06話
――――舎街・ソムリ村の宿――――
「酒だ、酒だ!酒持ってこアイタッ!」
「お前は何処のオッサンだ?酒でへべれけに成った所を襲われる心配も必要だぞ。」
「おっ、美味しいのよ。その辺も全部イオにお任せだから大丈夫。それに殺った日は素面でいるのは辛いじゃない?」
「・・マーレは何もしてないけどな。・・ってか、それって誰かが言ってたのを真似てるだけじゃねえか?それにオレ以外の誰かが何かしてたか?そんなの記憶に無いぞ」
「あたしはイオの言い付けを守ってたから、その苦労が困憊している今かな?」
「良く解らんが自力で部屋に戻れる程度にしてくれよ。それと、ちゃんと食べる物を食べてからにしなさい」
「そこは食べる努力はするわよ。けど、活きが良くて逃げるのよね」
「・・・」
それに踊ってるのはマーレであって、そんな活きの良い料理がこんな宿屋で出されたりはしないさ。それよりも酒を飲んだことが無いからって聞いて、面白半分に飲ませたのが仇と成ってしまったな。この先の事を考えたならまず明日は二日酔いの介抱とか・・将来は酒乱に成るとか・・。キッチンに立つ予定は今は無いが、そんなドランカーになったりして?
「好きにして」
それは聞きかたで(どうされても構わないわ)と、甚だしい何かの不幸を招きかねないが、そのまま放置で事無きに出来る状況・・本人は錯乱中か?言いたい事も解らん。それでも避けるべき手立てを施し、好まざる結果から逃避出来ると・・でも無理!
(ふぇ)そんな呻きらしき声だかの音をマーレが発し、ここでは戸惑う余裕も今はなかった。
このマーレが何か?を生み出す前に、宿屋の食堂を引き上げ自分の部屋へと戻った。食堂での食事を取る前に風呂は済ませて置いたので、今夜はこのまま就寝に入ってもそこは何の問題も無い。
ここでマーレを寝床へ下ろすとうつ伏せに転がせ、後は膝から下の両足を曲げさせる。そしてズボンと下着を纏めてスッポッーンと脱がしてしまったから、勢いで脱げてしまった下着を今一度履かせる。これはあくまでもそのドサクサに間切れた行為でないと、ここで断じておこう。だから上半身を起こさせ両手を上げさせたのは、上着をプルンと脱がせる為でおっぱいをプルルーンっとさせて喜ぶ為では決してない。
「酒くさ」
まるで先程までの行いの悪さが祟った気がするが、寝床の端に除けた筈のマーレが何度となくイオの体へと這い上がって来たからだ。それでも着替えの購入は済ませているので、似非根間着をマーレは着込んでいる。年若いマーレの肉体が、不要にポヨンポヨンと弾けていてもだ。
そんな二人の部屋の出入り戸には、槍の先端の刃の切れ落ちた棒が立てかけてある。そこは僅かばかりの用心として施したが、最悪に転じれば無意味なものだけど。
その程度の危惧とは、昼間に退治した盗賊の報復を考えての事だが、この宿の者や村人達を人質として詰めてくれば、それなら容赦なく撤退を選ぶつもりだ。
そこで全てを助けるとか助かる算段は無いに等しいし、彼等を迷わず見捨ててマーレだけを連れて逃げる予定でいる。そんな中でも有力な可能性らしき情報があったりはする、先日にこの村を通過して街へ向かった警備隊が明日にはこの村に戻る予定であると。
その警備隊は期日を変更する事無く定期巡回を行っているとの事だから、これからの移動中に警護されたい者達はそちらの都合に合わせなくては成らないらしい。
つまり明日の昼過ぎまでに盗賊の報復が無ければ、無事に街に辿りつける可能性を手中に収めたも同然ではないか。そもそも最初から報復などに来れるのか?多いにあり得る話しであった。だが盗賊達の全てを倒したとは思っていない、その中に女が不在であった以上他に根城はあるのだろう。
そこは必ずしも女の盗賊がいるとは思ってないが、今までに襲った先で掴まえた女は居てもおかしくはない。その者達の所に見張りも立てずに、ワイワイと盗賊稼業に精を出すとかならかなりズレた奴等でしかないが。
しかし、あの場で倒れた奴等以上の数の盗賊が残っているとも思っていない。そこが四十~五十人もの大所帯の盗賊団では、それだけの食い扶持を稼ぐのには村まで襲ってナンボに成ってしまうからだ。
――――その夜・レグシルツ街冒険者ギルドの一室――――
「あの形を取ると成れば、少なからずの犠牲を払う事になるのでは?」
この冒険者ギルドの幹部であるマヴレィテ女史は、このギルド副長のアキュレイ氏と今後の対策を模索していた。
「確かに今度のは性急な行動と言わざる負えないが、マヴレィテくんも知っている様に王都に対して領主様の立場も厳しく成ってきているのだ。そこへ来て王都に戻る途中の馬車が、盗賊に襲われてしまったからな」
「定期警備隊の同行を受けなかった為に起きた災難ですから、街の政策に落ち度を被せるのは筋違いだと思いますが?」
「守るだけの対処は消極的だと言って来てから、そこで向かい討つお鉢がギルドにも回って来たのだ」
このレグシルツの街の冒険者ギルドでは、そんなゲンナリする押し付けを嫌々ながら受諾する、そんな経緯の再確認がこの日の夕刻に成された。だがギルドの幹部である筈のマヴレィテは、受け入れの反意を隠す気は毛頭なかったが、薄毛を気に掛けるアキュレイ副長はそうは行かなかったが。
「気にしてませんけど!」
――――翌朝・ソムリ村の宿――――
その翌朝まで眠る事無くの警戒を尽くしたイオ(睡眠不要者)だが、大方の想定した予想に違わなかった事を知る。それは或る程度の報復は起こらなかった・・が、泥酔し疲れ切ったマーレが呪詛に似た恨み事を垂れたのも報復のカウントとする。
「大丈夫ですか?その・・目が座ってますけど」
盗賊からの警護を簡略的に依頼した商人と食堂で顔を合わせると、肩に担がれ背の方に顔が有るマーレを指してその言葉が投げられた。事実も真実も見た目に違わないので隠し様も無いのだから、それなら笑って誤魔化すしかない。
「何も食べたくないし、食べたら危ないよ」
その危機を一心に背負うのは間違いなくオレだが、馬が水を飲む桶で事が足りるか?心配を重ねるしか今は出来ない。そこは後から起こるその危機に戸惑うよりも、いっそ先手を取ってオエッと・・斬新な描面をトラウマに固定するのも気が引けたので、成る様になれ!そんな精神に任せた。
その予定刻にそれ程遅れずにこの村を出立したイオ達は、昼過ぎには街からの護衛を兼ねた警備隊とすれ違った。そこは勿論こちらを警戒されながらであったが、それは事情に大差無く変化も起きないのだから文句も不要だ。
そこから予定が大きく変わったのは、日の暮れる前に街に着きたいと商人達は先に行く事になった。ここまで街の近くに成れば、襲撃される予想がつかないのと依頼終了として報酬も払われる。
それと街に入る警備所で、オレ達が行った盗賊退治に必要な書面の作成も済まして置くとの事だった。そんな彼等は昼食もまともに取らずに街へと・・時は金也りが今に寄せていた。