第3話 入学の壁と弟子入り
開いていただいてありがとうございます。
それから3年が経過して俺は6歳になった。それまで俺は主にリエールの家で入り浸って本を読むことで情報収集をしていた。3年たっても全部を読み終えてはいない。リエールは「そんなことないよ」と否定していたけど結構な本の収集家だと思う。
おかげでこの世界のことはだいたいわかった。そして絶望した。この世界で学校に入ることが難しいと改めて分かったからである。
そもそも魔法とは体内にある魔力と呼ばれるものを放出し、それをコントロールして特定の形、魔法陣と呼ばれるものに変形することで起こる超常現象のことなのだが、体内の魔力を放出できるのは10人に一人。さらに火属性や水属性などの属性を持つ魔法の場合、放出する際に魔力をその属性用のものに変換しなければならない。
これも、どの属性のものに変換できるかどうかは生まれた時から決まっていて、魔力を放出できるものの中のさらに10人に1人である。つまり一般的にイメージでする火を出したりするような魔法使いは、全人口の約1%と超限られた存在なのだ。当然魔法学園は超倍率なので属性魔法が使えないと話にならない。
ちなみに「伝説の魔法使い」に出てくる魔法使いクラノスは、火、水、土、風、雷、光、闇のつまりすべての属性を使えたらしい。ぱねえ。
だったら騎士学校に行く道を考えてみるとここでも高い壁が「やあ!」と無慈悲に待っている。騎士は無属性魔法の身体強化を用いて戦うのである。
つまりこの時点で全人口の10%しかなれないのだが、さらに魔法学校と同じように競争が激しいので、入学できる人間はそれに加えて相当にフィジカルが優れているとか、剣術の達人であるとか、なんなら属性魔法が使える魔法騎士などが大半を占めているらしい。
「無理だろこれ、、、」と、してはいけない場所でセーブしてしまい詰んでしまったような絶望感を味わいながら俺はリエールの家で本を持ったまま横になっていた。自分がそんな単発一回で最高レアを引けるような運を持っているとは思えないし、仮に使える才能があったとしても、やり方が全く分からない。
どうしようかと考えながら、本棚を眺めていると隅っこに今まで見たことのない埃をかぶった本が目に入った。
「こんな本あったかな?」
一応全部の本を読んではいないとはいえ、題名ぐらいには全部目を通しているのだが、、、。後になって考えると、おそらく軽い隠密の魔法がかけられていたのだろうと思う。
表紙の埃を手で払って題名を見てみると見たことのない文字が書かれていた。ということは王国で使われているキンシャル語ではない言語で書かれているのだろう。
とりあえずぺらぺらとめくってみると時折魔法陣のようなものが目に入る。もしかしてこれ、魔法に関する本なんじゃないだろうか。そう思っていると、
「その本だけしまい忘れているとはねえ」
後ろからリエールが話しかけてきた。
「この本っていったい何なの?」
「その本は私が帝国に居たころに書いた魔法についての研究をまとめた本さね」
リエールは誤魔化すことなく教えてくれた。帝国とは大陸の中央から王国の北にかけて存在する大国で、この世界で1番目の強国として知られていた(魔族には国はないらしい)。王国とも国交はつながっているが小競り合いも多くあまり友好的な関係とは言えなかった。
「リエールおばさんは帝国から来たの?魔法使いだったの?てことはこれは魔法の教科書みたいなものなの?」
「全部説明するから、あんまりいっぺんに聞くんじゃないさね。」
興奮のあまりいっぺんに聞いてしまったが、リエールはこれまでのことを丁寧に説明してくれた。
リエールは元々帝国で宮廷魔導士として働いていて、余生は穏やかに過ごしたいと考えていたが、自分の力や魔法研究欲しさに周りの人間がすり寄ってくるのに嫌気がさし、帝国を抜け出し、この村までやってきたのだという。
「口止め料代わりに何か言うことを一つ聞いてやろう」
リエールは俺を試すような表情でそう告げた。これは願ってもないチャンスなのではないだろうか、帝国の宮廷魔導士に魔法を教わるなんてそうそうできることではないだろう。
「魔法を教えてほしいです」
「いいだろう、但し才能があったらの話だけどねえ」
そう言ってリエールは押し入れのようなところからボーリング玉ぐらいの大きさの水晶玉のようなものを持ってきた。
「これに手を置きな、そしたらそうすればユウ坊のあり様がすべて映し出される」
そういわれ俺は水晶に手を置いた。すると赤黒い光が水晶からあふれ出した。
「ほぉ珍しい、火と闇の複数属性持ちか。魔力量もBクラスと悪くないさね。」
この水晶は色相魔水晶と呼ばれるものでその性質から、その人使える属性と魔力保有量を見るのにつかわれるそうだ。属性はその色で、魔力量は光の強さでA~Gクラスの7段階で見ることができる。
ちなみに魔力量はある程度増やすことは可能だが、大きくは変えられないそうだ。聞いたところによるとポ○モンの努力値ぐらいだそうだが今はそんなことどうでもいい。
「じゃあ僕魔法を使うことができるんですか?」
俺はその事実に感動していた。確率でいうと単発で限定SSRをぶち抜いたのだ。興奮はその日ではないが、
「ああ。まあそれなりの努力はいるけどね」
「魔法を使えるようになれるなら何でもします」
「いい威勢さね、私がみっちり鍛えてやるよ」
「リエールおばさん、これからよろしくお願いします」
「これからは師匠とお呼び」
「はい、師匠」
それからリエールとの子弟の関係が始まった。
「今日はもう夕方だから帰りな」
そう言われ明日からのことに胸を躍らせながら、家を出るとすぐに、
「あ、やっと見つけた。またずっと本を読んでたのかな?」
と声をかけられた。声のする方へ向いてみると女の子が一人立っていた。彼女はテトラ。この村に住んでいて俺と同い年の女の子で、ここ3年よく一緒に遊んだりしている。まあ俺は実際30年ぐらい生きているので、おもりみたいなものなのだが、、、。
彼女の髪はオレンジ色で闘神の加護を受けており、速力に補正がかかっている。
それもあってかとても活発で明るく、昼間はよくいろんな遊びに連れまわされる。
「あれかな?もしかして私より本が好きなのかな?結婚の約束までしたのにどうゆうことかな?」
先月遊んでいたときに、「大きくなったら私と結婚してくれる?」と言われ、幼い娘に「大きくなったらお父さんと結婚する」と言うようなものだろうと思って、2つ返事でOKした。
それ以来テトラの様子が少しおかしい気がするが、小さい子供は日々目覚ましく成長、変化していくしていくものなので、そのようなものだろうとあまり気には留めていない。
「もちろんテトラの方が大事だよ」
と頭をなでながら答えた。俺にもし前世で子供がいたとしたらこんな感じだったのだろうか。
「それならいいかな。でも目移りしたら許さないかな」
今日はもう遅くて遊べないので、明日遊ぶ約束をしてそのままテトラと別れてご飯を作って待っているであろう両親のもとに帰った。
「ただいま~」
「おかえり」
「おかえり」
「にぃにおかえり~」
3人目におかえりと言ってくれたのは、俺の妹のアイラだ。俺が4歳の時に生まれたので、今年で2歳になる。作物の収穫期などの両親が忙しいときは俺が妹の面倒を見ている。俺は前世で兄はいたが妹はおらず、ずっと欲しかったのでにぃにと呼ばれるのは正直めちゃくちゃ嬉しい。
妹の髪は水色をしている。つまり青と白が混ざっており、魔導神と精神神の加護を受けている。精神神って神が2回続いて変に聞こえるかもしれないが、キンシャル語だと特に違和感なく聞こえる。
加護の効果は精神力が上がるというもので、魔導神の魔力量が増えるという加護と合わせるととても魔法使いに向いていると言える(妹に才能があるかは分からないが)。
俺はパンとスープの夕食を食べた終えると、家族で談笑をした後布団に入って眠りについた。明日からのことを楽しみに考えながら。
読んでいただいてありがとうございます。次も読んでいただけると嬉しいです。