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05話


   ――――翌朝・ヤハク村の宿――――


 まさに嫌な予感がここで押し寄せたと言いたい、それを実感をしたのは出発前の食堂の一角に、マーレ達が襲われた場所から逃げ延びた商人達がいたからだ。それがこっちの見間違いであっても、こっちの置き馬車を見て解ったとあちらから声が掛ったからだ。

そこで詳しい盗賊退治の自慢などする必要は無いが、逃げ追うせた理由に隠せない部分も多々あった。それで次の村までの同行を頼まれる事に成るのだが、同じ道を同じ時間に移動する事に降りかかる危険に大差は感じないだろう。


「それで、お金になるの?」


 提示された金額がギルドで淘汰された冒険者の護衛依頼金と聞かされても、そんな内輪話に理解は及ばないが同じ街で顔を合わせる機会の有る者に嘘を言わないとの釈明が添えられた。それで納得は行く筈もないが、冒険者で無いオレはその半金で引き受ける事にした。その理由は過度の値引きをして置いてもだよ、いざと言う時の責任逃れの理由にするのもどうかと思ったからだが。

ここで決まった出発時間の前に遣らなければいけない用事は割と多く、必要以上の弁当の用意が出来るまでに服屋へと買い物に走った。


「そんなに買い込んでいいのか?街の服屋の方が品とか良い形の物が多いかも知れないぞ。それに街で村仕事をする訳じゃないしな」

「・・止めとく。街でも同じ物が手に入るのは確かだろうから、荷物に成らない様に今は止めとくよ」


 そこはとても聞き分けの良い子のセリフに聞こえたが、しこたま抱え込んだ服を元へと戻している本人がその同一人物でもあるのだ。


「下着もそんなに要らないでしょ?」

「下着はあっても困らないよ、いざの時や洗濯する時間が作れない時は使い捨ても辞さないからな」


 これで一応の必要物資の補充が・・その殆どが下着に成ったが、大切であるとオレは信じていた。他にもゴミと間違いそうな布の端切れが、束で二束三文的に投げ売りされていたのを買った。これはほぼ現代家庭に必需品のテッシュの代わりではないのか?紙は端切れでも使える範囲が高いので、テッシュの代わりには難しいし、こんな布なら洗う事で再使用が可能に成るからだ。

さて本日だが、未だ生息している絶滅危惧種の盗賊が居るのであれば、それと接触する確率が高い日でもある。それはイオ達がこの村までの移動中と、この商人達がこの村まで来る間で街からの警備隊との遭遇が無かったからだ。

となれば警備隊は街への帰路にあるか、街から出発の前後に当たっていると想像していく。そこは幾ら馬鹿な盗賊であっても、その辺の把握をして無駄な戦闘は避けている筈だからだ。

その盗賊が居るのであれば、そこでの襲撃も必ず行われる。その標的が生産者達だけであれば襲う場所に拘る事は無いが、商売で稼いだ金を沢山持ち街に近い場所や仕入れに出向く商人も狙われるそんな場所に成るだろう。


「一時の足止めに使える屑石が欲しいな・・あそこ、あれって墓地か?」


 墓場荒らしをする必要は無いので墓地に向かいはしないが、その場の墓石を扱う所はこの近くだと教えられる。そこで二種の屑石を譲り受ける、それはかなりの強固な物とイオが握り潰せる物・・イオでしかそれは無理なのだが。

ここで決まっていた出発時刻を持って、次の村へと馬車を進め出した。その先頭に立っているのが、今回の依頼人の商人達の馬車だ。俺達は取り回し難い馬車での移動と成っているので、どんな状況に陥っても前に進む戦略しか生き延びる術が無いからだが。


「進む先に日が落ちれば相手を見分け難いか・・日が落ちて行く時間に襲いに来るのは間違いないな」


 その前方を塞ぐ事て馬車は窮地へと追いやられる、そこから逃げ惑う後方からの強襲を受ければ無事に済ませるのは難しいであろう。そんな事を纏めていた思考へと、馬車の中の人物が声を掛けて来た。


「ねえ、盗賊が襲いに来るって事?」

「ああ、そんな気がしている。それが今の時間では無いと思っているが、日の傾きで見ずらくなった頃合いから前と後ろからの挟み撃ちな感じでかな」

「逃げないの?」

「命あっての物種とは言うが、そこで逃げる必要が在るかは相手を確認してからで良いと思ってな。でも最悪の最後はウキウキフワッとの奥の手も隠しているから、全てを放り出してもマーレと一緒の空旅に変更だな」

「あれって厳しくない?」

「下の景色が良く見えないって騒がなきゃ、肩に担いでトンズラするのは難しく無いんだよ」

「・・・」


 ここで逃げの一手に考えを纏めていないのは、移動に使っているこの街道もその理由の一つである。そこが切り開かれた両脇に森や林に隣接している街道であれば、潜まれた場所からの接敵に時間が取られないので、地の利は相手にしかない所だった。

だが見渡す限り片側は開墾途上の平野であるから、その反対側の稀にある飛地林帯を警戒すれば対応の難度も下げられる。それであれば馬車の行く手を遮る手段が無いかと言うと、それも又容易く用意出来るが。その街道は馬車がすれ違うのに困りはしないが、その端より外には走るのに適さない雑草が膝の高さ程には生えているからだ。

そこで少し曲がりの道が大きく成った先の所で、近くに寄ってやっと気づく太さの大木でも転がして置けば、とってもいい迷惑な阻害に成れるだろう。





「何なのよこれ!」


 声の元には泥水を顔から被ったマーレがプンスカしていた。どんクサ!と思いはするが口には出さずに、そこは苦笑いを浮かべて置く。ここでの被害報告は靴下を含めての履物一式と、そんな村娘特有のモンペ型のズボンである。そこで着替えを渡し馬車の中に入ったマーレに、今度は汚れ取り用の布を数枚預ける。

マーレが落ちた川から必要とした馬用の水を汲んで馬に与えた後は、そこで汚れた服を簡単に手洗いし良く水を切って馬車の中へと吊るした。

それが必要の経緯を知っているマーレは見てゲンナリしているが、今は休憩と昼食を兼ねた時間でもあるので、そんな嘆息に勤しまれても困るのだが。


「深い場所に嵌らずに済んだのは幸いだったが、水桶がけっこう大きいから片手で汲み上げるのは無理があるんだぞ。手伝ってくれるのは嬉しいが、この次があったならオレの手に捕まって汲んでくれ」

「一緒に落ちても困るから今度はイオに任せるよ」

「それでいいならオレは構わないから、今は食事を取りなさい。食べて直ぐの移動にでも成れば、馬車の揺れが良い事には及ばないからな」


 ここは大人の男としての苦言を披露するが、そこへの感知が現れる事は無かった。つまり未だにその失態が気重に引き摺っていて、他への配慮が浮かぶまでには及べていないのだ。

ここまでだらける移動にも飽きて来ると、傾いた日の所為で顔を前に向け続けるのが辛くなる。それに思わず愚痴をこぼしそうになり、目前の背景に気後れた事にも気づいた。その飛地林帯のセリ出た所が街道までは四十・・三十メートルを超えた程度はある。その島の様なセリが後方で離れて行き、前方には次の飛地林帯が目視で確認出来る。それなら街道のど真ん中に阻害物を配置しその排除の手間取る隙をついて、隠れられる飛地林帯から強襲に出てこれる絶好の場所でもあった。

その背後と成る飛地林帯に気配を消して潜み、前方に意識を集めさせる作戦は綿密な作戦でもあり、そこが緻密が過ぎたと露見してもいるのだが。


「百五十ちょっとか?」


 そこで前後を決めて図った飛地林帯の距離であり、そこを罠に想定した大きさでもある。そこで前を進んでいる商人の馬車が半ばを過ぎたので、こちらの馬車の速度を意図的に少し緩める。そこから期を得たとの判断で馬に鞭を入れたイオは、阻害する罠らしき物の距離まで三十メートルを残し馬車を並べて双方を止めた。


「ここで勝手に散開しても、逃げた者の身の安全は保障しないからな!」


 その指令的な言葉は依頼者の商人達へと発し、マーレにはその前にしっかりした打ち合わせを終えてるから此処では何もない。

今まで座っていた御者台から前方へと飛び降りたイオは、後方から迫る盗賊の強襲者達をここで始めて確認する。そいつらの見せてる人数は十人を超えてはいるが、その倍まではいない。イオが向かっている前方では慌てて騒ぎ出した人影が七人、その距離まで一気に駆け抜け何も持たない左手を盗賊へと突き出した。

そこで何かに(風?)阻まれ動きを鈍らせた盗賊へ、イオは何処からか抜き出した大剣で斬りつける。その初撃で倒されたのは一人、二人目はかろうじてその剣を受け止めて見せた。そこへもう片方の手で抜き出した大剣がそいつを斬り倒す、それは片手で扱うには重すぎる大剣の二本使いで操っての所業であった。後の追撃に片手の剣を投げ捨て手からの礫を浴びせると、また新たな剣を呼び出し斬り倒す。その瞬く間の出来事に成せた成果は、そこに居た前方の強襲者を討ち終えていた。


「悪いがオレ達を襲った以上、日の目が見れる事はもう無いからな!」


 得物までの距離が合った?を実感する後方からの強襲者が、目的まで残りが四十メートルの所まで来ていた。だが、そこでもイオが振り返って手痛い礫攻撃に晒さらすと、奴等の行動が阻害される事に成る

ここでイオは止まっていた馬車まで急ぎ戻り、前方に置かれた邪魔物の取り除きをそこの者達に託す。そしてその間にも放った礫を物ともせずに前に出て来た一人を、買い置きの強固な屑石を使って正面から仕留めた。

その後方からの強襲者の数は12人だ、その場に持っていた剣を投げ捨て一気にその後方へと走り寄った。そんな武器を持たない者を相手にする油断が、目の前で被る事になった煩わしい潰れた小石の大群である。そこには霞れた視界の先で虚ろに捕らえた人影が、その手にした大剣を迷わずに振るう姿でもあった。

その数が対峙相手としてまともに遣り合うには不利は否めないが、イオが見舞う眼眩ましの礫で三~四人が一度に葬らてしまうのだから、これが長丁場な戦いに成ったりもしない。その盗賊との接触が始まってから、これが終結するのは数分と数えられたであろう。そこでイオが、何処からか出した大剣は七本にも成っていたが・・


「このまま放置して移動するのか?」


 あちらこちらに転がった盗賊の死体を街道の脇へと移動させていると、弔いの真似事くらいをさせたい商人は怪訝な声で聞いてくる。


「ああ、こいつらが被った不幸や災難ならそれも考えたが、ただの末路に憐れみも感じないしな。それにここでの様子を仲間の盗賊が伺っているだろうから、そんな呑気には構えても居られないぞ」


 そのイオの言葉で我に返った様子を見せて、周りへの警戒心がその者の顔色を悪くする。最早この場を一刻も早く立ち去りたいと聞かずにも解る表情であった。(忘れ物は無いよな・・)ここで討ち果たした盗賊は全部で十九人、その各々から必要な物を摂取し、討伐部位とされた両耳を切り落とし集めた。それは依頼者の商人から聞いた情報でしかないが、盗賊の討伐には幾つか褒賞の出方が有ると。

盗賊を退治しました・・そんな自己申告では、何も得られない形である。そこは倒したとされたら目撃者の証言か証明書届けを沿える事で、その盗賊の人数には関係せずに銀貨二枚が貰える。他に証明書届けと討伐部位となれは、一人に銀貨一枚が受けられる。その捕獲引き渡しが出来たならその特別褒賞と、一人当たりの罪人奴隷の値が受け取り金となる。

盗賊に襲撃を受けた時間は日が傾いてから幾らか立っていたので、その場を離れてから二時間を超えた程で目的の村へと到着をした。


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