何故か左腕にマーレが縋りついていたが、そこを気に掛けず奥の受付で案内を聞こうとした。すると、横の方から来た変な奴に絡まれるという、そんな呆れるような定番に遭遇する。
いつでも冷静沈着なオレは、この成り行きを伺っていて気がついた。(ここは商業ギルドじゃねえか)商売敵だと勘違い?縄張りとかあるのか?取りあえず(間違えました)と言ってオレ達は外に逃げた。
(ここの立派な馬車置き場のこれが、直ぐ目の前に在るのが悪いんじゃね?)気を取り直して反対側の・・ここで今度は冒険者ギルドの看板を、しっかり確認してから中へと入った。
それで今にも笑い出しそうなマーレは微妙だったが、中を見回すとここが冒険者ギルドで間違いない。そこは正面左半分が受付になっていて、右側には色々と貼ってある所が依頼の掲示板だろう。
そこからさらに左奥カウンターの上には、各種の買い取りと書かれていた。そしてこちら右奥側に数人いる・・数台の丸テーブルと椅子が置かれた、オープンテラスの様な飲食屋っぽい感じの作りだ。
とにかく気を引き締め正面のカウンターに行き、係員らしきオッサンに冒険者としての新規登録の旨を伝える。そこに返って来た返事は・・もう終わりの時間だから明日にでも出直してくれ・・それは以外な展開だよね?まさがギルドの係員に因縁をつけられるとは・・。
あまりの状況に二人で固まったままでいると、右側の飲食屋みたいな所から近づいて来た一人の男・・ダブルか?因縁を付ける奴がここでダブルになるのか?
「あーちょっと邪魔するね、冒険者の新規登録って聞こえたからさ。」
この気軽な感じで話しの中に滑り込んで来たのは、この冒険者ギルドでかなり上位のパーティに属するアクサルトである。彼は剛風の刃のリーダーでもあり、割とお節介な性分でもあるらしい。その目の前で困り事を見てしまえば、そこに口を挟まなければ気が収まらなかったとはかなり後で聞いた所でだが。
しかも見た目は若いアクサルトだが、上位ランクに当たるCランクパーティの剛風の刃である。それも一度Bランクに上がっていたのをランク落ちしたのだ。そこでの理由は解らないがBランクにまで上がるのは、順調な経緯を辿っても十三年は掛かるのだから、彼の冒険者稼業は十三年以上で間違いない。
「ねえカラバさん、折角これから冒険者になって活躍してくれるって話を、そこで邪険にするのはちょっと・・この時間の担当者としてもそこは問題でしょ?このままって事になれば、明日にでも問題として扱う事になるけど?」
この人いい人かも?兎に角今は良い人だ、それが明日は解らないけど。そのギルドの係員のカラバと言う奴は、このギルドの夕方からの担当らしい。
だから他にもいるのなら、お前には二度と頼まないぞ。そこで渋々嫌々だがこれが受理されたので、その証明書は明日の昼頃に出来る事と成った。そして助け船を出してくれたアクサルトは、本人も言っているように特別な理由はないのだと。同じ冒険者の先輩としてのお節介な好意とここはしておこう。
「取りあえず良かったな・・まあそれで先輩として、一つの助言としてな。そのう、女の子がずっとしがみ付いているのは、色々とな・・問題を呼ぶと思うぞ。」
「・・うわおぅ! 」
このギルドの中で、マーレの初めての発声がこれだった。それがどれ程の驚きなのかは解らないが、イオの腕から離れなかった程度である。
「何だうわおぅって、やっと現実に戻ったのかよ。あのう先程は有難う御座いました!オレはイオって言います。今日この街に着きましてまだ右も左も解らない状態ですので・・ほんと助かりました。」
「あ、有り難う御座いました」
「・・こいつはマーレ。オレの娘みたいなイテ!何故蹴る?妹みたいな存在が嫌イテ!解った、ランクアップを済ませた婚約者なんです。」
何だマーレのそのドヤ顔は?この街に入る為の偽装だと思っていたが、マーレはそれをあくまでも貫く積もりらしい。そんな余り良く解らなかった紹介の仕方だが、これ以上の用事の無いアクサルトはついでの用件を続けて言った。
「・・まあ色々あるからな。取りあえず明日って事に成ったから、これからの予定は?このカウンターの左脇に、大きい簡単な周辺の地図がある。宿屋に武器屋に薬屋・・宿屋の下にある番号は、おすすめランキングと大よその宿代だな。」
そうと聞いたのならここは急げ宿屋へと。今のアクサルトの話しで重要だったのは、いい物件は直ぐに無くなるって奴だ。だから良さそうな宿で先に交渉を済ませてから、その後に行動時間が出来たら行動する。その宿屋で解った事は長期の宿泊でも十日単位での支払い・・ぶっちゃけ、長く貰い過ぎても解らなくなるらしい、おい!
それで思い出した(杜撰と言われた年金)あれは長い話しだったしな。急いで確保した宿屋に馬車の世話を託して、そこそこ遅くまで遣っていると聞いた武器屋へ行った。そこのオヤジから必要な掘り出し物を買う為にだ。
「・・マジックアイテムだと?」
店に入って来ていきなりマジックアイテムとか言う奴は久しぶりだと、いかにもなオヤジ ! がそう言って来る。この武器屋は仕事と趣味の区別が無い程に、そんな武器が大好きらしいのだが。
「ああ欲しいのは目から光線とか出ちゃう奴や、光より早く走れるとかだな」
「・・もうそれ、アイテムじゃねえだろ」
「そこら辺に何が在るのかも良く知らないから、参考になるような物を教えて欲しい。」
「・・そっからか?なら簡単な所から、まずは身に着け魔力で防御する装備だな。そこは金属と魔物の素材の組み合わせで、防具その物の防御力が上げられる。それに剣とか槍などにも余った魔力の付与がされて、そこからの攻撃には追加特典ありだな」
「その辺は結構相手にどっか~んとかやりそうだな。」
「でもって追加攻撃用の腕輪や指輪は、本人の魔法属性に沿った各種な魔法の発動媒体だな。」
「発動媒体?」
その話しはイオにとって耳より・・知っていない事情だと言える。その話しでは使える魔法の発動を、早くするだけのその道具なのだと。
「ああそうだ。それで実用的な明かりで照らせるステックとか、出した音を拡大するメガホン。魔力を通すと汚れを落として、綺麗になる生地ってのも聞いたな」
「よしそれだ。ちなみにその生地に魔力を通したら、いきなり消滅したりとか無いよな。消えたら素っ裸になって、恥ずかしいイテ・・何でもない。他には?」
「・・後は生き物以外なら入る、アイテム小袋とかもあったな。その中は空間魔法が使われているので、かなりの量の物がその中に入れられる。で、中は異空間だから時間が無いので、食べ物とかも腐ったりしないとかだな」
「・・ほう、それは便利で凄いな。それだけの能力だけなのか?・・ついでにそれは幾らくらいで手にはいる?」
「機能か・・確か身に付けた者の魔力を流さないとそれは使えない。その中は幾つかの部屋割りも出来たはずた。在るか解らない幻の神器とかを真似て作った奴で、相場は金貨で五十・・六十枚前後だな。」
「ろろ・・六十枚?金貨って何?」
その金貨とは貨幣である・・そこを知らないマーレでは無いが、そんな大金で買う物が在るのは知らないのだ。そこはすっかりなボケであり、少なくとも家とかなら結構な価格な物件なのだが。
「おーい壊れるな。六千枚の銀貨だよな確か?」
「そうそう百枚単位だからな。そこは百枚の銅貨は一銀貨だ。その百枚の銅貨を溶かして固めれば、一銀貨の価値になるって話だとさ。」
この貨幣価値が何を表しているのかと言えば、この世界がそれ程に裕福ではないのだ。ここで金や銀が豊富に取れて活用されていれば、銀貨十枚で金貨一枚の割り振りでも良かったのだろう。
「そ、それだけあれば一生遊んで暮らせるんじゃないの?」
そんなマーレの健気な予想を、そこは無残に砕くイオである。
「それは無理じゃないかな。そもそも寝泊まりの宿代と食べるだけで、その金貨は六十年で消費するぞ。それに裸で過ごす訳にもいかないし、何もしないのも無理だろ?家族が出来てからそこで慌てても遅いしな。」
「・・そっか、そうだよね。」
しかしマーレは何故か家族の話しで頬が赤いのだが、これに気を掛けていると話しは進まない。なら今は・・
「・・他には?他になさそうなら、お勧めの在庫が在れば見たいんだけど?」
ここまでで大方は理解には追いついて来たので、ここからは現物を見たいと思うのはどんな買い物でも同じであるだろう。
「その回りに売る程に置いてある、剣や槍に鎧とかの防具はいいのか?堅実的に対処に揃える方が無難だと思うが?」
う~んそうであればと、服の中から取り出した袋を見ている武器屋を無視して、ここにまでに集まった防具と武器を買い取りとしてこの場へと出した。そこは軽量で使い勝手の良い装備をマーレに揃えるのに、盗賊持ちだった十人分の買取りが使われた。そこでほんとに見た目だけは、中々の冒険者になったマーレである。
「うちにあった軽量装備の中じゃ、一級品だぜそいつは。なんせ自動で魔力防御をしてくれるからな。他のは意識を向けないと無理だから、敵から意識を外してる間に遣られるという嫌なオチになる。」
そんな武器屋の自慢だがいいのかそれ?防御と攻撃を両立するのは上級者にしか無理だなんて。そこは最初の説明に欲しかったな・・それよりオレも剣を選ばないと。
「・・次は、剣とか短剣?槍は無理か?オレもマーレにも使えそうな奴を見繕ってほしいんだが。」
「・・ん?剣?剣か。なら丁度いいお試しの剣があるから、今持ってくるよ。お前の欲っしたマジックアイテムのな。」