第8話 冒険者登録と模擬戦
ブックマークしていただけると嬉しいです。
次の日、予定通り冒険者登録をするために王都にある冒険者ギルドのアスリオン王国支部に向かった。
到着してみると、ギルドハウスは想像より立派な建物だった。三階建てで一階には受付や依頼、酒場などが併設された広いスペースがあり、さらにいろいろな目的で使われる練習場も設置されている。
俺たちは扉が開放されている入口から中に入った。当然ながらいかにも冒険者といった厳つい方々がたくさんいる。しかし意外にも四割ほどは女性冒険者である。杖を持っている人が多いので、大体の女性は魔法使いなのだろう。
魔法を構築する際、別に杖は必要ない。ではなぜみんな杖を持っているのかというと、魔法陣を早く構築するためである。杖の内部に特殊な技術で魔法陣を刻んでおくことで魔力を流すだけで少し精度は落ちるが魔法陣を構築することができる。
これは別に杖でなくても剣や槍などでもいいし、指輪のような装飾品でもよい。こう考えるといいことばかりのように見えるがそうではない。まず一つの装備に一つまでしか魔法陣を刻めないので自分の使える魔法を全て刻むのは現実的ではないのである。
さらに素材が硬ければ硬いほど魔法陣を刻む難易度は上がり加工料もとんでもなくなるし、素材が小さければ小さいほど同じように難易度も料金もはね上がる。
なので先ほど言った魔法陣が刻まれた剣や槍というのも現実的ではなく、指輪にいたっては貴族ですら中々手が出ない高級品なのである。それに加えて魔法の難易度によっても加工の難易度が大きく変わる。
よって、レベル1~2の低級魔法の刻まれた杖を一つ持つのがせいぜいである。リエールですらレベル4の魔法が刻まれた杖とレベル2の魔法が刻まれた指輪を二つしか持っていないし、非常用だと言っていた。
万が一壊されたときに魔法が使えませんでは話にならないし、魔法は何百何千と構築することで精度と速度が増していくものなので普段から魔力を流し込むだけで練習にならない杖など持つなということらしい。
この考えは俺ももっともだと思う。そもそも戦闘では多種多様な魔法をその場に応じて選んで使うので、一つや二つ低ランクの魔法を早く構築できたとしてもたいして変わらないからだ。なので俺はしばらくは杖を使わずにやるつもりである。
俺たちは空いている受付に向かった。
受付嬢と聞くと結構若くないイメージがあるが、目の前の受付嬢は二十歳ぐらいにしか見えないし、加えて美人である。
「ご用件は何でしょうか?」
近づいてきた俺たちに気づいた受付嬢が声をかけてきた。
「私たち冒険者登録をしたいんですけど、、」
「わかりました。ではまず登録料として一人銀貨五枚いただきます」
結構高いなと思いつつも俺たちは銀貨五枚を支払う。
「ではこの用紙に記入をしてください、二人とも字は書けますか?」
「書けます」
「私も大丈夫かな」
そう答えると履歴書のような用紙を渡された。紙は高いのでこれも登録料に含まれているのだろう。用紙を見てみると名前と生年月日、性別を書く欄の他に使える武器や使える魔法といった前世では絶対ありえない欄が用意されていた。
俺は一切剣術が使えないのでとりあえず武器の欄には何も書かず、魔法の欄には自分がよく使う魔法をいくつか書いておいた。書き終えてテトラの方を見てみると、テトラもちょうど終わったらしく二人揃って用紙を提出した。
受け取った受付嬢は丁寧に目を通していく。テトラの方は問題なかったのか続いて俺の方に目を移した。途中で受付嬢の目が止まった。少し戸惑っているように見える。
「あの、ユウさん?闇と火と無属性のレベル4の魔法を使えるというのは本当ですか?」
疑うように聞いてきた。たぶん二属性使えるのが珍しいからだろう。
「はい、ちゃんと三つとも使えますよ」
「そうですか、、、まあ嘘だとしてもすぐわかるからいいか」
そうですかの後は聞き取れなかったが、わかってくれたのだろう。
「ではこれから簡単な検査兼試験を行いますので準備ができるまでお待ちください」
そう言って受付嬢は奥に下がった。試験って何をするんだろうか。
「あれ、言ってなかったかな?登録のときギルド職員か雇われた冒険者と模擬戦をするんだよ」
「じゃあ落ちたりすることもあるの?」
「実力不足とかで危険だって判断されたら落とされるって聞いたかな、そして三か月間は再試験できないかな」
流石に大丈夫だと思うが万が一があるので気を引き締めていこう。
数分後、さっきの受付嬢が戻ってきた。
「準備ができましたので演習場にどうぞ」
そういわれ俺たちは演習場に案内された。着いてみると、30後半ぐらいに見えるおそらく冒険者であろう男が立っていた。ちなみに髪は父と同じ緑である。
「お前らが受験者か、俺はライオス。Bランクの冒険者をやっている。よろしくな」
BランクということはトップランクであるAランクの一つ下なのでかなりの実力者ということになる。
「ユウです。よろしくお願いします。」
「テトラかな。お手柔らかにお願いするかな」
とりあえず自己紹介をしておいた。
「ではテトラさんから行います」
受付嬢に言われ、俺の番はつぎなので周りで観戦することにした。テトラは両手に籠手のようなものを装備した。おそらく拳術を使うのだろう。対してライオスは剣。安全のために刃はつぶされている。
「嬢ちゃん、遠慮はいらないぜ」
「わかったかな」
「では始めてください」
受付嬢の合図とともにテトラはレベル2の筋力強化を構築し始めた。ライオスは何もしていない。待ってくれているようである。そうしているうちにテトラは構築を完了し魔法を発動して襲い掛かった。
攻撃する寸前、テトラは体を横に半歩ずらし流れるように相手の側面に回り込み拳を放った。ライオスはほとんど体を動かさずにそれを剣で軽々と受け止めた。
いくら大人と子供とはいえ魔法で強化されているため普通の大人では勝ち目すらないのだが、さすがBランクの冒険者である。その後もテトラは様々な角度から足技も駆使して果敢に攻めたが、ライオスが一撃ももらうことはなかった。
「よし、ここまでだ。嬢ちゃん強いねぇ、これならEランクから始めて問題なさそうだ」
「はぁはぁ、おじさんは強すぎかな」
EランクということはF、Gランクを飛び越えて中ランク冒険者と呼ばれているところからスタートなのですごいのではないだろうか。
「次はお前だ、準備しろ」
俺はテトラと入れ替わりで中央に立った。
「お前レベル4の魔法が使えるって本当か?」
「本当です」
「ほぉ、嘘はついてないみたいだな、じゃあ俺にもし勝てたらBランクから始められるように頼んでやろう。全力で来いよ」
ライオスの雰囲気が変わった。少し本気になったようだ。
「では始めてください」
その合図と同時に俺は筋力強化の魔法陣を構築し始めるが、その瞬間ライオスが迫ってきた。速すぎて対応が間に合わない。辛うじて剣で受けるが吹っ飛ばされた。なんとか着地はできそうだが、集中を全部持っていかれて魔法陣は消えてしまっている。
俺は空中でファイアーウェーブというレベル3の広範囲魔法の魔法陣を構築、着地と同時に放った。
「ファイアーウェーブ」
この魔法は威力こそないが広い範囲を攻撃することができる。今回は足止め目的で放った。ライオスが炎で足止めされているうちに筋力強化の魔法を使った。そしてさらにライオスのいる辺り一帯をレベル3の闇魔法ワイドブラックアウトで覆い、視界を奪った。
この魔法は特殊な闇の空間を作る魔法で、外からは中を普通に見ることができるが中からは外を見ることができない。対になる魔法でワイドブラックインという魔法があり、これは逆に空間の外からは中を見られないが中からは外が見えるというものである。
炎が消えると同時に俺はライオスに突っ込んだ。いくら俺に剣術の心得がないといっても魔法で強化されていて視界も奪っているのだからいけると思ったのである。
「力任せの剣だねえ」
俺が全力で振るった剣をライオスはそう言って受け止めた。さすがに魔法を使っているのだろう、そうでなければありえない。
「まだ魔法は使ってないぜ」
と、俺の心を読んだように言ってきた。マジで?ありえないだろ。
俺は剣での攻撃をあきらめて距離を取った。今度はツインフレイムを構築していく。
すると、そうはさせないとばかりに距離を詰めて剣を振るってきた。
流石に筋力強化を使用しているので、魔法陣を崩すことなく避けた。再び距離を取り、
「ツインフレイム」
ライオスを挟みこむように二つのらせん状の炎が迫る。
「やるな」
ジャンプして避けられたが想定通り、この魔法は威力の他に発動時間の長さも特徴の一つなので俺はそのままその魔法を空中のライオスに向けた。空中で移動できない状態でレベル4の二つの炎、さすがに勝ったかと思ったがライオスの顔に焦りの表情は無かった。
レベル4の筋力強化を瞬時に構築し、両手で剣を握り力強く振った。すると俺のツインフレイムは先端がかき消され、ライオスはその勢い後ろに飛んだ。ライオスは着地後俺にとんでもないスピードで迫ってきた。
俺は魔法が間に合うわけもなく剣で応戦したが、筋力強化をかけてない状態でも勝てないのに勝負になるわけもなく、三回剣が重なったところで俺の剣が宙を舞った。
「参りました」
俺は負けた。建物を破壊してしまうという理由で上級以上の魔法が使えないこともあり勝てるとは思っていなかったが、やはり負けたら悔しい。マジで悔しい。
「その年でそこまでできれば上出来すぎるぐらいだ。Bランク冒険者の中でも俺とやりあえる魔法使いなんて中々いないからな」
確かに魔法使いは支援や遠距離向きで近接に向いていないが、負けは負けである。
「実力的にはギリギリBランクでも問題ないんだが、まだ冒険者についてわからないことも多いだろうからCランクである程度の依頼を受けながら学ぶといい」
なんといきなり高ランク冒険者に位置づけられるCランクから始められるようである。
「さすがユウかな、おめでとう!」
「テトラもEランクおめでとう!」
「ユウよりランクは低いけど、ユウが魔法学園に通っている間に頑張って追いつくかな」
確かにしばらくは魔法学園になれるために依頼を受ける気はない。しかもテトラと同じランクの方が同じレベルの依頼を受けられるので都合がよさそうだ。
「お前魔法学園に入るのか?」
「はい」
「お前なら余裕だと思うが試験頑張れよ」
「余裕かどうかはわかりませんが、頑張ります」
そのあとリエールの家にもあった色相魔水晶で魔力量や属性を調べてもらい、いろいろ冒険者についての説明を聞き、帰った。ちなみにテトラの魔力量はDクラスで十分実戦で使えるレベルだった。
ランクの決定と冒険者カードの発行に時間がかかるため、また数日後に来てほしいとのことだ。
「試験管の依頼お疲れさまでした」
「ああ、それよりもとんでもねえのが来やがったな」
「はい、すごい少年でしたね」
「将来が楽しみだ」
「そうですね」
「(約10年振りにAランク冒険者が出るかもしれねぇ。なんなら俺が鍛えてやってもいい、いや鍛えたい)」
「(顔も態度も悪くないし、将来性もある。文句なし、あの子を落として玉の輿に乗る。なんのためにつらいのに競争率の高いギルド受付の仕事をやってきたと思ってるの、絶対に落とすから)」
色々渦巻くギルドハウスに何も知らない主人公が訪れるのは四日後の話である。
最後まで読んでいただきありがとうございます。